【ASCO2025】標準治療へのニラパリブ追加で、一部の転移性去勢感受性前立腺がんの増殖を抑制
ASCOの見解(引用)
「この試験は、転移性前立腺がん患者における診断時の生殖細胞系列・体細胞検査の重要性を強調しています。転移性前立腺がん患者の最大25%に相同組換え修復変異が認められており、本試験はPARP阻害薬による早期介入で転帰が改善する可能性を示しています。去勢抵抗性患者においては、新規ホルモン療法薬とPARP阻害薬の併用がすでに転帰改善を示していますが、相同組換え修復欠損があるホルモン感受性前立腺がん患者において、アビラテロンへPARP阻害薬を追加することによる転帰改善が示唆されたのは、本試験が初めてです」と、Bradley McGregor医師(ダナファーバーがん研究所ランク泌尿生殖器がんセンター、臨床研究部長。ASCO泌尿生殖器がん専門家)は述べる。
試験要旨
焦点 | 相同組換え修復 (HRR) 遺伝子変異のある転移性去勢感受性前立腺がん (mCSPC) |
対象者 | 696人の患者(年齢中央値68歳)を対象とした。患者の半数以上(55.6%)にBRCA1またはBRCA2遺伝子の変異が認められ、大半の患者の腫瘍は悪性度が高いものであった。 |
主な結果 | 標準治療へのニラパリブ追加は、HRR 遺伝子変異のあるmCSPC患者においてがん増殖の抑制に役立つ。 |
意義 | アンドロゲン受容体経路阻害剤の併用によってmCSPC患者の生存率は改善したが、HRR経路にある遺伝子など、特定のゲノム変異があると予後不良につながる。そのため、HRR変異を有する腫瘍に対する治療法はまだ必要である。 ニラパリブは、HRR変異を有する転移性去勢抵抗性前立腺がん(mCRPC)の治療薬として承認されているポリ(ADP-リボース)ポリメラーゼ(PARP)阻害薬である。この承認は、他の治療選択肢で効果が認められなかった患者において、画像に基づく無増悪生存期間(rPFS)および全生存期間(OS)の改善を示したMAGNITUDE試験に基づいている。 この治療薬は、mCSPCに対してはまだ承認されていない。AMPLITUDE試験は、これらの患者におけるニラパリブの評価を目的として設計された。 |
国際共同第3相臨床試験AMPLITUDEの結果から、アビラテロン酢酸エステル(AKEEGA)+プレドニゾン(AAP)の併用療法にニラパリブを追加することで、相同組換え修復(HRR)遺伝子変異を有する転移性去勢感受性前立腺がん(mCSPC)患者においてがん増殖を遅らせることが示された。これらの結果は、HRR遺伝子変異を有するmCRPCに対するニラパリブ+AAP併用療法の米国食品医薬品局(FDA)承認につながった先行試験MAGNITUDE試験の知見に基づいている。本研究は、5月30日から6月3日までシカゴで開催される2025年米国臨床腫瘍学会(ASCO)年次総会で発表される。
試験について
「転移性去勢感受性前立腺がん(mCSPC)は、治療に対する反応が症例によってさまざまである、不均一な疾患です。アンドロゲン受容体経路阻害薬の併用により、この診断を受けた患者の生存率は改善しましたが、HRR経路にある遺伝子などの特定のゲノム変異があると、予後は不良となります。したがって、腫瘍にHRR変異を有する患者のために調整された治療が依然として必要とされています」と、主任研究著者であるGerhardt Attard医学博士(FRCP、英国ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンがん研究所)は述べる。
転移性去勢感受性前立腺がん(mCSPC)の患者の約4人に1人はHRR遺伝子に変異がある。HRR遺伝子の例としては、BRCA1、BRCA2、CHEK2、PALB2などがある。研究により、HRR遺伝子変異を有するmCSPC患者の生存率は低く、mCSPC患者のほとんどが最終的に転移性去勢抵抗性前立腺がん(mCRPC)に進展することが示されている。mCSPCとは、定義によりがんがまだホルモン療法に感受性を示す早期段階の疾患であり、mCRPCはがんがそのような治療法に抵抗性を示すようになった、より進行した疾患である。mCRPCの患者は予後が不良で、治療への反応も不良である場合が多い。
MAGNITUDE臨床試験のこれまでの結果では、PARP阻害薬ニラパリブ+AAP併用療法が、HRR遺伝子変異を有するmCRPC患者のがん増殖を抑制することが示されていた。これらの知見に基づき、FDAは2023年にこれらの患者に対してニラパリブとAAPの併用を承認した。AMPLITUDE臨床試験の目的は、ニラパリブによる同様の効果がmCSPC患者にも認められるかどうかを検討することであった。
この試験には、生殖細胞系列または体細胞系列のHRR遺伝子変異を有するmCSPC患者696人が登録された。試験に参加した患者の年齢中央値は68歳であった。患者が受けていたアンドロゲン除去療法(ADT)による治療は6カ月以下であった。転移性がんがリンパ節外に転移していた場合、患者はドセタキセル6サイクル以下、またはAAP療法45日以下、あるいはその両方を受けていることも認められた。
患者は、ニラパリブ+AAP併用を受ける群(348人)またはAAP+プラセボを受ける群(348人)に無作為に割り付けられた。患者の半数以上(55.6%)にBRCA1遺伝子またはBRCA2遺伝子の変異が認められた。また、ほとんどの患者は、がんがリンパ節に転移している、あるいは診断時にすでに進行期であったなど、悪性度の高い腫瘍であった。
主な知見
中央値2.5年強(30.8カ月)の追跡調査で、以下のことが判明した。
- ニラパリブはプラセボと比較して、画像診断に基づく無増悪生存期間(rPFS)を有意に改善した。ニラパリブを投与された患者においてrPFS中央値は未到達であるが、プラセボを投与された患者ではrPFSの中央値は29.5カ月であった。
- 全体として、ニラパリブは、AAP単独治療と比較して、全患者でがん増殖リスクを37%低下させ、BRCA1またはBRCA2変異のある患者群では48%低下させた。
- ニラパリブを投与された患者はプラセボを投与された患者と比較して、症状が悪化するまでの期間が長かった。
- 研究者らは、ニラパリブ群において全生存率の改善傾向を認めた。しかし、これらのデータはまだ統計学的有意性の基準を満たしておらず、未成熟であった。
重篤な副作用はニラパリブ群でより多くみられた。ニラパリブ群では、重篤または生命を脅かす副作用を経験した患者の割合が75.2%であったのに対し、プラセボ群では58.9%であった。最も多くみられた重篤な副作用は貧血と高血圧であった。副作用のために治療を中止した患者の割合も、ニラパリブ群の方が高かった(15%、プラセボ群は10%)。
次のステップ
今後の研究では、疾患進行のより早期段階におけるニラパリブ+AAP併用の検証に焦点を当てる。また、ニラパリブ+AAPに関して、前立腺がんのさまざまなステージにおいて相補的な作用機序をもつ他の薬剤と併用した場合の効果についても、引き続き研究を進める。
本研究は、Janssen Research & Development, LLCの資金提供を受けた。
- 監修 榎本 裕(泌尿器科/三井記念病院)
- 記事担当者 山田登志子
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- 原文掲載日 2025/06/03
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