免疫療法薬が“効きにくいがん”を“効きやすいがん”に変える

免疫療法薬が“効きにくいがん”を“効きやすいがん”に変える

免疫療法薬の対象拡大により、より多くの患者の寛解や回復までの期間を短縮できる可能性ーUCSFの研究より

がんに打ち勝つ最善の方法のひとつは、免疫系を活性化させてがんを攻撃することである。

これまで専門家は、免疫療法薬の一種である免疫チェックポイント阻害薬が効果を発揮するには、免疫細胞が腫瘍内に存在していなければならないと考えていた。しかしUCSFによる新たな研究はこれを覆し、さまざまなタイプの腫瘍が免疫を活性化する薬により治療できる可能性を示した。

この研究は、膀胱がんと皮膚がんに関する免疫療法の臨床試験データを再解析したものである。その結果、免疫細胞ががん細胞にまだ入り込んでいない「冷たい」腫瘍は、免疫細胞が入り込んでいる「熱い」腫瘍と同様に、免疫チェックポイント阻害薬に対して脆弱であることがわかった。

マウスでの実験で、放射線療法、免疫療法薬、TGF-βシグナルを遮断する薬剤の併用によってこれらの冷たい腫瘍が制御された。TGF-βシグナルは、腫瘍が免疫系から逃れるために利用している経路である。

この研究結果は3月6日、Journal for ImmunoTherapy of Cancer誌に掲載された。

「2025年現在、さまざまががん治療において優れた選択肢は存在しますが、患者さんにとってどの治療が最も効果的かを判断するのは難しいです」と、 UCSFの放射線腫瘍学教授で論文の上席著者であるMary Helen Barcellos-Hoff博士は言う。「今回の発見によって、より多くの患者さんが免疫療法薬を使えるようになり、寛解と症状緩和までの時間を短縮できるでしょう」

臨床試験データでの意外な発見

通常、TGF-βは免疫反応を抑制し、がんの中にはそれを利用して攻撃を回避するものもある。また、TGF-βは細胞内でDNA修復を促すシグナル伝達の引き金にもなる。Barcellos-Hoff氏は、もしこのTGF-βによるDNA修復機構が弱まれば、一部の腫瘍は免疫療法薬に対してより脆弱になるのではないかと考えた。

「DNA修復に欠陥のあるがんは変異が多く、そのため免疫療法薬が効きやすいのです」「TGF-βはDNA修復を促進するため、TGF-βシグナルが低ければ、免疫療法薬の有力な候補となる遺伝子変異が多い腫瘍が見つかるのではないかと考えました」と、Barcellos-Hoff氏は述べた。

同氏のチームは、膀胱がんと皮膚がんに対する免疫療法薬の過去の臨床試験データを解析した。各腫瘍について、腫瘍内のTGF-βシグナルの程度とDNA修復の程度を評価したβ-alt(ベータ-オルト)スコアを算出し、免疫療法薬が各腫瘍に有効であったかどうかを調べた。

予想通り、β-altが高い(=TGF-βシグナルが低くDNA修復が不十分な)腫瘍は、免疫療法薬に反応して縮小した。しかし、データをさらに深掘りすると、意外な事実が明らかになった。

「β-altが高い腫瘍は炎症を起こし、リンパ球で一杯になっていると予想していましたが、結果はまったく逆でした。β-altが高い腫瘍はリンパ球が少ない、つまり免疫療法薬の対象外とされがちな冷たい腫瘍と高い相関があったのです」と同氏は述べた。

冷たい腫瘍を熱い腫瘍にして、免疫療法薬が効きやすいがんに

この発見は、「免疫療法薬は腫瘍内にリンパ球が存在してこそ効果を発揮する」という従来の考えと矛盾するように思われた。しかし追加実験の結果、患者の利益につなげられる可能性のある免疫シグナルの特異な挙動が明らかになった。

TGF-βシグナルが低下している冷たい腫瘍は、逆説的ではあるが依然としてTGF-βを産生しており、リンパ球の侵入を阻んでいたのである。

これによって、がん治療の新たな可能性が生まれると研究者らは考えた。もし冷たい腫瘍にTGF-β阻害薬を投与すれば、免疫療法薬が腫瘍殺傷性リンパ球を呼び寄せ、腫瘍を破壊できるのではないかと推測した。

マウスでは、TGF-β阻害薬、放射線治療、免疫療法薬の併用で冷たい腫瘍を治療できた。

Barcellos-Hoff氏は、腫瘍専門医ががん診断や治療の過程で収集するデータに基づいて算出するβ-altが、免疫療法薬を処方すべき患者の見極めにつながることを期待している。

「免疫チェックポイント阻害薬はさまざまながんにおいて画期的な成果を上げています。今回の研究から、冷たい腫瘍でも効果があることが明らかになりました。がん治療で最大のリスクは、患者さんに合わない治療法を選んでしまうことです。β-altは、そのミスマッチを大きく減らすことができます」と、Barcellos-Hoff氏は述べた。

本研究の共著者、資金提供元については原文を参照のこと。

原文ページ画像
顕微鏡下の腫瘍:2つの腫瘍サンプルを、リンパ球免疫細胞の存在を可視化するために着色。
上:リンパ球(赤)が存在しない「冷たい」腫瘍。通常は免疫チェックポイント阻害薬による治療の対象外とされるが、今回のUCSF研究は、冷たい腫瘍を免疫療法薬で治療できるようにする方法を示した。
下:リンパ球(赤)が侵入している「熱い」腫瘍。すでに免疫チェックポイント阻害薬による治療の対象とされている。
  • 監修 花岡秀樹(遺伝子解析/イルミナ株式会社)
  • 記事担当者 平沢沙枝
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  • 原文掲載日 2025/04/16

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