脳転移のある進行乳がんでツカチニブ+トラスツズマブ+カペシタビンが有益
MDアンダーソン研究ニュース 2026年3月18日
● 髄膜播種とは、がんが脳や脊髄を囲む薄い組織層や髄液層に転移した状態を指す
● 髄膜播種に対する治療法は限られており、予後が不良な場合が多い
● 第2相試験において、分子標的療法と化学療法の併用が安全かつ有効であることが確認された
髄膜播種(LM)を有する患者は、これまで治療選択肢が限られていた。しかし今回、テキサス大学MDアンダーソンがんセンターの研究者らは、分子標的治療薬であるツカチニブ(販売名:ツカイザ)とトラスツズマブ(販売名:ハーセプチン)に加え、化学療法薬カペシタビン(販売名:ゼローダ)を併用することで、髄膜播種を有する一部の乳がん患者において症状の改善および生存期間の延長が期待できる可能性を明らかにした。
本日Nature Cancer誌に掲載された第2相試験には、新たに髄膜播種(LM)かつHER2陽性乳がんと診断された女性患者17人が対象となった。併用療法を受けた患者の全生存期間(OS)の中央値は、従来の平均4.4カ月から10カ月へと延長した。18カ月時点で、患者の41%が生存していた。また、この併用治療により病勢進行も抑制され、中枢神経系での進行までの期間の中央値は7カ月であった。さらに、評価可能な12人の患者のうち7人において、神経学的障害の改善も認められた。
「この併用療法は、過去の対照群と比較して、全生存期間において臨床的に意義のある改善をもたらしました」と、筆頭著者である乳腺腫瘍内科准教授のRashmi Murthy医師は述べた。「治療選択肢が限られていることが多いこれらの患者さんにとって、今回の結果は前進を示すものであり、髄膜播種の治療と管理方法に新たな希望をもたらすものです」。
なぜ髄膜転移の患者に対する治療法は限られているのか
髄膜播種の治療が困難な主な理由は、血液脳関門によって薬剤が転移細胞の存在する脳脊髄液に到達できない可能性があるためである。さらに、髄膜播種は固形腫瘍ではなく、髄液中に存在する転移細胞から構成されているため、標的とするのがより困難となる。また、この特定の疾患に関する研究はこれまでほとんど行われていない。
「今回の研究では、生存期間に関する有望な結果に加えて、神経症状の改善も確認されました」と、共同筆頭著者で神経腫瘍学准教授のBarbara O’Brien医師は述べた。「乳がんの髄膜播種に対する治療は、これまで症状の改善よりも病状の安定化に重点が置かれてきました。そのため、今回の結果は特に意義深く、心強いものです」。
この併用療法における各治療薬は、どのように作用するのか
ツカチニブは、HER2タンパクを阻害する分子標的薬であり、一部の乳がんの増殖を抑制する。トラスツズマブは、がん細胞上のHER2タンパクに結合する抗体薬であり、免疫系によるがん細胞の破壊を促進する。最後に、カペシタビンは、体内で5-フルオロウラシル(5-FU)に変換され、増殖の速いがん細胞を死滅させる化学療法薬である。
この単群、非ランダム化、多相試験は、米国の4施設(UT MDアンダーソンを含む)で患者を登録した。対象患者は、18歳以上で、組織学的にHER2陽性転移乳がんが確認された患者である。これらの患者には、21日サイクルで、ツカチニブ(300 mg)を1日2回経口投与し、カペシタビン(1000 mg/m2)を1日2回、1~14日目に経口投与し、さらに21日目にトラスツズマブ(6 mg/kg)を静脈内投与する治療が行われた。
この研究のその他の重要な知見は何か
副作用には、下痢、悪心、嘔吐、手足症候群、および肝機能検査値の上昇が認められた。ほとんどの副作用は、適切な治療と投与量の調整により改善または解消した。1人の患者では、1サイクル後にアラニンアミノトランスフェラーゼ (ALT)の上昇が認められ、これにより併用療法の中止に至ったが、症状は1カ月後に解消した。
本研究の限界としては、米国食品医薬品局(FDA)による併用療法の承認後、被験者の登録が進まなかったため、試験が早期に終了した点が挙げられる。さらに、HER2陽性転移乳がんに起因する髄膜播種はまれであり、公表されているデータが限られている。その結果、本研究のデザインは、入手可能な少数の後ろ向き研究データに基づいて策定された。
本研究は、トランスレーショナル乳がん研究コンソーシアム(Translational Breast Cancer Research Consortium)およびその提携団体である乳がん研究財団(Breast Cancer Research Foundation)、スーザン・G・コーメン財団(Susan G. Komen)、シーゲン社(Seagen Inc.)の助成を受けて実施された。共著者の全リスト、開示情報、および資金提供元については、Nature Cancer誌に掲載された論文全文をご覧ください。
- 監修 小坂泰二郎(乳腺外科/JA長野厚生連 佐久総合病院 佐久医療センター)
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- 原文掲載日 2026/03/18
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