長いテロメアはかつて考えられたような若さの源ではない ー 理由を解明

長いテロメアと老化ジョンズホプキンス大学

5つの家族に属する17人の研究で、テロメアと呼ばれるDNA末端部分が極端に長い場合は、長いテロメアを持つ人に推定される長寿を享受することができないことが明らかになった、とジョンズホプキンス大学医学部の研究者が発表した。それどころか、テロメアが長い人は、さまざまな良性またはがん性の腫瘍や、加齢に伴う血液の異常であるクローン性造血が発生する傾向にある。

ジョンズホプキンス大学医学部の研究者は、この長いテロメアを持つグループにはクローン性造血が多く見られ、この血液疾患と長いテロメアの組み合わせにより、変異が血液細胞中により長く留まっていられる可能性があることをNew England Journal of Medicine誌(5月4日付)で報告した。

「われわれの発見は、長いテロメアが老化を防ぐという考えを覆すものです」と、ジョンズホプキンスキンメルがんセンター腫瘍学教授、ジョンズホプキンス大学医学部遺伝医学、分子生物学および遺伝学、ならびに病理学の教授であるMary Armanios医師は述べた。「長いテロメアが老化を防ぐというよりも、長いテロメアによって、老化とともに変異した細胞が長持ちするようになるのです」。

Armanios氏は、医学部のテロメアセンター長である。このセンターには、臨床診断のためにテロメアの長さを測定する実験室、テロメア症候群の人々を対象とした学際的なクリニック、そしてテロメアの基礎研究を行うグループがある。

研究室で培養された細胞内のテロメアが長いと、細胞の長寿が予測されることが分かっているが、今回の研究は、人間の場合は長寿の細胞が問題を引き起こす可能性があることを示唆している、とArmanios氏は述べた。「テロメアが非常に長い細胞は、変異を蓄積し、通常のテロメア短縮過程では抑制されるはずの、腫瘍や他の種類の増殖を促進するようです」。

このような腫瘍は、2年間にわたるジョンズホプキンスの研究において、17人中12人にみとめられた。参加者の年齢層は7歳から83歳で、甲状腺腫(甲状腺の肥大)、各種メラノーマ、リンパ腫、その他のがん、および子宮筋腫を経験した。参加者の中には、これらの疾患を複数持つ者もいた。研究中に死亡した4人の患者は、リンパ腫、結腸がん、白血病、脳腫瘍に罹患していた。

この研究に参加した17人全員が、テロメアに関連する遺伝子であるPOT1に変異があった。通常、POT1はテロメアの伸長に歯止めをかけるが、これが変異するとテロメアの伸長が可能になる。17人の参加者のうち13人のテロメアの長さが測定された。全員が一般人より90%、9人が99%長いテロメアを持っていた。

6人の参加者は、若々しさの兆候を示した。例えば、70代の6人全員が白髪になるのが遅かった。

研究チームは、参加者のがん確定診断に関する情報を収集するとともに、彼らの血液サンプルの細胞を詳しく調べた。

Armanios氏によれば、人間は歳をとるにつれ、70歳以上の約20%で血液細胞中に時間とともに獲得した変異を持つ。これらの変異は血液細胞に生存の優位性を与え、このような細胞をコピーして作り、変異を拡散し続ける。血液細胞の生存優位性と変異の組み合わせ、すなわち不確定性クローン性造血は、血液がんやその他のがんを含むさまざまな疾患と関連している。

ジョンズホプキンスの研究者は、長いテロメアを持つ参加者と、影響を受けていない家族の血球を調べた。そして、クローン性造血に関連する変異が、受け継いだゲノムからどのように進化したかを見るために系統(進化)樹を作成した。

研究対象であるPOT1遺伝子に変異を持つ12人の参加者のうち、8人(67%)がクローン性造血関連変異を有しており、この割合は高齢者において通常予想されるよりはるかに高い、とArmanios氏は述べた。​​​​その親族21人のうちクローン性造血関連変異は2人しかおらず、これは一般的な高齢者集団において予想される割合だった。

ある66歳の参加者の血液からは、クローン(血球の種類)ごとに約400個の変異が検出された。この参加者の年下の親族はテロメアが長くPOT1変異を有しており、18歳年下であるにもかかわらず、クローンあたり約700個の変異を有していた。

また、テロメアが長くPOT1変異を持つ別の参加者には、クローンあたり約1,000個もの変異を持つ細胞もあった。系統樹によると、この参加者の血球のクローン性造血変異はおそらく4歳以前に始まっており、長いテロメアによってその頃から血球が増殖していたと考えられる、とArmanios氏​​は述べた。

テロメアが長いグループにおける血球変異の増加は、血液がんのリスク上昇に寄与している可能性がある、と研究者は述べた。

2年間の研究期間中、Armanios氏のチームは、テロメアが長い人はテロメアの長さが標準的な人に比べて、テロメアの短縮速度が遅いことも発見した。

Armanios氏は、テロメアの長い人の血液中の細胞以外の細胞での変異率を調べる予定だという。彼女のチームは、テロメアの長さの測定と、血液細胞株の変異をマッピングする系統樹を組み合わせて、血液の健康状態や白血病のリスクを評価しようと取り組んでいる。

本研究の資金は、米国国立衛生研究所(R01CA225027、R01HL119476、F31 HG012495、P30 CA006973、K08HL163468、T32 GM136577、R35133747)、S&RおよびCommonwealth財団、Godrej Industries、Turock Family Scholars Fund、米国血液学会奨学金、Vera and Joseph Dresner Foundationにより提供された。

この研究に貢献した他の研究者は以下のとおりである: Emily DeBoy, Michael Tassia, Ph.D., Kristen Schratz, M.D., Stephanie Yan, Zoe Cosner, M.D., Emily McNally, Zhimin Xiang, M.B.B.S., Christopher Gocke, M.D., and Rajiv McCoy, Ph.D., from Johns Hopkins; Dustin Gable, M.D., Ph.D., from Boston Children’s Hospital; David Lombard, M.D., Ph.D., from the University of Miami; and Emmanuel Antonarakis, M.D., formerly of Johns Hopkins and now at the University of Minnesota.

  • 監訳 佐々木裕哉((血液内科/筑波大学血液内科)
  • 翻訳担当者 奥山浩子
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  • 原文掲載日 2023/05/04

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