卵巣がん他における免疫療法薬の生存率改善を予測する遺伝子マーカー
● 卵巣明細胞がんは治療が難しく、治療の選択肢は限られている
● 腫瘍に特定のPPP2R1A変異を有する患者は、免疫療法薬による治療後に有意に長く生存した
● 実験研究によれば、PPP2R1Aを標的にすることで治療効果がさらに改善する可能性がある
● PPP2R1Aは複数のがん種に対する重要な予測バイオマーカーであり、治療標的となりうることが明らかになった
テキサス大学MDアンダーソンがんセンターの研究者らによると、PPP2R1A遺伝子に特異的な変異を有する卵巣明細胞がん(OCCC)患者は、変異のない患者に比べて免疫療法薬後の生存率が改善することが明らかになった。
本日ネイチャー誌に発表された研究結果によると、PPP2R1A変異はこの治療困難なタイプの卵巣がんに対する治療の指針となる貴重なバイオマーカーであり、複数のがん種における転帰をさらに改善する新たな治療標的を提供する可能性がある。
本研究の結果、PPP2R1A変異のある卵巣明細胞がん(OCCC)患者では、免疫療法後の全生存期間(OS)中央値が5年以上(66.9カ月)であったのに対し、この変異のない患者ではわずか9.2カ月であった。
「卵巣明細胞がんのような稀なタイプを含む卵巣がんに対する効果的な免疫療法薬の開発は、大きな臨床ニーズですが依然として満たされていません」と共同統括著者のAmir Jazaeri医師(婦人科腫瘍学・生殖医学教授)は述べた。「私たちの研究は、PPP2R1A変異の臨床的重要性を初めて証明したものであり、より多くの患者さんに利益をもたらす新たな戦略への扉を開くものです」。
この第2相試験では、免疫チェックポイント阻害薬デュルバルマブ(販売名:イミフィンジ)とトレメリムマブ(販売名:イジュド)の併用療法を受けた、治療に抵抗性を示す卵巣明細胞がん患者34人の患者における転帰を調査した。卵巣明細胞がん患者で得られた知見に基づき、専門家らはさらに2つの独立したコホート(1つは子宮内膜がん患者、もう1つは免疫療法薬を投与され複数のがん種の患者9,000人以上を含む)も調査した。解析の結果、腫瘍PPP2R1A変異を有する患者において、免疫療法薬後の全生存期間(OS)の改善が確認された。
これと並行して、in vitroおよびin vivo(※生体内および試験管での実験)の両方で、PPP2R1Aを標的とすると免疫療法薬に対する反応性が向上することが実験研究で示され、因果関係が示唆された。このことも、PPP2R1Aと関連するプロテインホスファターゼ2A(PP2A)分子経路を標的とする治療法を免疫療法薬に追加することで、治療成績がさらに向上する可能性を示している。
「卵巣がんにおける新たなバイオマーカーを同定しただけでなく、他のがん種における生存利益も確認しました」とJazaeri医師は語った。「PPP2R1Aの変異は比較的まれであるため、PPP2A経路を標的とした薬物療法でも同様の効果が期待できると考えており、現在MDアンダーソンでの臨床試験で評価しています」。
この研究は、共同統括著者であるJazaeri医師、Linghua Wang医学博士(ゲノム医学准教授、James P. Allison研究所の準会員、Institute for Data Science in Oncologyの重点領域共同責任者)、実験治療学部長のRugang Zhang博士らが主導する、複数の分野にまたがる継続的な共同研究である。
この研究は、筆頭著者であるWang研究室のYibo Dai博士とMinghao Dang博士、婦人科腫瘍学・生殖医学フェローのAnne Knisely医師、Zhang研究室のポスドク研究員である矢野 光剛医学博士らが共同主導した。共著者の全リストと開示情報は原文をご覧ください。
本研究における助成金の詳細については、論文全文を参照されたい。
- 監修 野長瀬祥兼(腫瘍内科/市立岸和田市民病院)
- 記事担当者 青山真佐枝
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- 原文掲載日 2025/07/02
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