【ASCO26】GLP-1受容体作動薬が特定の肥満関連がんの転移進行を抑制する可能性
ASCOの見解(引用)
「GLP-1受容体作動薬は、単なる血糖降下薬ではありません。その抗炎症作用や免疫調節作用から、以前からより広範な効果が示唆されていました。ここで注目すべきは、腫瘍の種類を問わず一貫した結果が得られている点であり、これほど大規模かつ一貫性のあるデータは、前向き無作為化臨床試験の実施を正当化するものです」と、Marcin Chwistek医師、FAAHPM(Fox Chaseがんセンターの支持療法・緩和ケアプログラム責任者、ASCO専門家)は述べた。
試験概要
| 焦点 | GLP-1受容体作動薬を服用しているステージ1、2、または3のがん患者 |
| 対象者 | 世界各国から12,112人 |
| 主な結果 | ステージ1、2、または3の肺がん、乳がん、大腸がん、または肝臓がんの患者において、GLP-1受容体作動薬を服用することで、ステージ4へ進行するリスクが低下する可能性がある。 |
| 意義 | ・ 米国では約2,900万~4,000万人が糖尿病であり、糖尿病でない人々と比較すると、特定の種類のがんを発症するリスクは1~2倍高い。これは、糖尿病に伴う代謝異常が、高インスリン血症や高血糖、慢性炎症など、がんの増殖を助長する環境を作り出すためである。 ・GLP-1受容体作動薬(GLP-1)とDPP-4阻害薬(グリプチン系薬剤)は、いずれもインスリン分泌の促進や血糖値のコントロールなど、代謝を調節することで糖尿病を管理するが、GLP-1の方がより強力な作用を持つ。また、GLP-1はグリプチン系薬剤よりも強い抗炎症作用も有する。 ・試験によると、GLP-1は、主に大腸がんやその他の肥満関連のがんなど、特定のがんの発症を予防する可能性があることが示唆されている。 ・GLP-1製剤の使用はますます一般的になっており、糖尿病患者の多くががんを併発しているものの、これらの薬剤ががんに及ぼす影響についてはほとんど知られていない。一部の試験では、がんの発症リスクを低下させる可能性があることが示されている。研究者らは、すでにがんを患っている人において、GLP-1製剤ががんの転移を防ぐことができるかどうかを調べたいと考えた。 |
実世界データによると、GLP-1受容体作動薬(GLP-1)は、肺がん、乳がん、大腸がん、肝臓がんといった特定の肥満関連がんの転移進行を抑制する可能性があることが示されている。さらに、GLP-1受容体(GLP-1R)の発現は全生存期間と関連しており、GLP-1シグナル伝達がこれらのがんの進行に関与している可能性が示唆されている。本試験結果は、2026年5月29日~6月2日までシカゴで開催される米国臨床腫瘍学会(ASCO)年次総会で発表される。
試験について
本試験では、実世界データを用いて、GLP-1受容体作動薬とDPP-4阻害薬(グリプチン系薬剤)が、7種類の肥満関連がん(乳腺腺がん、前立腺がん、非小細胞肺がん、大腸腺がん、肝細胞がん、腎細胞がん、膵管腺がん)の進行に及ぼす影響を比較した。研究者らは、GLP-1受容体作動薬を服用した患者が、グリプチンを服用した患者に比べて転移性がんへ進行するリスクが低いかどうかを明らかにすることを目的とした。本試験には、TriNetXデータベースに登録され、これら7種類のがん(ステージ1、2、または3)のいずれかを有する患者12,112人の医療記録が含まれた。参加者のうち、白人が約55%~60%、黒人またはアフリカ系アメリカ人が20%~25%、アジア系が10%~15%であった。参加者の半数はがん診断後にGLP-1受容体作動薬(リラグルチド、プラムリンチド、デュラグルチド、ティルゼパチド、リキシセナチド、またはセマグルチド)の服用を開始し、残りの半数はグリプチン系薬剤の服用を開始していた。本試験では、両群においてステージ4がんへ進行した患者数を比較した。
研究者らはまた、GLP-1システム自体がこれらのがんの挙動に何らかの役割を果たしているのかを理解したいと考えていた。これまでの研究では、腫瘍細胞におけるGLP-1受容体(GLP-1R)の発現が、一部のがん種では全生存期間の延長と関連している一方、他のがん種では生存期間の短縮と関連していることが示されている。この疑問に答え始めるため、研究者らは「がんゲノムアトラス(The Cancer Genome Atlas)」のデータを分析し、7種類のがんについて、腫瘍におけるGLP-1Rの発現と全生存期間を比較した。
主な知見
・ 7種類のがんのうち4種類(非小細胞肺がん、乳腺腺がん、大腸腺がん、肝細胞がん)において、GLP-1受容体作動薬を服用した人は、グリプチン系薬剤を服用した人と比べて、ステージ4のがんを発症するリスクが38%~50%低かった。これら4種類のがんにおいて、GLP-1群ではグリプチン群よりも転移の発生率が低かった:
◎ 非小細胞肺がん:10%(GLP-1)対 22%(グリプチン)
◎ 乳腺腺がん:10% (GLP-1)対 20%(グリプチン)
◎ 大腸腺がん:13%(GLP-1) 対 22%(グリプチン)
◎肝細胞がん:19%(GLP-1) 対 28%(グリプチン)
・ その他の3種類のがん(前立腺がん、膵管腺がん、腎細胞がん)については、GLP-1群の方がグリプチン群よりも転移の発生例が少なかったが、統計的有意差はなかった。
・ 全体として、腫瘍におけるGLP-1受容体(GLP-1R)の発現レベルが高い場合、発現レベルが低い場合に比べ、死亡リスクが33%低かった。これは特に乳がんにおいて顕著であり、リスクは45%低下した。GLP-1Rの発現レベルが高いことと生存率の改善との関連性は、GLP-1の作用がこれらのがんに対して保護的である可能性を示唆しており、ひいてはGLP-1製剤にも保護効果があることを示唆している。
GLP-1群とグリプチン群における有害事象は類似していた。胃や膵臓の炎症の発生率については、GLP-1の使用やがんに関連しているにもかかわらず、グリプチン群と比較してGLP-1群は低かった。
「本試験では、GLP-1受容体作動薬の使用は、DPP-4阻害薬やその他の抗糖尿病薬と比較して、4種類の固形がんにおいてがんの進行が有意に抑制されることに関連していることが明らかになりました。これは、今後の研究を進める価値があることを示す初期の証拠となります」と、本試験の筆頭著者であり、オハイオ州クリーブランドにあるクリーブランド・クリニック、Taussig Cancer InstituteのMark David Orland医師は述べた。
次のステップ
今後の研究では、GLP-1がどのようにがんの進行を抑制しているのかが検討される予定である。例えば、がん細胞やそれを支える細胞に対して直接増殖を止めるよう指示したり、免疫系やがん細胞への攻撃メカニズムに影響を与えたり、炎症を軽減したり、あるいはがん細胞のエネルギー供給経路を変化させたりすることで、その作用が発揮される可能性がある。
さらに、研究者らはがん患者を対象としたGLP-1製剤の無作為化比較試験を実施したいと考えており、これによりGLP-1とがんの進行との関連性について、より強力な証拠が得られることになるだろう。
本試験には外部からの資金提供はなかった。
- 記事担当 平 千鶴
- 監修 加藤 恭郎(緩和医療、消化器外科、栄養管理、医療用手袋アレルギー/天理よろづ相談所病院 緩和ケア科)
- 原文を見る
- 原文掲載日 2026/05/22
【免責事項】
当サイトの記事は情報提供を目的として掲載しています。
翻訳内容や治療を特定の人に推奨または保証するものではありません。
ボランティア翻訳ならびに自動翻訳による誤訳により発生した結果について一切責任はとれません。
ご自身の疾患に適用されるかどうかは必ず主治医にご相談ください。
乳がんに関連する記事
液体生検、代謝リスク、アジア人向け個別化治療【ASCOブレイクスルー会議2026】
2026年6月1日
米FDAが一部の進行/転移乳がんにベプデゲストラントを承認
2026年5月13日
BRCA1/2変異保持者で、予防的乳房切除は生存上の利点なし
2026年5月8日
脳転移のある進行乳がんでツカチニブ+トラスツズマブ+カペシタビンが有益
2026年4月23日
● 髄膜播種に対する治療法は限られており、予後が不良な場合が多い
● 第2相試験において、分子標的...




