【ASCO25】エンコラフェニブ/セツキシマブ+化学療法で転移大腸がんの生存期間延長

【ASCO25】エンコラフェニブ/セツキシマブ+化学療法で転移大腸がんの生存期間延長

ASCOの見解(引用)

「この臨床試験は転移性大腸がんの分子生物学的および遺伝的特徴に基づくより個人に合わせた治療アプローチへの進展を継続的に推進しています。本試験はBRAF V600E変異を有する転移性大腸がん(mCRC)に対する新たな標準治療として、エンコラフェニブ(販売名:ビラフトビ)、セツキシマブ(販売名:アービタックス)、FOLFOX療法を一次治療として確立しました」と、Joel Saltzman医師(Clevelandクリニック タウシグがんセンター地域腫瘍学部門 副部長、ASCO 消化器がん専門医)は述べた。

試験要旨

焦点BRAF V600E変異を有する転移性大腸がん
対象者637人の患者(年齢中央値おおよそ60歳)
主な結果エンコラフェニブとセツキシマブの標的療法の組み合わせに化学療法を併用する治療法は、未治療のBRAF V600E変異型転移性大腸がん患者において、現在の標準治療である化学療法〔ベバシズマブ(販売名:アバスチン)の併用ありなし〕と比較して、生存期間を延長する効果が示された。
意義・転移性大腸がん患者の8〜12%がBRAF V600E変異を有している。

・BRAF V600E変異を有する転移性大腸がんは悪性度がより高いタイプであり、化学療法の効果が低く、患者の死亡リスクはBRAF V600E変異が確認されていない患者に比べて2倍以上高い。

・BRAF阻害剤はこのBRAF V600E変異を治療する一種の分子標的薬である。大腸がんにおいてこの変異が広く見られるにもかかわらず、本研究の以前には、未治療のBRAF V600E変異陽性転移性大腸がんに対するBRAF阻害剤は米国で承認されていなかった。BRAF阻害剤は、初回治療が奏効しなかった場合のみ、二次治療またはそれ以降の治療として承認されていた。

国際共同第3相試験の結果、エンコラフェニブとセツキシマブの標的療法の組み合わせにmFOLFOX6化学療法を併用することで、BRAF V600E変異を有する転移性大腸がん患者の生存期間が延長されることが示された。BREAKWATER試験の初期結果で有意な効果が示された後、米国食品医薬品局(FDA)は、エンコラフェニブ/セツキシマブとmFOLFOX6化学療法の組み合わせを、BRAF V600E変異を有する転移性大腸がん患者に対する一次治療として迅速承認した。この研究結果は、2025年5月30日〜6月3日までシカゴで開催される米国臨床腫瘍学会(ASCO)の年次総会で発表される。

試験について

「BRAF V600E変異を有する転移性大腸がんは、その悪性度の高さが特徴であり、標準的な治療選択肢の有効性は限定的です。このサブタイプには高いアンメットニーズがあるにもかかわらず、BREAKWATER試験における初期の全体的な奏効率に基づいてFDAが迅速承認を行うまで、未治療のBRAF V600E変異転移性大腸がん患者だけに適応される、バイオマーカーに基づく承認された治療法は存在しませんでした」と、この研究の主執筆者であるスペイン・バルセロナのバル デブロン腫瘍研究所のElena Elez医学博士は述べる。

BREAKWATERランダム化臨床試験は、BRAF V600E変異を有する転移性大腸がんに対する標的療法薬エンコラフェニブとセツキシマブ(mFOLFOX6の併用ありなし)の効果を評価するために設計された。エンコラフェニブはBRAF阻害剤、セツキシマブはEGFR阻害剤である。mFOLFOX6化学療法レジメンは、フォリン酸、フルオロウラシル、オキサリプラチンを含む複数の薬剤を組み合わせた大腸がんの治療法である。エンコラフェニブ/セツキシマブ併用療法およびエンコラフェニブ/セツキシマブ併用療法とmFOLFOX6の併用療法が、現在標準治療とされている化学療法(ベバシズマブの併用ありなし)と比較された。

BREAKWATER試験には、637人の患者が含まれており、年齢中央値はおおよそ60歳で、約半数が女性であった。

主な知見

・本研究では当初、3つの治療群が設定されていた。
 エンコラフェニブ/セツキシマブ単独群 158人
 エンコラフェニブ/セツキシマブ+mFOLFOX6群 236人
 対照群〔化学療法(ベバシズマブの併用ありなし)〕 243人
  -試験初期の結果で、エンコラフェニブ/セツキシマブ+mFOLFOX6群が客観的奏効率(ORR)において統計学的に有意な改善を示したため、プロトコル修正によりエンコラフェニブ/セツキシマブ単独群の患者登録が中止された。

・全生存期間の中央値は、エンコラフェニブ/セツキシマブ+mFOLFOX6群で30.3カ月、エンコラフェニブ/セツキシマブ単独群で19.5カ月、対照群で15.1カ月であった。

・エンコラフェニブ/セツキシマブ+mFOLFOX6群の患者は、標準治療化学療法(ベバシズマブの併用ありなし)を投与された患者に比べて、死亡リスクが51%低かった。

・無増悪生存期間は、エンコラフェニブ/セツキシマブ+mFOLFOX6群で12.8カ月、エンコラフェニブ/セツキシマブ単独群で6.8カ月、対照群で7.1カ月であった。

・エンコラフェニブ/セツキシマブ+mFOLFOX6群の患者は、標準治療の化学療法(ベバシズマブ有無を問わず)を受けた患者に比べて、がん進行のリスクが47%低かった。

・ORR(治療に対する部分的または完全な奏効を示す患者の割合)は、エンコラフェニブ/セツキシマブ+mFOLFOX6群で65.7%、エンコラフェニブ/セツキシマブ単独群で45.6%、対照群で37.4%であった。

これらの治療の副作用の大部分は管理可能なものであった。治療による重篤な副作用は、エンコラフェニブ/セツキシマブ単独群の30%、エンコラフェニブ/セツキシマブ+mFOLFOX6群の46%、および対照群の39%で報告された。エンコラフェニブ/セツキシマブ+mFOLFOX6治療における主な副作用は、吐き気、貧血、下痢であった。

次のステップ

研究者は、エンコラフェニブ/セツキシマブ併用療法と、フォリン酸、フルオロウラシル、イリノテカンという一般的な化学療法薬を組み合わせたFOLFIRIという別の化学療法レジメンとの組み合わせについて、引き続き研究を継続する。
BREAKWATER試験はファイザー社によって資金提供された。

  • 監修 中村能章(消化管悪性腫瘍/オックスフォード大学腫瘍部門)
  • 記事担当者 加藤千恵
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  • 原文掲載日 2025/05/30

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