大腸がん術後微小残存病変への化学療法の効果を血中ctDNAが予測
米国臨床腫瘍学会(ASCO)
ASCO専門家の見解
「本試験は、ctDNAクリアランス(循環腫瘍DNAがリキッドバイオプシーで検出されない状態)持続の重要性を示しただけでなく、術後化学療法開始6カ月時点でのctDNAの50%以上の動的変化が無病生存の改善と関連していることを示した初めての試験です」と、Cathy Eng医師(ASCO消化器がん専門、FACP、FASCO)は述べた。
試験要旨
目的 | 大腸がん手術後の患者における微小残存病変(MRD)のモニタリングおよび検出を目的とした循環腫瘍DNA(ctDNA)の使用。 |
対象者 | 日本および台湾の患者2,998人 |
主要な成果 | 大腸がんの手術を受けた患者におけるctDNA状態のモニタリングは、その患者で術後化学療法が有益か否かを判断する上で重要な役割を果たす可能性がある。ctDNAはまた、術後化学療法で持続的なctDNAクリアランスを達成した患者における治療効果のモニタリングにも使用できる可能性がある。 |
意義 | ・他の臨床病理学的因子と比較して、ctDNAの状態は無病生存を予測する最も重要なリスク因子であった。 ・何の治療もしない場合、手術後に微小残存病変(MRD)が認められる患者(ctDNA陽性)は、スキャンで検出可能になるまで増殖し続ける可能性があるため、がんが再発するリスクが高い。 ・術後にctDNA陽性であったが、術後化学療法でctDNA陰性となった(ctDNAクリアランス)患者の場合、クリアランス持続は24ヵ月無病生存率90%と相関する。さらに、当初、一過性クリアランスとなった後に放射線学的再発が認められた患者の98%で、術後18カ月までに分子学的再発が生じている。 |
腫瘍を摘出する手術の後、微小残存病変(MRD)が認められることがある。すなわち、画像で検出できないほど小さいがん細胞が体内にわずかに残っている状態である。リキッドバイオプシー判定によるctDNAは、大腸がんの手術を受けた患者のMRDを検出し、術後化学療法が有益かどうかを判断するために使用されることがある。本研究は、1月18~20日にカリフォルニア州サンフランシスコで開催される2024年米国臨床腫瘍学会(ASCO)消化器がんシンポジウムで発表される。
試験について
本研究の筆頭著者である由上博喜医師(大阪医科薬科大学がん化学療法センター)は次のように述べる。「現在の術後化学療法の治療パラダイムは主にがんの病期やその他の臨床病理学的リスク因子に基づいているため、高度に検証されたアッセイ(検出法)によってctDNAの状態をモニタリングすれば、患者一人ひとりに合わせた治療計画を立てることができます」。
今回のGALAXY試験最新解析では、手術後のctDNAを検出するために、各患者の腫瘍組織で見つかった体細胞変異に基づいてカスタムメイドされた血液検査(商標名:Signatera)が使用された。これらの変異は、術後1ヵ月、3カ月、6カ月、9カ月、12カ月、18カ月、24カ月、または再発までの定期的な採血時に、患者の血漿検体で追跡された。また、患者は6カ月ごとに胸部、腹部、骨盤のCT検査を受けた。
解析の対象となった患者は2,998人であった。そのうち1,130人が術後化学療法を受け、1,868人が経過観察を受けた。主要評価項目は無病生存期間(手術日からがんの再発または何らかの原因による死亡日までの期間)であった。
主な知見
手術後2~10週間のMRD検出期間中に、2,860人の患者についてctDNA判定結果が得られ、369人(2.9%)がctDNA陽性、2,491人(87.1%)がctDNA陰性であった。この患者集団に関する所見は以下の通りであった。
- ctDNA陽性患者はctDNA陰性患者に比べて無病生存期間が有意に劣っていた。
- 術後MRD検出から6カ月時点までのctDNA動態を解析した結果、ctDNA陽性のままであった患者は、ctDNAクリアランス(MRD非検出)となった患者に比べ、がんが再発する可能性が5倍以上高いことが明らかになった。
- 試験対象者全体のctDNA陽性患者445人のうち、240人が術後化学療法を受け、そのうち66.3%がctDNAクリアランスとなった。
- 手術後にctDNAが陽性であった患者のうち、化学療法でctDNAが陰性に転じた患者においては、58%がctDNAクリアランスを維持し、42%は最終的にctDNA陽性に戻った。ctDNAクリアランスが持続した患者は、一時的にctDNAクリアランスが得られた患者(ctDNA陰性がctDNA陽性に転じた患者)と比較して、有意に無病生存期間が良好であった(24カ月DFS率;90.1%対2.3%)。
- 術後化学療法を受けたctDNA陽性患者において、6カ月後のctDNA量減少50%以上は、ctDNA量減少50%未満またはctDNA量増加と比較して、無病生存期間が良好であることと関連していた(24カ月DFS率; 51%対29%)。
「これらの知見により、長期生存を損なうことなく、相当数のctDNA陰性患者を化学療法の毒性から救い、化学療法を受けるべきctDNA陽性患者を特定することができるかもしれません。サーベイランス中にctDNAをモニタリングすることで、がん再発を早期に発見でき、その結果、早期介入が可能となり、治癒の可能性を高め、延命につながります」と由上医師は述べた。
本研究著者らは、手術後のどこかの時点でctDNA陽性であった大腸がん患者において、トリフルリジン/チピラシルを追加するかどうかをプラセボと比較して試験することにより、患者管理の指針としてのctDNAの使用をさらに検証する予定である。また、術後のMRD検出期間中にctDNA陰性であった大腸がん患者において、術後化学療法を省略する可能性についても研究している。
この研究は、日本医療研究開発機構から助成を受けた。
- 監訳 野長瀬祥兼(腫瘍内科/市立岸和田市民病院)
- 翻訳担当者 山田登志子
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- 原文掲載日 2024/01/16
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