鍼治療で乳がん関連の認知機能低下の自覚症状がより改善する可能性
乳がんサバイバーが自覚する認知機能障害について、本物の鍼治療および偽の鍼治療はいずれも、通常ケアと比較して改善効果が高かった。一方、客観的な認知機能の改善については、本物の鍼治療が偽の鍼治療よりも優れていた。ランダム化第2相ENHANCE試験の結果によるもので、2025年12月9~12日に開催されたサンアントニオ乳がんシンポジウム(SABCS)で発表された。
ローレンス・S・ロックフェラー記念 統合医療チェア、メモリアル・スローン・ケタリングがんセンター(MSKCC)統合医療・ウェルネス部門責任者であるJun J. Mao医師(MD, MSCE)によると、乳がんサバイバーの40%以上が、「ブレインフォグ」や「ケモブレイン」と呼ばれるがん関連の認知機能障害を経験する。「がん関連の認知機能障害により、日常的な作業が難しくなり、生活の質全体が低下する可能性があります」と、Mao氏は説明する。「残念ながら、この問題に対してエビデンスに裏付けられた治療は非常に限られています」。
これまでに、Mao氏らは1,000人以上の乳がんサバイバーにおいて不眠症が認知機能障害と関連していること、また過去の試験においては、鍼治療が不眠を改善し、不眠に対する認知行動療法(CBT-I)と比較して、認知機能を改善する可能性があることを見いだしている。乳がん患者における認知機能改善に対する鍼治療の有効性をさらに検証するため、実鍼治療と偽鍼治療および医師の裁量による通常ケアを比較する三群試験を設計した。偽鍼治療は、本物の鍼治療と類似した全体的なリラックス効果を体験できるように設計されているが、伝統的な経穴とはみなされない身体部位に使用し、鍼は皮膚を貫通しないという重要な違いがある。
「鍼治療は、鍼を刺す行為と提供するケアの両方を含む複合的な介入として捉えるべきです」と、Mao氏は説明する。「有効な治療を受けていると信じること、20~30分横になってリラックスすること自体が、たとえ鍼が刺されていなかったり、特定の治療の経穴に置かれていなかったとしても、潜在的な治療効果をもたらす可能性があります。本物の鍼治療を、通常ケアだけでなく偽鍼治療とも比較することで、得られた利益が鍼の技法そのものによるものなのか、それとも体験全体によるものなのかを、より明確に理解することができました」。
この臨床試験には、治療を完了し、がんの徴候が認められず、がん関連の認知機能の困難および不眠を中等度以上と自己申告した、ステージ0~3の乳がんの既往を有する女性260人が登録された。参加者は、実鍼治療(129名)、偽鍼治療(70名)、通常ケア(61名)のいずれかに無作為に割り当てられた。実鍼治療または偽鍼治療は週1回、10週間にわたり実施され、認知機能はベースライン時、10週目、26週目に評価された。
主観的な認知機能は、FACT-Cog PCI(the Functional Assessment of Cancer Therapy – Cognitive Function:がん治療による認知機能の機能的評価表、Perceived Cognitive Impairment:認知機能障害の自覚)を用いて評価した。これは、妥当性が確認されている患者報告アウトカムで、記憶力、注意力、日常的な作業を遂行する能力がどのように影響を受けていると感じているかについて、患者自身が質問票に回答する。客観的な認知機能は、HVLT-R(Hopkins Verbal Learning Test-Revised:改訂版ホプキンス言語学習テスト)を用いて測定し、標準化された課題により、記憶、学習、または注意力のパフォーマンスを評価した。
「これら2つの指標は、認知機能の異なる側面を捉えており、しばしば一致しません」と、Mao氏は述べた。「本研究では、中等度から重度の認知機能の困難を自己申告し、登録基準を満たした参加者のうち、HVLTで測定された客観的な認知機能障害の基準を満たしたのは30%にとどまりました。この不一致は、より包括的な全体像を得るために、両方の評価ツールを併用することが重要であることを示しています」。
10週間後、実鍼群および偽鍼群において、FACT-Cog PCIスコアで評価された主観的な認知機能障害に、臨床的に意味のある改善が認められた。改善幅は、実鍼群で10.3ポイント、偽鍼群で10.5ポイントであり、通常ケア群の4.8ポイントの改善と比較して大きかった。また、実鍼治療は、10週および26週のいずれの時点においても、通常ケアと比較して、主観的な認知機能障害の改善が約2倍であった。一方で、実鍼と偽鍼との間の差は、いずれの時点でも有意ではなかった。
「実鍼と偽鍼が、主観的な認知機能の改善において同様の効果を示したのは、偽鍼が身体を同じ方法で刺激するわけではないものの、個別の対応、リラクゼーション、ケアされているという感覚といった利点を提供しており、これらすべてが人の感じ方を改善し得るためかもしれません」と、Mao氏は説明した。
実鍼はHVLTスコアを改善した一方で、偽鍼では客観的な認知機能に差は認められなかった。10週時点では、HVLTスコアにおいて実鍼は偽鍼よりも有意に良好で、その差は4ポイントであった。全体として、客観的な認知機能の改善に関しては、実鍼と通常ケアは同程度の結果を示した。しかし、ベースライン時点で客観的な認知機能障害が認められた患者グループでは、実鍼は通常ケアおよび偽鍼と比較して、記憶機能の改善において有望な傾向が認められた。
「記憶の問題や痛みがある人を対象に脳画像を用いて行われたこれまでの研究では、実鍼が、記憶、注意、学習に関与する脳の特定の領域を、より効果的に刺激する可能性を示唆してきました」と、Mao氏は説明する。「本研究においても、何らかの認知障害がある人において、鍼の刺入が客観的な認知機能を改善する潜在的な有益性を示唆していますが、これを具体的に検証するためには、今後の研究が必要です」。
有害事象の多くは軽度であり、実鍼群に限って認められ、最も多かったのは皮下出血であった(参加者の3.1%)。また、鍼治療とは別に、本研究では、不眠が客観的な認知機能のパフォーマンスと有意に関連していること、さらに、睡眠の断片化(覚醒回数および覚醒時間)が、客観的な認知機能検査における成績低下と有意に関連していることも示された。
「乳がんの女性の認知機能障害は複雑であり、自覚される認知能力に関連する苦痛と客観的な機能の両方に対処する方法を見出すことが求められます」とMao氏は述べた。「本試験では、鍼治療による自覚される認知機能障害の改善効果は、特定の刺鍼技術そのものよりも、鍼治療を受ける過程に起因する可能性が高いことが示されましたが、それでも乳がんを有する女性が、認知機能の困難感に効果があるかを確かめる目的で、鍼治療を一定期間試してみることは妥当だと考えられます。また、客観的な認知機能にも効果がある可能性はありますが、その有効性を明らかにするには、客観的な認知機能障害を有する患者数を増やした今後の試験が必要でしょう」。
本研究の限界として、ベースライン時点で客観的な認知機能障害の基準を満たした患者数が少なかった点が挙げられる。また、本試験は単一の大規模な都市部の学術的ながん専門施設で実施され、参加者が女性の乳がんサバイバーに限定されていたため、男性サバイバー、他のがん種のサバイバー、あるいは地域や都市部以外の環境にいるサバイバーには結果を一般化できない可能性がある。本試験はCOVID-19パンデミック下で実施されており、患者のストレスや医療提供の状況に関連する別の要因が影響した可能性もある。
*本研究の情報開示については、原文を参照のこと。
- 監修 大野 智(補完代替医療/島根大学 臨床研究センター)
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- 原文掲載日 2025/12/12
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