若年の消化器がん患者が米国で急増

若年の消化器がん患者が米国で急増

ダナファーバーの専門家らが、50歳未満における大腸がん、膵臓がん、食道がん、その他のあまり一般的ではない消化器がんの発生率上昇を報告し、次の重要なステップを指摘
 
ダナファーバーがん研究所の専門家は、文献レビューの結果、若年発症の消化器がんの割合が急速に増加しており、若年層ほど発症率が高いことを報告した。この憂慮すべき増加は、大腸がんだけでなく、膵臓がん、食道がん、胃がん、さらに虫垂がん、胆道がん、神経内分泌腫瘍などのまれな消化器がんにも当てはまる。
 
調査によると、若年発症消化器がんの新規診断件数は、2010年から2019年の間に14.8%増加した。若年発症例の増加は、黒人、ヒスパニック系、先住民族の血を引く人々、そして女性に偏った影響を及ぼしている。
 
「若年発症大腸がんは、人口統計学的特性に大きな変化が初めて確認された消化器がんの一つであり、また若年発症消化器がんの中で最も多いがんであることから注目されています。従来より、大腸がんは主に60代から70代の成人で診断されていましたが、1990年代に若年層における罹患率の上昇が初めて報告されました」と、上級著者のKimmie Ng医師(公衆衛生学修士、ダナファーバーがん研究所の若年性大腸がんセンター長)は述べている。「この研究はより広い視野に立ち、膵臓がん、食道がん、胃がん、その他のまれな消化器がんを含め、消化器がんが若年層で急速に増加していることを示しています」。
 
若年発症の消化器疾患の患者数は、最も高齢のグループ(40~49歳)で最も多いが、若いグループほどその増加率は徐々に顕著になっている。例えば、1990年生まれの人は、1950年生まれの人に比べて結腸がんになる確率が2倍、直腸がんになる確率が4倍であるという。
 
著者らはまた、米国疾病管理予防センター(CDC)の最近のデータから、15~19歳では大腸がんの発生率は3倍以上に、20~24歳では2倍近くに増加していることも指摘している。
 
このレビューは、7月8日、British Journal of Surgery誌に掲載された。
 
若年発症消化器がんの増加の原因は何か?
 
若年層における消化器がんの発症率上昇の要因は明らかではないが、消化器がんには共通の危険因子がある。生活習慣の改善で対処できる要因としては、肥満、座りがちな生活、加工食品の摂取、飲酒、喫煙などが挙げられる。研究によると、アルコールの多量摂取は胃がんのリスクを2倍にし、肥満は大腸がんと膵臓がんのリスクをほぼ2倍にする。喫煙もこれらのがんのリスクを高める。
 
「健康のためにできる最善のことの一つは禁煙です」と、共同筆頭著者である、Sara Char医師(ダナファーバーがん研究所の腫瘍内科フェロー)は述べた。「アルコールの摂取量を減らし、定期的な運動や加工食品を控えるなどのライフスタイルの変化を取り入れることも前向きな選択です」。
 
脂肪性肝疾患、糖尿病、胃酸逆流などの疾患も、さまざまな消化器がんのリスクを高める可能性がある。「患者さんがプライマリ・ケア(訳注:大きな病院での専門医療に対して、ふだんから何でも診てくれ相談にも乗ってくれる身近な医師による総合的な医療で、専門的な医療が必要になったときは最適の専門医への紹介を行う)を受け、これらの危険因子やその他の危険因子に関連する予防医学に積極的に取り組むことが重要です」とChar医師は言う。
 
研究者らは、消化器がんのリスクを高める遺伝性の遺伝子変異は、平均的発症のがんと比較して、若年発症のがん患者により多く見られることを発見した。しかし、若年発症がんのほとんどは遺伝性の変異とは関連しておらず、環境要因によって誘発されたと思われる散発的に発生した突然変異によって生じたものであった。
 
「肥満、加工食品を多く含む欧米型食生活、座りっぱなしの生活などの生活習慣が、若年発症例の多くの原因になっているようです」と、ハーバード大学医学部の医学生で共同筆頭著者であるCatherine O’Connor氏は語った。
 
消化器がんの検診と治療はどのように変化しているのか?
 
大腸がん検診は、若年発症率の上昇に伴い、最近50歳から引き下げられ45歳から開始されている。家族歴のある人、あるいは大腸内視鏡検査で前がんポリープを切除した人は40歳、あるいはその親族が最初にポリープやがんと診断される10年前から検診を受けることができる。
 
「大腸がんやポリープなどの家族歴があるかどうかを知ることは、人々にとって有益です」とChar医師は言う。「大腸内視鏡検査の受診歴について、人は自分の愛する人と話したがらないものですが、重要な情報なのです」。
 
その他の消化器がんに対する検診は一般的には行われていないが、特定の症状ががんの早期発見の指標となることがある。便に血が混じる、胃酸の逆流が続く、胸やけ、原因不明の腹痛や背部痛などの症状はすべて、プライマリケア医による経過観察の対象となる。さらに、成人になってから突然の糖尿病発症も、膵臓がんの潜在的な警告サインとして重要である。
 
「症状を自覚し、何か異常を感じたら医師の診察を受けることが重要です」とChar医師は述べている。
 
若年発症消化器がんの治療ガイドラインは、平均的な発症の場合と同じである。しかし、報告書では、若年患者はより積極的な治療を受ける可能性が高いが、それが必ずしも生存率に利益をもたらすとは限らないと指摘している。
 
「若年発症と平均的発症との間に生物学的な違いがあるかどうか、また治療の違いが正当化されるかどうかを十分に理解するためには、さらなる研究が必要です」とChar医師は述べている。「私たちが実施する疫学研究やその他の研究において、多様な集団におけるこれらの疾患の全体像を把握するために、代表性(訳注:代表性とは、調査対象者全体から抽出された一部の対象者の調査結果が、調査対象者全体の結果を偏りなく正確に反映出来ているかどうかということ)と多様性が必要なのです」。
 
「私たちは、これらの病気の危険因子について考えるだけでなく、これらのがんに罹患した若者をどのようにスクリーニングし、診断し、治療するかについても考える必要があります」とKimmie Ng医師は語った。
 
研究チームはまた、若年発症の消化器がん患者は、不妊や性機能障害への不安、経済的負担、心理社会的要因など、特有の悩みを抱えていることも報告されている。ダナファーバーがん研究所の若年発症大腸がんセンターでは、患者ナビゲーション、遺伝カウンセリング、妊孕性温存、経済的カウンセリング、心理社会的サポート、栄養アドバイスなど、若年患者特有のニーズに対応したサポートを提供している。

  • 監修 加藤恭郎(緩和医療、消化器外科、栄養管理、医療用手袋アレルギー/天理よろづ相談所病院 緩和ケア科)
  • 記事担当者 青山真佐枝
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  • 原文掲載日 2025/07/08

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