【ASCO26】 一部の卵巣がんにおいて、化学療法前後の断食は治療効果を高める可能性
ASCOの見解(引用)
「化学療法中の断食は、研究上の関心が高まっている分野です。このパイロットランダム化臨床試験では、各化学療法サイクルの前後に行う短期断食が、3サイクルの術前化学療法後にインスリン値の低下をもたらし、卵巣がん患者の病理学的奏効および無増悪生存期間の改善につながることが示されました。本研究は小規模なものですが、その結果は有望であり、これまでのデータを裏付けるもので、がん研究における有望な分野を浮き彫りにしています。今後は、これらの結果をさらに発展させるために、より大規模な臨床試験が必要となります」と、Eleonora Teplinsky医師(Valley-Mount Sinai Comprehensive Cancer Care 乳がん・婦人科腫瘍内科部長、ASCO[米国臨床腫瘍学会]婦人科がん専門家)は述べた。
試験概要
| 焦点 | 高悪性度漿液性卵巣がん(HGSOC) |
| 対象者 | イタリア、ローマ在住36人 |
| 主な結果 | HGSOC患者において、化学療法前後の断食は、インスリン値の低下につながり、通常の食事を摂る場合と比較して治療効果を高める可能性がある。 |
| 意義 | ・ 卵巣がんは米国では多くみられるがんではないが、女性生殖器がんの中では最も多くの死亡原因となっている。高悪性度漿液性卵巣がん(HGSOC)は卵巣がんの中で特に多くみられるタイプであり、卵巣がんによる死亡の70~80%を占めている。 ・ 高悪性度漿液性卵巣がん(HGSOC)は、多くの場合、進行した段階で診断される。進行卵巣がんの患者では、通常、腫瘍を切除する手術に加え、手術前後に化学療法が行われる。しかし、治療を受けた患者の多くでは、2年以内にがんが再発する。 ・ 研究によると、ホルモンの一種であるインスリンが、がんの増殖を促進し化学療法の効果を弱める可能性が示されている。断食はインスリン値を低下させることが知られている。本研究では、化学療法中の断食が、HGSOC患者の治療効果を高めるかどうかを明らかにしようとした。 |
イタリアで実施された新たな研究によると、化学療法の前後に断食を行うことで、通常の食事を摂る場合と比べてインスリン値の低下に役立ち、高悪性度漿液性卵巣がん(HGSOC)患者の治療効果を高める可能性があることが明らかになった。本研究結果は、5月29日~6月2日にシカゴで開催される2026年米国臨床腫瘍学会(ASCO)年次総会で発表される。
試験について
「手術や化学療法の進歩にもかかわらず、進行卵巣がん患者の予後は依然として不良です。このことは、治療効果を高め、患者の予後を改善できる、安全で低コストかつ容易に実施可能な戦略が緊急に必要であることを示しています」と、本研究の筆頭著者であるClaudia Marchetti医師(Fondazione Policlinico Universitario Agostino Gemelli イタリア、ローマ)は述べている。
このパイロット研究では、高悪性度漿液性卵巣がん(HGSOC)患者における断食がインスリン値および化学療法の効果に与える影響について検討した。対象は、ローマ在住でステージ3または4のHGSOCで治療を受けている36人であった。参加者の平均年齢は62歳で、ほぼ全員が全身状態が良好であり、日常の活動を自力で行える状態であった。
参加者は、腫瘍を切除する手術を受ける前に、カルボプラチンとパクリタキセルによる化学療法を3コース受けた。化学療法開始前に、参加者は無作為に2つのグループに割り当てられた。1つは化学療法の36時間前から24時間後まで断食するグループ(18人)、もう1つは治療期間中も通常通り食事を摂るグループ(18人)である。断食群の参加者は、水やハーブティーは好きなだけ摂取でき、野菜ジュースは2リットルまで、そして少量のあっさりとした野菜スープを摂取することができた。ただし、断食中の摂取カロリーは1日350キロカロリーを超えてはならなかった。化学療法のセッションの間は、通常どおり食事を摂っていた。
主な知見
● 断食は、化学療法を3サイクル受けた後のインスリン値の低下と関連していた。断食群では、インスリン値は平均で1mLあたり1.12マイクロ国際単位(μIU/mL)低下した。これに対し、対照群ではインスリン値が9.76 μIU/mL上昇した。
● 断食は化学療法への反応を向上させた。最初の化学療法のコース終了後、手術前の段階で、断食を行った患者の5人に3人が完全奏効またはそれに近い奏効(化学療法反応スコア3)を示し、腫瘍が治療に非常に良く反応したことが示された。これに対し、対照群では5人に1人未満しか同程度の反応を示さなかった。
● 約18カ月後のデータに基づき、研究者らは、断食を行った参加者は3年以上がんの再発がない状態を維持できるのに対し、対照群では約2年にとどまると結論付けた(無増悪生存期間の中央値は、それぞれ38カ月対24カ月であった)。
● 断食は、化学療法の効果を高める可能性を示す身体の変化と関連しており、断食群では腫瘍の進行を促進する特殊な免疫細胞が減少していた。
断食群の参加者は全員、治療を完了した。本研究で特に多く見られた副作用は、血球数とヘモグロビン値の低下であり、これは化学療法でよく見られる症状である。これらの副作用は、両群でほぼ同数の参加者に発生した。
次のステップ
研究者らは、断食が体にどのような変化をもたらすかを解明するため、引き続きデータ解析を進めている。さらに、それらの変化が免疫系やがん治療の効果とどのように関連しているかを明らかにしたいと考えている。また、断食やその他の食事療法ががん治療にどのような影響を与えるかをより深く理解するため、より大規模な臨床試験の実施を目指している。
本研究は、民間からの資金提供を受けずに実施された非営利の研究である。
- 記事担当 青山真佐枝
- 監修 下村昭彦(腫瘍内科/国立国際医療センター乳腺・腫瘍内科)
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- 原文掲載日 2026/05/22
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