手術可能な中皮腫に術前・術後ニボ+イピの安全性、有効性を初めて示した臨床試験

手術可能な中皮腫に術前・術後ニボ+イピの安全性、有効性を初めて示した臨床試験

ジョンズ・ホプキンスのキンメルがんセンターとブルームバーグ・キンメルがん免疫療法研究所の研究者らが主導した新たな研究によると、手術前後の併用免疫療法薬を用いた新たな治療法が、手術可能な中皮腫患者に有望であることが明らかになった。
 
9月8日付ネイチャー・メディシン誌に掲載された本研究は、中皮腫における周術期(術前・術後)の免疫チェックポイント阻害薬併用療法を初めて検証したものであり、さらに超高感度のリキッドバイオプシー解析を組み合わせることで残存病変を検出するとともに、循環腫瘍DNA(ctDNA)と臨床転帰との関連性を明らかにした初の研究である。
 
びまん性胸膜中皮腫は、アスベスト曝露が主な原因となる、まれで悪性度の高いがんである。数十年にわたり、治療成績の改善につながる進歩はほとんど見られなかった。免疫療法薬は、手術不能な中皮腫患者の標準治療に組み込まれているが、手術可能な中皮腫の治療におけるその価値は依然として不明である。本研究では、術前療法としてニボルマブ(販売名:オプジーボ)単独またはイピリムマブ(販売名:ヤーボイ)との併用、続いて手術および術後ニボルマブ投与は、実施可能かつ安全で、副作用は管理可能であり、有望な生存転帰が示されたと研究者らは述べている。
 
「これは、周術期における免疫チェックポイント阻害薬の併用が、切除可能な中皮腫において実施可能であるだけでなく、潜在的な有益性が示された初めての臨床試験です」と、本研究の統括著者であるValsamo “Elsa” Anagnostou医学博士(Alex Grass腫瘍学教授、上部気道消化器がんプログラム共同ディレクター)は述べている。「このアプローチは、肺がん治療で成功を収めてきた手法を反映したものであり、治療選択肢が極めて限られている中皮腫患者さんにとって新たな道を開くものです」。
 
第2相試験では、術前免疫療法を受けた患者の80%以上が、予定された期間内に手術を無事に終えた。ニボルマブとイピリムマブの併用療法を受けた患者の生存期間中央値は28.6カ月で、追跡調査時点で約36%が再発なく生存していた。中皮腫の平均生存期間は18カ月である。
 
本研究の画期的な特徴は、腫瘍情報を反映した超高感度全ゲノムシーケンスリキッドバイオプシーを実施し、ctDNAの存在を同定した点である。この手法が切除可能な中皮腫に用いられたのは今回が初めてである。
 
「画像診断では、特に治療中は、中皮腫で起きている変化を必ずしも捉えられるとは限りません」とAnagnostou氏は述べている。「超高感度なゲノムワイドctDNAシーケンシングを用いることで、画像診断では見逃された微細ながんの兆候を検出でき、どの患者が治療効果を最も得られやすいか、あるいは再発を経験する可能性が高いかを予測することができました」。
 
「中皮腫は、主に体細胞変異数が少ないため、これまで変異ベースのリキッドバイオプシーによる追跡が困難でした」と、キンメルがんセンター分子腫瘍学研究室の若手研究者であり本研究の共同筆頭著者であるPaul Lee氏は述べる。「中皮腫由来ctDNAの特性解明における私たちの進展は、より臨床的に意義のある低侵襲な残存病変追跡への道を開く可能性があります」。

術前免疫療法後および術前に検出不能なctDNAレベルを示した患者、または治療中にctDNAが95%以上減少した患者は、無増悪生存期間および全生存期間が有意に延長した。一方で、画像所見が安定していてもctDNAが持続して認められた患者では、早期の病勢進行が認められた。
 
「これにより治療方針決定の精度が新たなレベルに引き上げられます」と、上部気道消化管がんプログラムの共同責任者であるJulie Brahmer医師は述べている。「追加治療が必要な患者とそうでない患者を区別するのに役立ちます」。
 
本研究の臨床的および分子生物学的知見は、2025年世界肺がん会議において、本研究の筆頭共著者であるJoshua Reuss医師(ジョージタウン大学ロンバルディ総合がんセンター助教)と、本研究の共同統括著者であるPatrick Forde医師(アイルランド・ダブリンのトリニティ・セント・ジェームズがん研究所教授)によって同時口頭発表された。Reuss 医師と Forde 医師はともに、ジョンズ・ホプキンス大学医学部の非常勤講師でもある。
 
本研究に参加したその他研究者、資金提供元については原文を参照のこと。

  • 監修 田中謙太郎(呼吸器内科、腫瘍内科、免疫/鹿児島大学大学院 医歯学総合研究科 呼吸器内科学分野)
  • 記事担当者 青山真佐枝
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  • 記事掲載日 2025/09/08

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