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2007/01/23号◆スポットライト「晩年の前立腺癌検診は利益よりも不利益が大きいかもしれない」

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2007/01/23号◆スポットライト「晩年の前立腺癌検診は利益よりも不利益が大きいかもしれない」

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NCI Cancer Bulletin2007年01月23日号(Volume 4 / Number 4)
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スポットライト

晩年の前立腺癌検診は利益よりも不利益が大きいかもしれない

晩年の前立腺癌検診は利益よりも不利益が大きいかもしれない。

前立腺癌に対する検診法であるPSA(前立腺特異抗原)検査は多くの医師のあいだで評価が異なるが、PSA検査を支持する医師でさえ、生きているあいだに検診による利益が確認できないだろうと思われる男性に対してはPSA検査を勧めることはしない。

PSA検査により得られる利益は明らかではないが、利益を享受するためにはおそらく10年以上生きる必要があることで専門家の意見は一致している。その理由は、より若年で発症する、進行が速く命取りになることの多いタイプの前立腺癌と異なり、晩年になってPSA検査で検知される前立腺癌は、多くの場合、進行がゆっくりであるためである

これに反して、PSA検査により起こりうる危害は即時で、また非常に大きいことが多い。起こりうる危害としては、追加検査、精神的苦痛、および何ら危害をもたらさなかったであろう病気を治療することから起こる副作用などがあげられる。

こうした理由から、前立腺癌検診ガイドラインのほとんどが、期待余命が限られている高齢者は検査を行わないよう勧めている。しかし、それでもやはり70歳代や80歳代の男性の多くが検査を受けており、中にはこのことに懸念を抱く医師もいる。

「この検査は、健康上の問題をいくつも抱える高齢者たちに対して行えば、利益よりも不利益のほうが大きいことは明らかです」と、サンフランシスコVeterans Affairs (VA) 医療センターおよびカリフォルニア大学サンフランシスコ校の研究員で老年科医のLouise Walter医師は述べている。

同医師はVA医療システムで実施されているPSA検査について最近調査を行った。その結果、多くの医師が70歳代や80歳代の人にPSA検査を実施していて、中には健康状態のよくない人も含まれていることがわかり、去年11月のJournal of the American Medical Association (JAMA)誌に報告された。

「重症の他の病気に罹っている非常に高齢の人が前立腺癌検診を受けている頻度に驚きました」と、自分の患者の中にPSA検査で被害を被っている人がいるのをみて調査を始めたWalter医師は述べている。

PSA検査というのはPSAタンパク質の血中濃度を測定するものだが、高齢者ではそれほど有益ではないと考えられているとWalter医師は指摘する。前立腺癌がなくても、たとえば良性前立腺肥大症のように加齢に伴う変化でPSA値が上昇することもある。

加えて、検査の利益は、年齢や期待余命に関係なくすべての男性に対して立証されていない。現在2件の大規模なランダム化試験で、検診が前立腺癌の死亡率を減少させるかどうかの検証が行われている。 両試験ともに開始からおよそ12年経つが、検診を受けた人の生存期間が延長することを証明できていない。

それにもかかわらず、PSA検査で検知できる癌にかかっているかもしれないという思いは多くの人を恐怖に陥れる。「前立腺癌には進行がゆっくりで何ら影響を及ぼさないものから進行が早く死に到るものまであることを知らない人もいるのでしょう」とWalter医師は言う。

同医師の患者の中には罹ってもいない病気を見つけ出すのに気をとられて実際に罹っている病気を放置してしまった人もいたという。

氏は85歳の手術不能であった心臓病患者の例をあげる。氏がその患者を治療中、別の医師がPSA検査を行い、測定値が高いことが判明した。患者は心配になり生検をしてほしいと言った。

結果が戻り、その医師は患者にlow-gradeの前立腺癌があること、癌の進行は遅く、そのタイプの癌で亡くなる人は比較的少ないことを告げた。医師は心配しないようにと言ったが、患者の心配は止まなかった。

患者は自分自身を癌患者とみなし、代替医療を受けるためにメキシコに飛んだ。その間に患者の心臓は悪化し、6か月後に心臓発作で死亡した。

「その患者は人生最後の数か月間を、抱えていた問題の中でもっとも小さなものであった癌を思い煩いながら過ごしたのです」とWalter医師は言う。「彼は検診を受けるべきではなかったのです」

同医師の去年の調査でその患者のケースが稀なものではないことがわかる。2003年には60万人近い70歳以上の男性のうち、半数を超える人がVAの施設でPSA検査を受けた。前立腺癌の既往歴のある人は誰もおらず、健康な人も他に病気のある人とほとんど同じ割合で検診を受けていた。

「この調査から、検診対象者の選別が適切に行われていないことがわかります」とNCIの癌予防部門で前立腺癌予防を研究するHoward Parnes医師は言う。

「医師が検診対象者を選ぶ際、その人の健康状態の全体像を考慮に入れていない場合があるかもしれません」とつけ加える。

「高齢者は検診を受けるべきではないというわけではありませんが、対象者の選定は注意深く行なわなければなりません。検診の利益がわかるにはしばらくかかりますが、危害はすぐに起こるからです」と Parnes医師は言う。

退役軍人の検診率が高い理由は明らかではないが、検診を受けたいと申し出た人はほとんどいなかった。おそらくPSA検査は、たとえばコレステロール値測定などが含まれる定期的な血液検査の一環として行われたものと思われる。

同じ号のJAMAの論説は、医師がPSA検査を行うのは、患者が、自分が前立腺癌で死亡する可能性を実際よりも大きく考え、また癌治療の有効性を過大評価しているためであると指摘する。

別の理由として、医師は癌を治療することでしばしば報酬を得る一方、癌の見落としは激しく罰せられる可能性があることがあげられる。

「このジレンマは現行の医療システムで頻繁に見受けられ、近い将来、緊急の対応が必要になることは確実だ」とコネチカット大学健康センターのPeter Albertsen医師はJAMAの論説で述べる。

それまでは、PSA検査がもたらすかもしれない不利益について、高齢の患者と率直に話し合う医師が増えてほしいとWalter医師は望んでいる。「つまり、必要のない処置を避けることこそが人に害をなさないということなのです」と同氏は言う。

—Edward R. Winstead

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なかむら 訳

林 正樹 (血液・腫瘍科) 監修

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