【ASCO2025】進行乳がんのESR1変異検出後、カミゼストラントへの切替えで無増悪生存を改善

ASCOの見解(引用)

「SERENA-6試験では、患者さんが薬剤をカミゼストラント[Camizestrant]に早期に切り替えることで、病勢進行または死亡リスクが56%低下しました。これにより、患者さんは一次治療をより長く継続できるようになります。カミゼストラントはまだFDA承認を受けていませんが、今回のデータは、HR陽性HER2陰性進行乳がんに対する一次治療の新たな治療パラダイムの道を拓く可能性があります」と、Valley-Mount Sinai総合がんケアセンターの乳がん・婦人科がん医療腫瘍学部門長であり、ASCO乳がん専門家でもあるEleonora Teplinsky医師は述べた。

試験要旨

焦点ホルモン受容体(HR)陽性、ヒト上皮成長因子受容体2(HER2)陰性、一次治療中にESR1変異が発現した進行乳がん
対象者HR陽性HER2陰性進行乳がんで、アロマターゼ阻害薬とCDK4/6阻害薬を6カ月間以上投与された患者3,256人
主な結果病勢が進行する前にESR1変異が検出された場合、一次治療の一部であるアロマターゼ阻害薬をカミゼストラントに変更することで(CDK4/6阻害薬はそのまま継続)、HR陽性HER2陰性進行乳がんのがんの進行を遅らせることができる。
意義●ホルモン療法に感受性を有するHR陽性乳がん患者の約40%で、一次治療中にESR1変異が生じる。
●ESR1変異の発現を検出するための定期的なリキッドバイオプシーは、薬剤切替えを行うかどうかの判断材料となる。
●薬剤の切替えを行うことで、ホルモン療法の継続期間を延長し、生活の質(QOL)を維持しつつがんの進行を遅らせることができる可能性がある。

SERENA-6試験(第3相)の結果により、一次治療中にESR1変異が検出された段階で、薬剤をカミゼストラントへ切り替えることで、HR陽性HER2陰性進行乳がん患者のがん進行を抑制できる可能性が示された。この研究結果は、2025年5月30日〜6月3日にシカゴで開催された米国臨床腫瘍学会(ASCO)年次総会で発表された。

試験について

「HR陽性進行乳がんに対する一次治療で病勢が進行した後、多くの治療選択肢が存在します。しかしその効果は限定的であり、生活の質は低下し、生存率も低いです。一次治療を長く続けられて、病勢進行を遅らせる新しい治療法の開発が急務ですが、SERENA-6試験の結果は、重要な前進であり、一次治療の成績を改善する新たな治療戦略の可能性を示しています」と、本試験の責任著者である英国ロンドン、ロイヤルマーズデン病院のNicholas C. Turner医学博士は述べた。

一次治療として、HR陽性HER2陰性の進行乳がん患者は、多くの場合、ホルモン療法薬(最も多いのはアロマターゼ阻害薬)とCDK4/6阻害薬の併用療法を受ける。しかし、がんがこの治療に耐性を示すことがあり、その主な原因の一つがESR1変異である。

ESR1遺伝子変異の検査は、アロマターゼ阻害薬とCDK4/6阻害薬を投与されている患者において一般的であるが、多くの場合、治療中にがんが進行し始めてから行われる。一次治療中にがんが進行した患者に対して別の治療選択肢は存在するものの、これらの治療の生存率は低く、生活の質も低下することが多い。

カミゼスラントは選択的エストロゲン受容体分解薬(SERD)で、エストロゲン受容体を阻害し、分解することにより作用する。現在も開発中の薬剤であるが、ESR1変異の有無にかかわらず効果が期待されている。SERENA-6試験では、がんが進行する前、ESR1変異が検出された段階でカミゼストラントへ薬剤を切り替えることで、がんの進行を抑えられるかを検証した。

主な知見

SERENA-6試験には、アロマターゼ阻害薬(レトロゾールまたはアナストロゾール)とCDK4/6阻害薬(パルボシクリブ[商品名:イブランス]、リボシクリブ[商品名:キスカリ]、アベマシクリブ[商品名:ベージニオ])による治療を6カ月以上受けたHR陽性HER2陰性進行乳がん患者3,256人が登録された。患者はリキッドバイオプシーとしても知られる循環腫瘍DNA(ctDNA)検査を2~3カ月ごとに受け、ESR1変異の有無を検査した。検査は、病勢進行前にESR1変異を発現する患者が315人となるまで行われた。そのうち約50%は、最初のctDNA検査時点でESR1変異が検出された。

 ◇ESR1変異が検出された315人の患者を、以下のいずれかに無作為に割り付けた:
●カミゼストラント群:カミゼストラント(アロマターゼ阻害薬から変更)、CDK4/6阻害薬(継続)、プラセボ(見た目がアロマターゼ阻害薬)を投与する群(157人)。
●アロマターゼ阻害薬継続群:アロマターゼ阻害薬(継続)、CDK4/6阻害薬(継続)、プラセボ(見た目がカミゼストラント)を投与する群(158人)。


 ◇結果は以下のとおり:
●無増悪生存期間(PFS)中央値は、カミゼストラントに切り替えた患者で16カ月であったのに対し、アロマターゼ阻害薬を継続した患者では9.2カ月であった。さまざまなタイプに分けたグループ解析でも改善が見られた。
●治療後1年および2年のPFS率もカミゼスラント群で有意に高かった:
 治療1年後のPFS率は、カミゼスラント群60.7%、アロマターゼ阻害薬群33.4%であった。
 治療2年後のPFS率は、カミゼスラント群29.7%、アロマターゼ阻害薬群5.4%であった。
●カミゼストラント群はアロマターゼ阻害薬群よりQOLを長く維持した。
●カミゼスラントによる全生存期間(OS)の評価は、データが未成熟のため、今回の解析時点では実施できない。

カミゼスラント群の副作用は、既知の副作用と一致しており、新たな副作用は報告されなかった。両群とも副作用のために治療を中止した患者はわずかであった(カミゼストラント群1.3%、アロマターゼ阻害薬群1.9%)。

次のステップ

研究者らは、主要な副次的評価項目をさらに検討するため、予定通り試験を継続する予定である。

本試験はアストラゼネカ社から資金提供を受けた。

  • 監修 小坂泰二郎(乳腺外科/JA長野厚生連 佐久総合病院 佐久医療センター)
  • 記事担当者 平沢沙枝
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  • 原文掲載日 2025/06/01

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