【ASCO2025】AI支援でHER2低発現/超低発現乳がんの特定精度が向上、誤分類を回避

ASCOの見解(引用)

「正確なHER2スコアリングは、患者が最善の乳がん治療を受けられるようにするために重要です。この国際研究は、AIを活用したアプローチが、治療決定に影響を与えるような状況を含め、HER2スコアリングを改善したことを示しています。今回の知見は、腫瘍学におけるAIの有望な役割を明らかにしています。それは医師の代わりとしてではなく、高品質でより個別化されたケアをより賢くかつ迅速に提供するための強力なツールとしての役割です」と、Julian Hong医師(理学修士)は言う。同医師は、カリフォルニア大学サンフランシスコ校、放射線腫瘍情報学准教授兼医療ディレクターであり、ASCO人工知能エキスパートである。

研究要旨

焦点ヒト上皮成長因子受容体2(HER2) 低発現またはHER2超低発現の乳がん
対象者アジアおよび南米の10カ国から、105人の病理学者
主な結果HER2評価時に人工知能(AI)ツールを使用することで、病理医によるHER2低発現乳がんおよびHER2超低発現乳がんの同定精度を向上させ、これらの腫瘍をHER2-null(発現なし)と誤分類する割合を減少させることができる。
意義・乳がんの少なくとも55%はHER2低発現であり、10%はHER2超低発現である。

・ここ数年で、HER2を標的とする新たな抗体薬物複合体(ADC)を用いる治療法が導入されたことで、典型的なHER2陽性乳がんだけでなく、HER2発現レベルが低い乳がんも検出することが重要になっている。

・HER2低発現乳がんを一貫して検出することは難しい場合がある。病理医たちの診断は症例の約3分の1で一致せず、多くのHER2低発現およびHER2超低発現乳がんが、HER2‑null(HER2発現がまったくない)として誤分類されている。

・診断を誤ると、患者は延命につながる可能性のある治療を受けられなくなることもある。本研究では、病理医の研修中にAIツールを使用することで、読み取りが難しいスライドの診断精度を向上させることができるかを検証する。

多国籍研究の結果、人工知能(AI)の活用により、病理医はHER2発現レベルが低い乳がんをより正確に分類し、HER2低発現およびHER2超低発現の腫瘍をHER2-nullと誤分類するリスクを低減できることが明らかになった。これにより、HER2低発現またはHER2超低発現の乳がん患者のより多くが、転帰改善につながるHER2標的療法という選択肢を得ることになる。この研究は、5月30日から6月3日までシカゴで開催される2025年米国臨床腫瘍学会(ASCO)年次総会で発表される。

研究について

「かつてHER2陰性と呼ばれていた乳がんの約65%は、実際にはある程度のHER2発現を示しており、現在ではHER2低発現またはHER2超低発現乳がんというサブグループに分類される。これらの腫瘍の一部はHER2標的薬で治療可能であるが、それは医師がHER2発現レベルを検出した場合に限られる。本研究は、人工知能が重大な診断ギャップを埋め、最近までこれらの選択肢がなかった大多数の患者にとって、抗体薬物複合体などの新しい治療法への道を開くことができるという、初めての多国間エビデンスを示している」と、本研究の筆頭著者であるMarina De Brot医学博士(ブラジル サンパウロ、A.C.カマルゴがんセンター)は述べる。

病理医にとって、がん組織サンプル中のHER2タンパク質を探す従来の免疫組織化学(IHC)検査法によって、HER2低発現およびHER2超低発現乳がん症例でHER2タンパク質発現を正確に識別することは、困難で時間のかかる作業である。IHCとは別のin situハイブリダイゼーション(ISH)は、標識プローブを用いて細胞または組織内の特定の核酸配列を特定する手法である。HER2低発現乳がんは、HER2 IHCスコア1+または2+/ISH陰性である。HER2超低発現乳がんは、膜染色を認め、IHCスコア0である。正確な診断は主に、異常を検出する人間の目による正確さに依存する。経験豊富な乳がん病理医の間でも、HER2超低発現乳がんの約3分の1は、誤ってHER2-nullと分類されることがある。HER2-nullと判定された患者には、腫瘍専門医は通常、抗体薬物複合体を用いたHER2標的療法を勧めない。

本研究では、研究者らはAI支援型デジタル トレーニング プラットフォーム「ComPath Academy」を活用し、病理医による乳がん検体のHER2スコアリングを支援した。研究には、アジアと南米の10カ国から105人の病理医が参加し、20例のデジタル乳がん症例について、AI支援がある場合とない場合の両方でHER2評価を行うという課題を課された。

病理医は5回のセッションで、3回の別々の試験で合計1,940回の読み取りを行った。AIによる支援は3回目の試験でのみ提供された。その後、読み取り結果を中央リファレンスセンターのground-truth(検証済みの真のデータ)IHCスコアと比較した。ground-truthスコアは、HER2 IHC染色された組織サンプルを独立して評価・スコアリングする複数の専門病理医の合意に基づいて算出され、HER2乳がんのステータスを判定するためのゴールドスタンダードとして確立されている。

主な知見

本研究では、AI 支援を用いた場合、次のような結果が得られた。

  • スコアリング感度は約76%から90%に向上し、病理医と中央基準スコアとの一致は約13%向上した。AI支援を利用した場合、病理医と中央基準スコアの平均一致率は89.6%であったのに対し、AI支援を利用しなかった場合は76.3%であった。
  • 各症例をHER2陽性、HER2低発現、HER2超低発現、またはHER2-nullと病理医が正しく識別する精度も約22%向上した。症例の分類精度は、AI支援なしの66.7%からAI支援ありの88.5%に向上した。
  • AI支援により、HER2超低発現症例がHER2-nullと誤分類される例が25%以上減少した。病理医がAI支援を利用した場合、読み取りの誤分類はわずか4%であったのに対し、AI支援を利用しなかった場合は、読み取りの29.5%が誤分類された。

次のステップ

研究者らは、AIツールを日常診断に組み込み、HER2低発現およびHER2超低発現乳がん患者における治療選択肢の変更や治療開始までの期間など、その後の臨床効果を測定する多施設共同の導入研究を計画している。

本研究はAstraZeneca社の資金提供を受けた。

  • 監修 高光恵美(生化学、遺伝子解析)
  • 記事担当者 山田登志子
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  • 原文掲載日 2025/05/23

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