前立腺がんホルモン療法へ化学療法追加で患者のQOL改善

専門家の見解

「本試験は進行前立腺がん患者にとって重要な一歩前進です。既存の治療に、QOL(生活の質)および費用対効果を評価する新たな観点が追加されるからです。これらの結果が長期試験に登録した何千人もの患者にみられたという事実は、その知見が長期にわたって持続するだろうという、われわれの確信を裏付けています」と、米国臨床腫瘍学会(ASCO)専門員で、本日のpresscast(インターネット生放送による記者会見)の司会をつとめるSumanta K. Pal医師は語った。

現在進行中のSTAMPEDE臨床試験に関する新たな分析から、進行前立腺がんのホルモン療法に化学療法剤ドセタキセルを追加することによってQOLが改善され、その後の治療の必要性が減少することが判明した。また、ドセタキセルは費用対効果がよいことがわかった。これらの知見は、カリフォルニア州サンフランシスコで近日開催される2018年ASCO泌尿器がんシンポジウムで発表される予定である。

「非転移性前立腺がん患者にとっては、ホルモン療法にドセタキセルを追加することにより、再発リスクが40%減少したため、QOLの改善、および再発したがんの治療にかかる費用の節約の両方が実現します。ドセタキセルが転移性前立腺がん患者の生存期間を延長させることは既知のことですが、非転移性前立腺がんにおける、こうしたQOLの改善、必要な後続治療の減少とそれに伴う費用削減は、いささか驚くべきもので、臨床医が前立腺がんの治療にドセタキセルを使用する方法と時期を再考するきっかけとなるでしょう」と英国バーミンガム大学の臨床腫瘍学教授である、筆頭著者Nicholas D James医学博士は語った。

試験について

STAMPEDE (Systemic Therapy in Advancing or Metastatic Prostate Cancer: Evaluation of Drug Efficacy:進行性または転移性前立腺がん全身療法の薬効評価)試験は2005年10月から現在に至るまで、進行した(非転移性および転移性)前立腺がん患者9,000人以上を登録しており、前立腺がんを治療する十数種類のさまざまな薬剤を試験してきた。

2016年の分析結果によれば、ドセタキセルを投与した患者592人は標準治療を受けた患者と比較して、生存期間が平均10カ月長かった。今回の試験報告は、ホルモン療法にドセタキセルおよびプレドニゾロンを追加した治療をホルモン療法単独治療(標準療法)と比較して、健康に関連するQOLおよび費用対効果を調査する医療経済性分析結果である。

欧州で一般的に使われている標準的な自己報告ツール(EuroQol EQ-5D)を用いて、研究者は試験参加者に自己の健康に関する5項目を5点満点で評価するように依頼した。5項目とは、身体可動性、自分自身でケアできる程度、日常生活を行う能力、痛みや不快感のレベル、および不安やうつ状態のレベルである。これらの報告に基づき、著者らは患者の変化を以下の指標で具体的に評価 することができた。

• 予測される生存期間

• 質調整生存年(QALY)(生活の質と生存期間を評価する値で、1QALYは1年間完全に健康であること)

• 増分費用対効果(これもQALYに基づき、薬物治療の費用対効果を評価する値)

主な知見

がんが骨盤外の臓器に転移した転移性前立腺がん(M1疾患)患者に関しては、ドセタキセルを投与した場合、予測生存期間はホルモン療法のみを行った患者と比較して0.89年長く、QOLは0.51年長く保たれた。非転移性前立腺がん(M0)患者に関しては、ドセタキセルを投与した場合、予測生存期間は0.78年長く、QOLの維持は0.39年長く保たれた。

「われわれが苦労した主な側面の一つは正確にQOLを測定する方法でした。治療による困難な副作用を伴ってでも孫をみたさに、数カ月長く生きたいと望む患者の場合、生活の質はどのように評価すればよいでしょうか?悪心や倦怠感をはじめとする副作用の心配があるとしても、再発を予防するか遅らせることは、化学療法の顕著な毒性より重きが置かれ、全般的なQOLを十分に向上させるため、ドセタキセルを用いることは利益があります」とJames医師は語った。

標準治療レジメンにドセタキセルを追加することが、非転移性および転移性の前立腺がんの両方に費用対効果がよいことも判明した。英国ではドセタキセル投与の年間費用は1 QALYあたり約5,000英国ポンド(およそ6,750米国ドル)になると研究者は推定する。研究者の指摘によれば、米国で再発の遅延か予防により可能な費用節約効果は、米国での薬価が高いため、英国を上回るとは言わないまでも同程度になるはずである。

次の段階

STAMPEDE試験が開始されて以来、複数の新規薬剤が市場に出回っており、その一つである、経口ステロイド合成阻害薬アビラテロンは米国食品医薬品局から2011年に承認を受けた。アビラテロンはSTAMPEDE試験で検証されており、著者らは2018年内にこの薬剤療法に関する費用対効果およびQOL評価について報告する予定である。

研究者によれば、ドセタキセルは英国の国民保健サービスによっていまだに使用が義務付けられているが、米国も含め、ほかの国では、アビラテロンまたはドセタキセルのいずれかの選択は明確にはなっていない。特に、アビラテロンは錠剤で服用しやすいという要因がある。また、ドセタキセル投与1クールの費用は平均的患者で年間5,000英国ポンドであるのに対して、アビラテロンは24,000英国ポンドかかる。

本試験は英国がん研究所および英国医学研究審議会から助成金を得た。

要約全文はこちら

患者向け情報:

Guide to Prostate Cancer(前立腺がんへのガイド)

Understanding Chemotherapy (化学療法の理解)

翻訳担当者 有田香名美

監修 高濱隆幸(腫瘍内科/近畿大学医学部附属病院)

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原文掲載日 

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