【ASCO2025】 ミスマッチ修復機能欠損(dMMR)結腸がんにアテゾリズマブと化学療法の併用で生存率改善

ASCOの見解(引用)

「本研究は、術後療法において、標準治療のFOLFOX化学療法にアテゾリズマブ(販売名:テセントリク)を併用することによって、DNAミスマッチ修復機能欠損結腸がん患者群に対する標準治療を変えるものです。この特殊な結腸がんの患者数が少ないことを考えると、米国国立がん研究所(NCI)の資金提供を受けた多施設共同試験という構造なしには、このような研究は決して完了することはできませんでした」とJoel Saltzman医師(クリーブランドクリニック・タウシグがんセンター地域腫瘍学副部長、ASCO消化器がん専門医)は述べている。

研究要旨

焦点ステージ3のミスマッチ修復機能欠損(dMMR)結腸がん
対象者712人の患者
主な結果ミスマッチ修復機能欠損のステージ3結腸がん患者に対して、FOLFOXとアテゾリズマブ(化学療法+免疫療法)の併用を行ったところ、化学療法単独と比較して、再発と死亡が50%減少した。
意義・大腸がんは世界で3番目に多く診断されるがんであり、米国では2025年に約107,320例の結腸がんと46,950例の直腸がんが新たに診断されると予想されている。

・大腸がん患者の約3人に1人は、診断時にステージ3である。ステージ3の大腸がんは、腫瘍が近くのリンパ節に転移しているが、体の離れた部分には転移していないものを指す。ステージ3の結腸がんの10%から15%はDNAミスマッチ修復機能を欠損(dMMR)している。これはDNAの複製や組換え中に生じるエラーがDNA編集機構によって修復されないために起こる。
 
・現在、dMMRを有するステージ3の結腸がんは、まず結腸のがん部分と所属リンパ節を切除する手術で治療される。手術後は、残存するがん細胞を破壊するために化学療法の併用が行われる。

米国国立がん研究所がスポンサーとなった国際共同第3相臨床試験の結果から、ミスマッチ修復機能欠損(dMMR)結腸がん患者に対して、FOLFOXとアテゾリズマブ(化学療法と免疫療法)の併用を行った場合、化学療法単独と比較して、再発および死亡が50%減少したことが示された。この研究は、5月30日から6月3日までシカゴで開催される2025年米国臨床腫瘍学会(ASCO)年次総会で発表される。

研究について

「ミスマッチ修復機能欠損の結腸がんは、化学療法に比較的抵抗性を示す。しかし、これらの腫瘍は免疫に反応しやすい変異を多く有しており、免疫療法で治療すると抗腫瘍免疫応答が強くなる可能性がある。これらの知見は、最も一般的な遺伝性大腸がん症候群であるリンチ症候群や、既知の遺伝的原因や家族歴に起因しない散発性のミスマッチ修復機能欠損結腸がんの患者さんにも当てはまります」と、主著者であるFrank A. Sinicrope医師(ミネソタ州ロチェスター、メイヨークリニック)は述べた。
 
ランダム化試験ATOMICでは、FOLFOX化学療法に免疫療法薬アテゾリズマブを追加することで、FOLFOX化学療法単独と比較してステージ3のdMMR結腸がん患者の転帰が改善するかどうかを検証した。この試験には712人の患者が登録された。年齢中央値は64歳で、約半数(55.1%)が女性であった。アテゾリズマブ+FOLFOX併用療法に355人、FOLFOX単独療法に357人が無作為に割り付けられた

主な知見

追跡期間中央値37.2カ月後:

● 712人の患者のうち、124人はがんが再発または死亡していた。
 
● 3年後、アテゾリズマブ+FOLFOX併用群では86.4%の患者にがんの再発または死亡が認められなかった。FOLOFX単独群では、患者の76.6%にがんの再発または死亡が認められなかった。

● アテゾリズマブとFOLFOXの併用療法を受けた患者は、FOLFOX単独療法を受けた患者と比較して、再発および死亡のリスクが50%低かった。アテゾリズマブとFOLFOXの併用療法は、70歳以上の患者、低リスク患者、高リスク患者を含むすべてのサブグループで有効であった。

重篤な副作用(グレード3以上)は両群で認められたが、管理可能であり、薬剤の既知の毒性と一致していた。

次のステップ

ATOMIC臨床試験は現在も進行中であり、試験研究者らはこれらの患者の追跡調査を継続する予定である。また、この試験で得られた生体試料を研究し、化学免疫療法が有効である可能性の高い患者や再発リスクの高い患者を予測できるバイオマーカーの同定を試みる予定である。
 
本研究は、米国国立衛生研究所(NIH)、米国国立がん研究所、Genentech社、Alliance財団から資金提供を受けた。

  • 監修 中村能章(消化管悪性腫瘍/オックスフォード大学腫瘍部門)
  • 記事担当者 青山真佐枝
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  • 原文掲載日 2025/06/01

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