Elironrasibが非小細胞肺がんのKRAS G12C阻害薬耐性を克服する可能性

Elironrasibが非小細胞肺がんのKRAS G12C阻害薬耐性を克服する可能性

小分子KRAS阻害薬のelironrasibはGTPが結合して活性化したKRAS G12C変異を標的とし、治療歴が多い肺がん患者において有望な結果を示した

転移を有するKRAS G12C変異陽性非小細胞肺がん(NSCLC)患者において、elironrasibは有意かつ持続的な奏効を示した。この効果は、KRAS G12C阻害薬による治療歴がある患者や、KRAS阻害薬耐性に関連する特徴がある患者などでも確認された。本結果は第1相試験のデータによるもので、10月22日~26日に開催されたAACR-NCI-EORTC 分子標的・がん治療国際会議で発表された。

現在、KRAS G12C変異肺がんに対してFDAが承認している治療は、ソトラシブ(販売名:ルマケラス)とadagrasub[アダグラシブ](販売名:Krazati[クラザティ])の2つである。これらはKRAS G12C変異(NSCLCの発がんドライバーであるKRAS変異の中で多く見られる)患者の一部に有効であるが、治療前から存在する、あるいは治療中に生じる耐性機序、特にKRASおよびその他RAS関連経路に異常をもたらす変異が原因となって、長期間効果が持続する例は極めて少ない。

「現在使用されているKRAS G12C阻害薬は、GDPが結合して“OFF”状態の不活性のKRASタンパクを標的にしています」と、本研究の発表者でありMoffitt Cancer Center and Research Institute胸部腫瘍科の助手であるBruna Pellini医師は説明する。

「私たちのチームは、GTPが結合して“ON”状態の活性KRAS G12Cを標的とすることで、第一世代KRAS G12C阻害薬に対する耐性を克服できるかを検証したかったのです」とPellini氏は述べた。

今回の第1相試験では、転移を有するKRAS G12C変異NSCLCの患者24人にelironrasibが投与された。全員が少なくとも2種類の治療を受けており、半数は3種類以上の治療歴を有していた。また92%(24人中22人)がKRAS G12C阻害薬治療後に病勢進行を経験していた。試験開始時には、患者の88%(24人中21人)で循環腫瘍DNA(ctDNA)によりKRAS G12C変異が検出されていた。

elironrasib治療後、42%(24人中10人)が腫瘍縮小率30%以上の部分奏効を示し、その多くは持続的で、半数は11.2カ月以上奏効が持続した。全患者の中央値追跡期間は17.6カ月であり、半数は6カ月以上病勢が進行せず、12カ月時点で62%が生存していた。

「この研究は規模が小さく、決定的な結論を導くには時期尚早ではあるものの、今回の結果は非常に良い兆候を示しています」とPellini氏は述べ、複数の治療後に病勢進行した患者では一般的に奏効率が低いことを踏まえると、今回の奏効率と奏効期間は「非常に印象的です」と評価した。

注目すべき点として、試験開始時に受容体型チロシンキナーゼおよびMAPK経路の変異を有していた7人全員で臨床的利益が認められた。これらの変異はKRAS G12C阻害薬耐性に関連するが、7人中5人が部分奏効、残る2人は病勢安定を示した。

「これらの患者さんの腫瘍には、KRAS G12C阻害薬による治療を行ったにも関わらず、RASシグナルを再活性化させる重要な共存変異が存在していましたが、それでも治療効果が認められました。これは、elironrasibは、GTPが結合した活性型 KRAS G12Cが高レベルで存在する特異な耐性機序の下でも、なお作用し続ける可能性を示しています」とPellini氏は述べた。

Pellini氏によれば、この治療は良好な安全性プロファイルを示した。グレード3の治療関連有害事象(TRAE)は8%(24人中2人)に認められたが、グレード4または5のTRAEは発生しなかった。薬剤の忍容性の問題で治療を中止した患者はいなかった。
 
「本研究は、作用機序にもとづく薬剤設計が耐性を克服できることを示しています。今回の結果が大規模試験で裏付けられれば、このアプローチはKRAS G12C変異を持つ患者に対し、肺がんだけでなく同じ変異を持つさまざまながんにおいて新たな治療パラダイムをもたらす可能性があります」とPellini氏は述べる。

今後についてPellini氏は、耐性に関する疑問に答えるため、連続的なctDNA解析および組織プロファイリングを含む継続的な追跡調査とトランスレーショナル研究が重要であると強調した。最終的には、これらの知見が患者選択を再定義し、将来的な研究における併用療法の最適化に役立つ可能性があると述べた。

本研究の限界として、症例数が少ないこと、単一群試験であること、さらに、この初期解析では、長期的な安全性、バイオマーカーの同定、全生存期間に関する追跡が限定的であることがある。

*本研究の開示情報については、原文を参照のこと。

  • 監修 吉松由貴(呼吸器内科/University of Greenwich, Queen Elizabeth Hospital)
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  • 原文掲載日 2025/10/22

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