【ESMO2025】サシツズマブは免疫療法薬が使えない進行トリプルネガティブ乳がんの転帰改善
悪性度の高いがんの一種であるトリプルネガティブ乳がん(TNBC)のうち、免疫療法薬による治療の対象とならない患者において、抗体薬物複合体(ADC)であるサシツズマブ ゴビテカンを使用したところ、標準的な化学療法と比べて無増悪生存期間が有意に延長したことが明らかになった。結果は、ダナファーバーがん研究所の研究者らが共同で主導したASCENT-03試験によるものであり、このほどベルリンで開催された欧州臨床腫瘍学会(ESMO)2025で発表され、同時にNew England Journal of Medicine誌に掲載された。
トリプルネガティブ乳がん(TNBC)は全乳がんの約15%を占め、治療が困難な場合が多い。転移がある場合の5年生存率は約15%にとどまる。さらに、転移性TNBC患者の約60%は分子マーカーPD-L1を欠いており、これは腫瘍が免疫チェックポイント阻害薬に反応しないことを意味する。このため、未治療のTNBC患者の大半にとっては化学療法が主要な治療選択肢となる。
ダナファーバーがん研究所の乳腺腫瘍科部長であり本研究の責任著者であるSara Tolaney博士は、「進行したトリプルネガティブ乳がんの患者さんには限られた治療選択肢しかありません。特にPD-L1陰性の患者さんではそれが顕著です。こういった患者集団に有効な新しい治療法を見つけることは、この分野において最優先課題の一つです」と述べている。
サシツズマブ ゴビテカンは、TNBC細胞の表面に高レベルで存在するタンパク質Trop2を標的とする抗体薬物複合体(ADC)である。このADCはTrop2に結合し、そのペイロード、すなわち強力な化学療法薬を直接腫瘍部位へ届ける。現在、サシツズマブ ゴビテカンは進行性TNBC患者に対する二次治療薬として承認されている。しかし、この疾患の患者の約半数は二次治療に進むことができず、依然として未充足ニーズが大きい。
ASCENT-03試験は、免疫療法薬の対象とならない局所進行または切除不能のTNBC患者を対象に、一次治療としてサシツズマブ ゴビテカンと標準的化学療法を比較する国際共同第3相ランダム化非盲検試験である。30カ国229の臨床施設で558人の患者が登録され、サシツズマブ ゴビテカン群または化学療法群に割り付けられた。両群とも約99%の患者がPD-L1陰性であった(サシツズマブ ゴビテカン群279人中277人、化学療法群279人中278人)。
中央値13.2カ月の追跡調査の結果、サシツズマブ ゴビテカンを投与された患者は病勢進行までの期間が長く、無増悪生存期間の中央値は9.7カ月であったのに対し、化学療法群は6.9カ月であった。奏効した患者における奏効期間の中央値はサシツズマブ ゴビテカン群で12.2カ月、化学療法群で7.2カ月であった。
全生存期間のデータは現時点では成熟していない。サシツズマブ ゴビテカンの安全性プロファイルは既知のものと一致しており、現在のガイドラインおよび支持療法によって管理可能であった。
「私たち腫瘍内科医や研究者は、より効果的な治療をより早期の治療ラインに移行させようと常に努力しています。確かな奏効を得ることで最終的に生存期間の延長につながる可能性があるからです」とTolaney氏は述べる。「ASCENT-03のデータは非常に説得力があり、免疫療法薬が使えない未治療のトリプルネガティブ乳がん患者に対して、サシツズマブ ゴビテカンが新たな標準治療となる可能性を支持するものです」。
ダナファーバーの研究者らは、サシツズマブ ゴビテカンをヒトで初めて評価した研究に関与し、さらにこの薬剤が治療歴のあるトリプルネガティブ乳がん患者を対象として米国食品医薬品局(FDA)による初回承認を得るに至った中心的な臨床試験にも参加した。またTolaney氏は、TROPiCS-02試験も主導した。この試験により、サシツズマブ ゴビテカンはホルモン受容体(HR)陽性HER2陰性の転移乳がんで、治療歴を有する患者に対しても承認を取得することとなった。さらに本年初め、Tolaney氏は第3相ASCENT-04/KEYNOTE-D19試験の結果を発表した。この試験では、免疫チェックポイントPD-L1陽性の転移トリプルネガティブ乳がん患者において、サシツズマブ ゴビテカンとペムブロリズマブとの併用が、現在の標準治療と比較して奏効が長期間持続し、無増悪生存期間(PFS)を改善したことが示された。
資金提供:ASCENT-03試験はGilead Sciences, Inc.の支援により実施された。
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