HER2陽性乳がんの脳転移にトラスツズマブ デルクステカン(抗体薬物複合体)が有効

• 大規模な国際共同臨床試験において、トラスツズマブ デルクステカンは、HER2陽性乳がん患者の脳転移に対して優れた抗がん作用を示した。
• 今回の結果は、今まで行われてきた複数の小規模な研究結果を裏付けるものであった。

進行したHER2陽性乳がん患者の脳に転移した細胞など、薬剤の到達が難しいようながん細胞に対し、抗がん剤を腫瘍まで直接運ぶ薬剤が優れた効果を示している。ダナファーバーがん研究所が主導した国際共同臨床試験の結果は、このような患者に対する薬物、抗体薬物複合体トラスツズマブ デルクステカン(T-DXd)(商品名:エンハーツ)の有益性に関するこれまでの知見を裏付けるものであると、試験責任者らは述べている。

DESTINY-Breast12試験と呼ばれるこの臨床試験の結果は、本日、スペインのバルセロナで開催中の欧州臨床腫瘍学会(ESMO)2024で発表され、同時にNature Medicine誌にも掲載された。

今回の発見は、特に治療が困難ながん患者にとって、T-DXdが新たな治療選択肢として価値があることを示していると研究者らは述べる。「HER2陽性乳がん患者さんの半数近くが脳転移を発症しますが、脳転移のある患者さんは、脳転移のない患者さんよりも予後が悪いことが多いです」と、試験のリーダーでありNature Medicine誌の上級著者であるNancy Lin医師は言う。Lin氏は、ダナファーバーがん研究所の乳がん腫瘍学部門の副部長であり、スーザン・F・スミス女性がんセンターの乳がん転移プログラムのディレクターでもある。脳転移の治療には、手術、放射線手術、脳への放射線療法などの局所療法が用いられるが、通常治療から6~12カ月以内に中枢神経系(脳と脊髄)で増悪する。

トラスツズマブ デルクステカンは、乳がん細胞上のHER2タンパクを標的とする抗体と、化学療法薬であるデルクステカンを結合させた薬剤である。トラスツズマブ自体は、脳転移や他の部位の転移を有するHER2陽性乳がんに対する治療の主軸である。しかし、脳転移をターゲットとした治療と同様に、トラスツズマブの投与による治療も通常はいずれ病勢増悪をきたし、しばしば中枢神経転移で増悪をきたす。

「脳転移のある患者さんには、追加の全身療法が早急に必要です」とLin氏は指摘する。

DESTINY-Breast12試験には、西ヨーロッパ、日本、オーストラリア、米国の78のがんセンターで治療を受けたHER-2陽性乳がん患者504人が参加した。そのうち263人は活動性脳転移か安定脳転移があり、241人は脳転移がなかった。全員が試験参加前に1つ以上治療を受けていた。

追跡調査期間中央値15.4カ月後、脳転移のある患者の無増悪生存期間(がんが悪化するまでの期間)は中央値17.3カ月であったことが判明した。12カ月無増悪生存率は61.6%であった。71%の患者に頭蓋内客観的奏効(中枢神経系におけるがんの測定可能な減少)が認められた。予測された通り、脳転移のある患者とない患者の両方において、中枢神経系以外の腫瘍でも高い奏効率が認められた。T-DXd治療開始から1年後、両群で90%が生存していた。

T-DXdに関連する副作用は、過去の研究で報告されたものと同様であり、吐き気、便秘、好中球減少(白血球の一種が減少)、疲労、貧血などであった。T-DXdの既知のリスクである間質性肺疾患(ILD)は、過去の研究と同程度の割合で観察され、この致命的になり得る副作用に対しては依然として注意が必要である。

「T-DXdは、HER2陽性で脳に転移した乳がん患者の脳内で、実質的かつ持続的に活性を示していることがデータによって明らかになりました」とLin氏は言う。「今回の結果は、この患者集団において、今後のT-DXdの使用を支持するものです」。

  • 監修 尾崎由記範(腫瘍内科・乳腺/がん研究会有明病院)
  • 記事担当者 平沢沙枝
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  • 原文掲載日 2024/9/13

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