【ASCO2025】イナボリシブ併用療法で、進行乳がんの生存延長と化学療法の遅延が可能に

ASCOの見解(引用)

「INAVO120試験では、未治療でPIK3CA変異を有するホルモン受容体陽性転移乳がん患者さんの生存期間を有意に改善する分子標的治療レジメンの有効性が示されました。これは患者さんにとって大きな前進となります。この研究は、患者さんが転移のあるホルモン受容体陽性乳がんと診断された時点で、ゲノム検査を行うことの重要性を示しています。この治療の対象となるPIK3CA変異陽性患者さんを速やかに特定できるからです」と、エモリー大学医学部ウィンシップがん研究所の乳がん内科腫瘍学共同ディレクターであり、ASCOの乳がん専門家であるJane Lowe Meisel医師(FASCO:ASCOフェロー)は見解を述べる。

試験要旨

焦点PIK3CA遺伝子変異を有するホルモン受容体(HR)陽性、ヒト上皮成長因子受容体2(HER2)陰性の進行乳がん
対象者PIK3CA遺伝子変異陽性、HR陽性HER2陰性の局所進行または転移乳がんで、治療中または術後ホルモン療法終了後12カ月以内に病勢が進行し、転移に対して全身療法を受けたことのない患者325人。
主な結果パルボシクリブとフルベストラントにイナボリシブを追加することで、治療歴のあるPIK3CA変異陽性、HR陽性HER2陰性の進行乳がん患者の全生存期間が有意に改善した。
意義●HR陽性HER2陰性乳がんは乳がんで最もよく見られるタイプであり、米国では乳がんの約70%を占める。

●これまでの研究で、HR陽性HER2陰性の乳がん患者の約40%に、がん細胞を増殖させるPIK3CA遺伝子に変異があることが判明している。

PIK3CA遺伝子変異は予後不良と関連することが多い。

●現在、こういった患者に対し、この変異を標的とした治療は限られている。

パルボシクリブとフルベストラントにイナボリシブを追加することで、治療歴のあるPIK3CA変異陽性HR陽性HER2陰性の進行乳がん患者の生存期間を延長し、化学療法を行うまでの期間を遅らせることができる。第3相INAVO120試験から明らかになった本結果は、5月30日から6月3日までシカゴで開催される2025年米国臨床腫瘍学会(ASCO)年次総会で発表される。

試験について

「INAVO120試験は、PIK3CA変異陽性HR陽性HER2陰性の進行乳がんの一次治療において、より効果が高く、忍容性のある治療の必要性に応えるためにデザインされました。本試験の結果は、イナボリシブをベースとしたレジメンが、新たな標準治療として確立されつつあり、患者さんの生存期間を延長するだけでなく、治療効果の持続期間も大幅に改善することを裏付けています」と、試験の筆頭著者である英国、ロンドンのロイヤルマースデン病院のNicholas C. Turner医学博士は述べた。

イナボリシブ(販売名:Itovebi)は、PI3K阻害剤と呼ばれる分子標的治療薬の一種で、PIK3CA変異を標的として作用し、がん細胞の分裂と転移を阻止する。2024年、米国食品医薬品局(FDA)は、ホルモン療法後に増悪したPIK3CA変異を有するHR陽性、HER2陰性進行乳がんに対し、イナボリシブを、パルボシクリブ(販売名:イブランス)およびフルベストラント(販売名:フェソロデックス)との併用で承認した。パルボシクリブはCDK4/6酵素の活性を阻害する分子標的治療薬であり、フルベストラントはホルモン療法薬である。

以前、第3相INAVO120臨床試験において、イナボリシブとパルボシクリブ+フルベストラント併用で無増悪生存期間(PFS)が有意に改善したことが明らかとなり、2024年の承認はその結果に基づいている。今回のINAVO120試験のアップデートでは、最終的な全生存期間(OS)データの解析が行われた。

主な知見

INAVO120試験には、PIK3CA変異陽性HR陽性HER2陰性の局所進行性または転移乳がんで、ホルモン療法中または治療後に増悪した患者325人が組み入れられた。患者は、イナボリシブとパルボシクリブ+フルベストラントの併用療法を受ける群(161人)と、プラセボとパルボシクリブ+フルベストラントの併用療法を受ける群(164人)にランダムに割り付けられた。

中央値で3年弱(34.2カ月)の追跡調査の結果、次のことが明らかになった:

●OS中央値はイナボリシブ群34カ月、プラセボ群27カ月であった。
●全体として、イナボリシブ併用群は死亡リスクが33%減少した。
●イナボリシブ群で、治療後の生存確率は次の通りであった:
 治療後6カ月で96.8%(プラセボ群 90.1%)
 治療後1年で87%(プラセボ群 6.7%)。
 治療後1年半で74.3%(プラセボ群 67.2) 
 治療後2年で65.8%(プラセボ群 56.3%)。 
 治療後2年半で56.5%(プラセボ群 46.3%)。
●客観的奏効率(治療により腫瘍が30%以上縮小した患者の割合)は、イナボリシブ群で62.7%、プラセボ群で28%であった。
●化学療法開始までの期間中央値はイナボリシブ群35.6カ月、プラセボ群12.6カ月であった。
●最終結果を受けて、PFS中央値はイナボリシブ群の15カ月から17.2カ月に再計算されたが、プラセボ群のPFS中央値は7.3カ月のままであった。


重篤な副作用は両群ともほとんどの患者で発生した:

●イナボリシブ群では90.7%の患者がグレード3または4の有害事象を経験したのに対し、プラセボ群では84.7%であった。
●グレードを問わず高血糖はイナボリシブ群で特に多くみられた(63.4%対プラセボ群13.5%)。
●イナボリシブ群では6.8%の患者が副作用のために治療を中止したのに対し、プラセボ群では0.6%であったが、中止率は概して低かった。

次のステップ

INAVO120試験以外にも、イナボリシブは現在3つの第3相試験で研究されている: INAVO121、INAVO122、INAVO123である。これら3つの試験はすべて、PIK3CA遺伝子変異を有する局所進行または転移乳がんを対象とし、さまざまな治療の併用が検討されている。 

本研究は、F. Hoffmann-La Roche社およびメモリアル・スローン・ケタリングがんセンターへの助成金(P30CA008748)により行われた。

  • 監修 下村昭彦(腫瘍内科/国立国際医療研究センター病院乳腺・腫瘍内科)
  • 記事担当者 平沢沙枝
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  • 原文掲載日 2025/05/23

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