膠芽腫に対する効率的な第2相アダプティブ(適応型)臨床試験

ダナファーバーがん研究所

膠芽腫の新たな治療法を見出すことを目的とした革新的な第2相臨床試験が、ダナファーバーがん研究所の主導のもと、全米の脳腫瘍センター主要10施設との協力で行なわれ、Journal of Clinical Oncology誌に初の結果が報告された。これまでに試験が行われた3種類の治療薬のいずれでも患者の全生存期間は改善しなかったが、神経腫瘍学で初となる、このアダプティブ・プラットフォーム試験によって、患者に有益な治療法を迅速かつ効率的に特定できる可能性がある。

INSIGhTと呼ばれる本試験は現在も進行中であり、さらなる治療薬の試験が行われている。

共同筆頭著者のRifaquat Rahman医師(ダナファーバー、放射線腫瘍医)は、「膠芽腫のより良い治療法を見つける試みは、これまで何度も失敗してきました。この新しい試験デザインは、より効率的で十分に考慮された方法で新たな治療法を見つけるというニーズにかなっています」と話す。

原発性脳腫瘍で最も多い膠芽腫の患者には、有効な治療選択肢がほとんどない。MGMT非メチル化膠芽腫と呼ばれる病型の場合は最も悪性であり、放射線+化学療法の標準治療法はほとんど奏効しない。

従来、膠芽腫に対する治験薬は、標準療法との直接比較、あるいは対照群のない単群試験で試験が行なわれている。

これに対し、今回のINSIGhT試験(Individualized Screening Trial of Innovative Glioblastoma Therapy:革新的膠芽腫治療の個別化スクリーニング試験)では、一つの対照群を共有して複数の治験薬を一度に検証する。これまでのところ、INSIGhT試験では、アベマシクリブ(CDK4/6阻害薬)、ネラチニブ(EGFR/HER2阻害薬)、CC-115(DNA-PK/mTOR阻害薬)に対して標準療法を対照群として試験を行なっている。

「3件のランダム化第2相試験を別々に行えば、より多くの患者とリソースが必要となります。それに比べて、このデザインは経済性においてもスピードにおいても優れています」と、本試験の共同上席著者であり治験責任医師であるPatrick Wen医師(ダナファーバー神経腫瘍学センター長)は述べる。

今回の初回解析では、2017年から2021年の間に新たにMGMT非メチル化膠芽腫と診断された患者237人が登録された。最初に、患者は4つの治療法のいずれかを受けるように無作為に割り付けられた。各患者が4つの選択肢のいずれかを受ける確率は25%であった。

試験の進行中、新しい情報に応じて修正が行なわれる。Lorenzo Trippa博士率いるダナファーバー統計学者たちは、複雑な統計学を継続的に適用して、各患者が受けている薬剤は有益である可能性があるかどうかを確認する。ランダム化アルゴリズムによって、将来試験に参加する患者が、その人にとって最良の薬剤を得られる確率を高められるようにする。

例えば、ある治療法で患者が毒性を経験したり、有益性の徴候がみられなかったりした場合、将来の患者がその治療法を受ける可能性は低くなる。別の治療法が患者にとって有益であるとわかれば、将来の患者がその治療法に割り当てられる可能性は高くなる。このアルゴリズムでは、ある治療法から得られるであろう有益性に関連するバイオマーカーも考慮に入れる。

ベイジアン・アダプティブ・ランダム化(Bayesian Adaptive Randomization)と呼ばれるこのアプローチでは、成功する見込みのない治療法を受ける患者を減らすことができる。また、研究者は最も有望な治療法にリソースを投入できるようになる。

「見込みのない薬剤の使用をすぐに中止すると同時に、有効な薬剤を見つけて第3相試験に移行させることができます」とWen氏は言う。

同時に、この試験では、治療が患者において奏効性を示す、あるいは示さない理由を研究者がより詳しく理解できるようにするインフラを整えた。本試験は神経腫瘍学においては初めて、全患者について事前の腫瘍ゲノムシーケンスを求めた試験であり、このシーケンシングによって、遺伝子バイオマーカーが奏効にどのように影響するか詳しくわかるようになる。

「本試験は非常に近代的で、科学的可能性の高い試験です」と、共同上席著者であるKeith Ligon医学博士(ダナファーバー病理学者、ブリガム・アンド・ウィメンズ病院神経病理学部長)は言う。

本試験の今回の初回結果では、アベマシクリブとネラチニブを投与された患者は、標準治療またはCC-115を投与された患者よりも無増悪生存期間が長かった。いずれの治療法でも全生存期間の延長はなかった。

本試験は新たな治療群を追加できるようにデザインされている。現在、新たな脳浸透性化学療法薬(QBS10070S)、腫瘍ワクチンVBI-1901とPD1抗体からなる免疫療法薬レジメン、または標準療法のいずれかに新規患者を割り付けている。

「これはダイナミックに進化する試験であり、患者に利益をもたらす可能性のある新たな治療薬を試験し続けます」とRahman氏は言う。

膠芽腫患者に利益をもたらす可能性のある薬剤に対する試験は、本試験がすでに確立されている状況からみて、実施がより容易になるであろう。この試験に新たに加わる各治療群は、新規試験ではなく、試験の修正版である。

「この試験は合理化されていますが、厳密でもあるため、薬剤がさらなる投資に値するか否かについて、より信頼性の高い答えが得られる可能性は高くなります」とRahman氏は述べる。

この研究の他の共同筆頭著者は、ダナファーバーのLorenzo Trippa氏とEudocia Quant Lee氏と、マサチューセッツ総合病院のIsabel Arrillaga-Romany氏で、他の共同上席著者は放射線腫瘍学のBrian Alexander氏である。

  • 監訳 辻村信一(獣医学・農学博士、メディカルライター)
  • 翻訳担当者 山田登志子
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  • 原文掲載日 2023/09/18

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