タモキシフェンが子宮体がんリスクを高める機序の解明

タモキシフェンが子宮体がんリスクを高める機序の解明

1970年代の導入以来、タモキシフェンはエストロゲン受容体陽性乳がん患者の生存率を大幅に改善してきた。しかしこの生存期間延長という利点と並行して、タモキシフェンは、まれではあるが子宮体がんのリスク上昇とも関連が示されてきた。これまでこの子宮体がんリスク上昇について正確な分子レベルでの機序は不明であった。

本日Nature Genetics誌で発表された研究によって、この関連の背後にある作用機序と、特定の分子経路を遮断することでタモキシフェン服用患者における子宮体がん発症を防ぐ可能性が示された。この研究は、ダナファーバーがん研究所、マス・ジェネラル・ブリガム、ブロード研究所(MIT・ハーバード大学)、ベルリン保健研究所(シャリテ大学病院)による共同研究である。

「われわれの研究は、タモキシフェンが子宮の細胞において、ある細胞増殖シグナル経路を活性化することを示しました」と、共同責任著者であるGad Getz博士(マサチューセッツ総合病院がんセンターバイオインフォマティクス部長、ブロード研究所メンバー)は述べた。

研究チームは、タモキシフェン使用歴のある21例の子宮体がんに対して全エクソームシーケンシングを行い、既存データベースにあるタモキシフェン非関連子宮体がんの遺伝子プロファイルと比較した。その結果、タモキシフェン治療歴のある女性に発症した子宮体がんでPIK3CA変異を有する割合はわずか14%であったのに対し、タモキシフェン治療歴のない子宮体がんでは48%であった。PI3K経路の主要構成要素であるPIK3CA変異の発生率の低さは、別の独立した3つの群でも確認された。

タモキシフェンが遺伝子変異を伴わずにどのようにがんを誘発するかを明らかにするため、研究者らは、マウスをエストロゲン投与群、タモキシフェン投与群、無処置の群の3つに分けて比較した。タモキシフェン投与群では他群と比較して、子宮細胞の増殖を調節するPI3K-AKT経路の活性が高まっており、部分的にインスリン様成長因子1(IGF1:細胞増殖を促すホルモン)を介していた。

さらに研究者らはタモキシフェンと、乳がん治療に用いられるPI3K阻害薬アルペリシブを併用してマウスに投与した。その結果、PI3K-AKTシグナル、IGF1受容体の活性化、細胞増殖はいずれも著しく低下した。

この研究は、PI3K経路を遮断することでタモキシフェン関連の子宮体がんのリスクを低減できる可能性を示している。

 「今後の臨床研究によって、変異に非特異的なPI3K阻害薬とタモキシ
フェンの併用が子宮体がんリスクを減らし、最終的に命を救えるかが明らかになっていくでしょう」と、共同責任著者でダナファーバーがん研究所ER陽性トランスレーショナル研究部門長であり、ブロード研究所准メンバーのRinath Jeselsohn医師は述べた。「臨床的観点からも重要なのは、タモキシフェンが子宮で変異原性を引き起こさないという点です。この腫瘍形成メカニズムは、子宮体がんリスクがタモキシフェン使用中または使用直後に生じ、一生涯にわたるリスクではない事実と一致しています」

  • 監修 下村昭彦(腫瘍内科/国立国際医療センター乳腺・腫瘍内科)
  • 記事担当者 平沢沙枝
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  • 原文掲載日 2025/08/22

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