大腸菌由来毒素、若年成人で大腸がん増加と関連の可能性

Cancer Grand Challengesの支援を受けた研究により、大腸菌(E. coli)が産生する毒素への幼少期の曝露が、50歳未満における大腸がんの増加に関与している可能性が示された。

E. coli は健全な腸内細菌叢の維持に重要な役割を果たす常在菌であるが、一部の株は「コリバクチン(colibactin)」と呼ばれるDNAを損傷させる毒素を産生する。なお、食中毒や下痢の原因として知られる他の病原性大腸菌株は、コリバクチンを産生しない。

Team Mutographsによる最新の研究により、コリバクチンによって引き起こされるDNA変異は、高齢で大腸がんを発症した患者よりも、若年で発症した患者においてはるかに多く見られることが明らかになった。

また、コリバクチンに関連するDNA変異は、がんのごく初期段階で生じることが示されている。直接的な因果関係を解明するには今後さらなる研究が求められるが、幼少期のコリバクチン曝露の増加が、若年発症大腸がんの発症率上昇に関与している可能性が示唆されている。

現在、チームはこの仮説を検証するためにさらなる研究を計画している。もし仮説が正しければ、コリバクチンを追跡し、これを産生する大腸菌株を標的にすることで、若年発症大腸がんを予測および予防に向けた新たな手法が開発される可能性がある。

大腸がん予防

コリバクチンが大腸がんを引き起こすかどうかを断言できる十分な証拠はまだ得られていないが、私たちの研究により、リスクを減らすための多くの効果的な方法が明らかになっている。健康的な体重を維持し、積極的に身体を動かし、加工肉や赤身肉を控え、全粒穀物や食物繊維が豊富な食品を摂取することが、がんリスクの低減に寄与する可能性がある。

がんの原因に関する詳しい情報は、当機関の情報ページ(食事とがんに関するセクション)を参照。

若年発症大腸がん、増加の背後に初の手がかり

若年成人における大腸(または結腸・直腸)がんは依然として比較的まれであるが、Cancer Grand Challengesの他の研究チームは、これは「世界的に増加している現象」であり、幼少期にさらされるリスク因子の変化と関連している可能性をすでに示している。

しかし、本日Nature誌に発表された今回の研究は、若年性大腸がんの増加に関して、特定の原因を示す証拠を初めて明らかにした。

カリフォルニア大学サンディエゴ校(UC San Diego)の研究者が主導する研究チームは、英国を除く11か国の大腸がん患者981人のがんゲノムを解析した。その結果、40歳未満で診断された患者では、70代以上で診断された患者に比べて、コリバクチンに関連する突然変異パターンが3.3倍多く見られた。また、若年発症がんの発生率が高い国ほど、これらの変異パターンの頻度が高い傾向も明らかとなった。

本研究の責任著者であるカリフォルニア大学サンディエゴ校Ludmil Alexandrov教授は、「これらの突然変異パターンは、ゲノムに刻まれた歴史の記録のようなものであり、幼少期のコリバクチン曝露が若年発症大腸がんの要因となっていることを示しています」と述べる。

これまでの研究から、コリバクチンに関連する突然変異は、生後10年以内に生じることが示されている。Team Mutographsの研究でも、こうした変異パターンが、腫瘍形成のごく初期に現れる「ドライバー変異」と関連していることが明らかになった。

「10歳までにこれらのドライバー変異を獲得すると、通常より何十年も早く大腸がんを発症する可能性があり、60歳ではなく40歳で発症することもあり得るのです」とAlexandrov教授は述べている。

がん細胞に残された指紋を追う

Team Mutographsは、がん患者のDNAに刻まれた「指紋」——すなわち原因が特定されていないがんが残す突然変異の痕跡——をゲノムデータから読み解く研究を専門としている。こうした解析を通じて、がんを予防する新たな方法を見出そうとしている。彼らのアプローチは、腎がんの未知の原因を示す手がかりを発見した際の記事でも紹介されている。

本研究では、年齢層の違いではなく、国ごとに異なる大腸がんの突然変異パターンに注目していた。若年発症大腸がんの増加は、研究が始まった当初まだ広く認識されていなかったが、徐々に研究者にとって見逃せないものとなってきていた。

「当初の目的は、国によって大腸がんの発生率に大きな差がある理由を明らかにすることでした」と、研究の筆頭著者であり、当時Alexandrov教授の研究室の博士研究員だったMarcos Díaz-Gay氏は語る。「しかしデータを掘り下げていく中で、特に興味深く衝撃的だったのは、若年発症例においてコリバクチン関連の突然変異が非常に頻繁に見られたことでした」。

まさに「適切な場所とタイミング」で調査をしていたといえる。Alexandrov教授は次のように述べている。「私たちが研究するすべての環境要因や生活習慣が、必ずしもゲノムに痕跡を残すわけではありません。しかし、コリバクチンはその痕跡を残す数少ない因子の一つであることがわかりました。今回の研究では、このゲノムに刻まれた痕跡が若年成人の大腸がんと強く関連していることが明らかになりました」。

若年発症がん研究の次のステップ

今回の研究は、幼少期の腸内細菌叢と若年発症がんリスクとの間に重要な関連があることを示したが、因果関係があるのかは明らかではない。コリバクチンががんの原因なのか、あるいは単なる関連にすぎないのかを解明するために、幼少期の成長過程におけるコリバクチン曝露の影響を追跡する長期的な研究が求められる。

さらに、子どもの腸内細菌叢を乱し、コリバクチンを産生する大腸菌株の増殖を促す要因を明らかにする研究も必要とされている。

Cancer Grand Challengesの責任者であるDavid Scott博士は、「どのようにして曝露が起こるのかはまだ明らかではありませんが、食生活を含む複数の要因が、腸内細菌叢の発達における重要な時期に重なって影響を与えている可能性があります」と述べる。

博士はさらに、たとえコリバクチン曝露の原因や影響が明らかになったとしても、若年発症大腸がんの増加の背景には、1つの要因だけでなく、複数の要因が関与している可能性が高いと強調した。

「この研究は、若年発症がんの謎を解くパズルに重要なピースを加えるものですが、まだ決定的な証拠とは言えず、さらなる研究が求められます」とScott博士は述べた。「Cancer Grand Challengesの他のチーム、たとえばOPTIMISTICCやPROSPECTも、腸内細菌叢やその他の環境要因に着目し、世界的な増加の背景を明らかにしようとしています」。

Team Mutographsは現在、腸内細菌叢、コリバクチン、若年発症大腸がんとの関係について明らかにされていない点を解明するための新たな研究を計画している。同時に、将来的に若年発症大腸がんのリスクが高い人を特定する手段として、「コリバクチン便検査」の開発にも取り組もうとしている。さらに、子どもの腸内環境を整えることで長期的ながんリスクを低減できる可能性を探る、プロバイオティクス療法の応用も検討している。

「この研究は、がんに対する私たちの考え方を根本から変える可能性があります」とAlexandrov教授は語る。「がんは単に成人期に発症する病気ではなく、生まれてから最初の数年に受けた影響によって、その後のリスクが左右される可能性もあるのです。こうした研究への継続的な投資は、がんが手遅れになる前に予防・治療するために極めて重要です」。

Team Mutographsは、カリフォルニア大学サンディエゴ校、ロンドンのウェルカム・サンガー研究所、フランスの国際がん研究機関(IARC)の研究者が長期的に共同研究を行なっており、Cancer Grand Challengesが研究活動を支援している。

大腸がんの兆候を見逃さないために

大腸がんを早期に診断できれば、治療が成功する可能性が高くなる。

大腸がんの症状には、肛門からの出血、便に血が混じる、便通習慣の変化(便が緩くなる、排便回数が増える、便秘になるなど)が含まれる。また、原因不明の疲労感や息切れ、意図しない体重減少、腹痛、腹部のしこりといった、より一般的な症状が現れることもある。

自分の体については自分自身が最も良く知っている。いつもと違うと感じることがあれば、早期にかかりつけ医に相談するのが最善である。たいていの場合はがんではないが、もしそうであれば、早期発見が治療の成否を分ける。

  • 監修 中村能章(消化管悪性腫瘍/国立がん研究センター東病院)
  • 記事担当者 為石 万里子
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  • 原文掲載日 2025/04/23

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