乳がん術前療法後ctDNA値は病理学的完全奏効より再発予測が正確な可能性

乳がん術前療法後ctDNA値は病理学的完全奏効より再発予測が正確な可能性

術前化学療法後のctDNAの状態は、術後補助療法にも役立つ可能性がある

ヒト上皮成長因子受容体2(HER2)陽性乳がん患者で術前化学療法と手術後に循環腫瘍DNA(ctDNA)が検出された場合、病理学的完全奏効(pCR)を達成した患者であっても、ctDNAが検出されなかった患者よりも予後不良が予測された。この研究結果は米国癌学会(AACR)の学術誌Cancer Research Communications誌に掲載された。

乳がんは米国で皮膚以外のがんで最も一般的であり、HER2陽性乳がんは乳がん症例の約13%を占める。「HER2陽性早期乳がん患者は再発率が高いです。術前化学療法後の病理学的完全奏効(pCR)は予後の代替マーカーとされてきましたが、病理学的完全奏効を達成した患者でも再発や遠隔転移を経験するケースがあります」と、代表著者である台湾、台北の国立台湾大学病院外科教授兼乳がん治療センター長、Chiun-Sheng Huang医学博士(公衆衛生学修士)は述べた。

「このことは、疾患再発の可能性のある患者を特定するためのより優れたバイオマーカーの必要性を強調しています。本研究では、HER2陽性早期乳がん患者の術前化学療法後のctDNAの予後的役割を検討することを目的としました」と同氏は述べた。

ctDNAは腫瘍から血流中に放出され、患者のがんに関する知見を得るための非侵襲的な手段となり得る。このために、研究者らは、腫瘍で発生しやすい遺伝子変異を持つDNAの血清中濃度を測定する。「ctDNA量は通常、腫瘍量の増加に伴って増加し、治療に良好に反応すると減少します」とHuang氏は述べた。

Huang氏は筆頭著者であるPo-Han Lin医学博士らと共に、化学療法と抗HER2抗体単剤または2剤による術前化学療法を受けたHER2陽性早期乳がん患者117人を対象とした後ろ向き解析を通じ、ctDNAと疾患再発の関係を検討した。術後、これらの患者のうち18人は術後補助療法として抗体薬物複合体トラスツズマブ エムタンシン(T-DM1、販売名:カドサイラ)を投与された。T-DM1は、術前化学療法後に病理学的完全奏効が得られなかった患者の生存率を改善することが示されている。研究者らは術前化学療法開始前と術後に、患者から血液サンプルを採取した。

合計117人中79人(67.5%)が術前化学療法前にctDNA陽性であり、その79人中32人(40.5%)は術前化学療法後もctDNA陽性の状態が持続した。治療前にctDNA陰性であった117人中38人(32.5%)は、術前化学療法後も全員ctDNA陰性の状態を維持した。

全体として、術前化学療法後に病理学的完全奏効を達成した患者は25人(21.4%)であったのに対し、達成しなかった患者は92人(78.6%)であった。病理学的完全奏効を達成した25人中6人(24%)では術前化学療法後にctDNAが陽性であった。病理学的完全奏効を達成しなかった92人では、26人(28%)で術前化学療法後にctDNAが検出された。

T-DM1非投与の99人のうち、術前化学療法後のctDNA陽性患者は、病理学的完全奏効の有無にかかわらず、中央値4.02年の追跡期間中に疾患が再発する確率がctDNA陰性患者と比較して5.5倍高かった。さらに、病理学的完全奏効を達成したctDNA陰性患者と達成しなかったctDNA陰性患者間、および病理学的完全奏効の有無にかかわらずctDNA陽性患者間で、無再発生存期間(RFS)に統計的有意差は認められなかった。この結果から、ctDNAが病理学的完全奏効よりも疾患再発の正確な予測因子となり得ることが示唆される、とHuang氏は述べた。

現在、病理学的完全奏効を達成していない患者にはT-DM1による術後補助療法が推奨されているため、研究者らはT-DM1による術後補助療法の使用をさらに改良する可能性についてctDNAを検討した。ctDNAが病理学的完全奏効よりも再発リスクを良く予測できるのであれば、T-DM1による潜在的な患者利益を測るより優れた指標となり得るとの仮説を立てた。

T-DM1非投与の患者では、術前化学療法前に62人がctDNA陽性であった。この62人中40人で術前化学療法後にctDNA消失が認められ、ctDNA消失群は術前化学療法後もctDNA陽性が持続した群と比較して、無再発生存期間が有意に良好であった。解析対象の合計117人のうち、病理学的完全奏効を達成しなかった18人が術後T-DM1療法を受けた。連続検査で、術前化学療法後にctDNA陽性であった患者のctDNA消失率は、術後T-DM1療法群(8/8)の方が非T-DM1療法群(7/12)よりも有意に高かった。

研究者らはさらに、4つの患者群[ctDNA陰性/非T-DM1群(n=77)、ctDNA陰性/T-DM1群(n=8)、ctDNA陽性/非T-DM1群(n=22)、ctDNA陽性/T-DM1群(n=10)]間で無再発生存期間を比較した。このうち、ctDNA陽性/非T-DM1群のみ、他の群よりも3年無再発生存期間が有意に悪かった。T-DM1による術後補助療法を受けたctDNA陰性患者8人は、全員中央値3.3年の追跡期間中に再発が観察されることなく生存した。

これらの結果は、術前化学療法および手術後にctDNA陽性と判定された患者では、病理学的完全奏効の状態とは無関係に、術後補助療法としてのT-DM1から利益が得られる可能性を示唆していると、Huang氏は述べた。逆に、ctDNA陰性と判定された患者は、術後補助療法としてのT-DM1から追加的な利益を得られない可能性がある。

「われわれの知見は、術前化学療法後のHER2陽性早期乳がん患者において、ctDNAが病理学的完全奏効よりも優れた予後因子となり得ることを示しています。この知見は術後補助療法の強化または減弱を導く上で有効に活用できると考えます」とHuang氏は述べた。「ただし、これらの示唆は大規模な追加研究や無作為化試験による検証が必要です」。

本研究の限界としては、後ろ向き研究デザイン、症例数が少ないこと、および使用したシーケンシング手法によりctDNAの読取り結果が影響を受けた可能性が挙げられる。

開示情報については原文を参照のこと。

  • 監修 小坂泰二郎(乳腺外科/JA長野厚生連 佐久総合病院 佐久医療センター)
  • 文を見る
  • 原文掲載日 2026/01/14

【免責事項】
当サイトの記事は情報提供を目的として掲載しています。
翻訳内容や治療を特定の人に推奨または保証するものではありません。
ボランティア翻訳ならびに自動翻訳による誤訳により発生した結果について一切責任はとれません。
ご自身の疾患に適用されるかどうかは必ず主治医にご相談ください。

乳がんに関連する記事

鍼治療で乳がん関連の認知機能低下の自覚症状がより改善する可能性の画像

鍼治療で乳がん関連の認知機能低下の自覚症状がより改善する可能性

乳がんサバイバーが自覚する認知機能障害について、本物の鍼治療および偽の鍼治療はいずれも、通常ケアと比較して改善効果が高かった。一方、客観的な認知機能の改善については、本物の鍼治療が偽の...
【SABCS25】乳がん、術前放射線で抗腫瘍免疫反応高める可能性の画像

【SABCS25】乳がん、術前放射線で抗腫瘍免疫反応高める可能性

ホルモン受容体(HR)陽性、HER2陰性乳がん患者において、術前放射線療法をペムブロリズマブ(販売名:キイトルーダ)および化学療法と併用することで、T細胞浸潤(TCI)が改善し、術前の...
【SABCS25】BRCA陽性でも更年期ホルモン治療は乳がんリスクに影響なしかの画像

【SABCS25】BRCA陽性でも更年期ホルモン治療は乳がんリスクに影響なしか

BRCA1またはBRCA2変異を有する女性では、更年期ホルモン療法(MHT)の使用は乳がんリスクの増加と関連しないことが、サンアントニオ乳がんシンポジウム(SABCS)(2025年12...
【SABCS25】一部の乳がん患者でセンチネルリンパ節生検を省略できる可能性の画像

【SABCS25】一部の乳がん患者でセンチネルリンパ節生検を省略できる可能性

センチネルリンパ節生検を省略しても、5年再発率に変化なし臨床的にリンパ節陰性、ホルモン受容体(HR)陽性、HER2陰性である早期乳がん患者においてセンチネルリンパ節生検(SLN...