免疫療法薬後の腎がん脳転移は免疫抑制による腫瘍微小環境が関連か

米国癌学会(AACR)

脳転移の治療標的の特定にシングル核RNAシーケンスと空間トランスクリプトームを適用した研究

腎細胞がん患者の脳転移には全く異なる遺伝子発現プログラムがあり、原発腫瘍や他臓器への転移と比較して、抗腫瘍免疫細胞の浸潤が低かった。この研究結果は4月14日~19日開催の2023年米国がん学会(AACR)年次総会で発表された。

本研究の発表者であるテキサス大学MDアンダーソンがんセンターの腫瘍内科フェローであるElshad Hasanov医学博士は以下のとおり述べている。「最近の研究では、免疫チェックポイント阻害薬を投与した腎細胞がん患者の25%以上で脳転移が起こる可能性が示唆されています。

免疫チェックポイント阻害薬を投与した患者の進行時に、脳は一般的な転移部位になってきました。これは、脳が免疫特権のある臓器であることから、腫瘍細胞が免疫療法薬の活性から逃れられる可能性があるためかもしれません」。Hasanov氏はこう説明し、腎細胞がんが脳に転移した患者は治療反応率が低く、転帰が悪化することもつけ加えた。

「このような患者に対してより良い治療法を開発するためには、まず脳転移の生物学を理解し、脳における免疫抑制を促進している因子を特定する必要があります」。

本研究では、Hasanov氏らは、MDアンダーソン、Emory大学、トルコのHacettepe大学の研究者と共同で収集した腎細胞がん患者の組織サンプルを用いて、脳転移の腫瘍微小環境について、原発腫瘍および他の転移部位の腫瘍微小環境と比較した。

採取したサンプルは、保存のため凍結またはホルマリン固定パラフィン包埋(FFPE)した。凍結サンプルには脳転移14例と対応する原発性腎臓腫瘍8例と頭蓋外転移5例、FFPEサンプルには脳転移57例が含まれた。本研究では、凍結サンプルのシングル核RNAシーケンスとFFPEサンプルの空間トランスクリプトームを組み合わせて、遺伝子発現と細胞間相互作用の特徴を明らかにした。

解析の結果、原発腫瘍や頭蓋外転移と比較して、脳転移では腫瘍微小環境への神経細胞やグリア細胞の浸潤が大きいことが明らかとなった。これまで、これらの脳細胞と腫瘍細胞との相互作用が、がんの増殖や転移を促進することが示されている、とHasanov氏は説明する。また、神経細胞やグリア細胞と免疫細胞との相互作用は、既知の免疫抑制性リガンド-受容体相互作用を通じて、抗腫瘍免疫活性を抑制する可能性があることが確認された。

脳転移の腫瘍微小環境は、原発腫瘍や頭蓋外転移に比べて、T細胞、メモリーB細胞、樹状細胞、単球の増殖が少なかった。また、脳転移のT細胞は他の部位のT細胞に比べて免疫チェックポイントタンパク質を多く発現し、脳内のマクロファージは免疫を抑制するM2の遺伝子シグネチャーを発現する傾向が高かった。

さらに、脳の腫瘍細胞は、マクロファージの免疫抑制作用を促進する血清アミロイドA1の発現量が多く、VEGFRやFGFR4の成長促進タンパク質の活性が高く、MYC標的遺伝子や、mTORC1シグナル、上皮間葉転換、脂肪酸代謝、酸化的リン酸化、活性酸素への反応に関わる遺伝子など脳の環境に適応できるようにする遺伝子発現も多くなることがわかった。

「本研究で、シングル核RNAシーケンスと空間トランスクリプトームには、疾患生物学の側面を明らかにする力があることが浮き彫りになっています」とHasanov氏は述べている。「今回の解析で明らかになった免疫抑制という特徴は、脳に転移した腎細胞がん患者のバイオマーカーや治療標的となる可能性を秘めています。本研究で得られた知見が、このような患者に対するより良い治療法の設計の一助となることを願っています」。

Hasanov氏らは、本研究の結果に基づき、脳転移を有する腎細胞がん患者に対して、レンバチニブ(販売名:レンビマ)(VEGFR、FGFR4、その他の複数の受容体型チロシンキナーゼの阻害剤)とペムブロリズマブ(販売名:キイトルーダ)を併用する多施設共同試験を開始する予定である。このレジメンは現在、転移性腎細胞がん患者の一次治療として承認されているが、この併用療法を試験した先行試験には、活動性の脳転移を有する患者は含まれていなかったとHasanov氏は指摘する。Hasanov氏は今後、前臨床試験と臨床試験を行い、脳転移の腫瘍微小環境における腫瘍標的薬と免疫チェックポイント阻害薬のさまざまな組み合わせが、免疫抑制を克復するのに役立つかどうかを明らかにする予定である。

本研究の限界は、後ろ向きの設計であることと、症例数が少ないことである。さらに、すべての脳転移は開頭手術前にデキサメタゾンの投与を受けた患者から得られたものであり、これが結果に影響を与えた可能性がある。しかし、Hasanov氏は、デキサメタゾンは脳転移のある患者にとって一般的な治療であるため、今回の結果はほとんどの患者の微小環境を反映している可能性があると指摘している。

本研究は、Kidney Cancer Association  Young Investigator Award(2021)、International Kidney Cancer Coalition Cecile and Ken Youner Scholarship(2021)、Society of Immunotherapy of Cancer-Nanostring Single Cell Biology Award(2022)、Cancer Prevention and Research Institute of Texas(RP180684)の支援を受けている。Hasanov氏は、Conquer Cancer Foundation、Kidney Cancer Association、International Kidney Cancer Coalition、Society for Immunotherapy of Cancerから研究資金、Targeted Oncologyから謝礼の提供を受け、Telix Pharmaceuticalsの顧問を務めている。

  • 監訳 榎本裕(泌尿器科/三井記念病院)
  • 翻訳担当者 瀧井希純
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  • 原文掲載日 2023/04/18

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