小細胞肺がんにサイクリンを直接阻害する新たながん治療戦略
ダナファーバーがん研究所の研究者達は、サイクリンを直接阻害する新たな薬剤(direct cyclin inhibitor)について、その作用機序と前臨床試験での有効性において、さまざまながん種の臨床試験に進むことを支持するデータが得られたことを発表した。
ダナファーバーの最新研究によると、画期的な薬剤が、小細胞肺がんのように細胞周期の品質管理チェックポイントであるG1/Sチェックポイントが機能しないがんにおいて、がん細胞死を引き起こすことがわかった。ダナファーバーのOser研究室でこの薬剤のヒトでの臨床試験を支持するデータが得られ、小細胞肺がんやトリプルネガティブ乳がんなどを対象とする第1相臨床試験が全米で開始された。
結果はNature誌で発表された。
「これは細胞周期でサイクリンを直接阻害する、初の臨床試験レベルの薬剤です」と、本研究の上級著者で胸部腫瘍専門医のMatthew Oser博士は言う。「私たちの研究で細胞生物学的解析と遺伝子スクリーニングを行ったところ、がん細胞に二段階の細胞死のメカニズムが認められました。これは正常細胞では見られませんでした」
小細胞肺がんに対する新薬の開発が強く求められている。小細胞肺がんの約90%は、がんを積極的に抑制するタンパク質である2つの腫瘍抑制因子の欠失を引き起こす変異によって発症し、進行する。しかし、これらの欠失を直接的に標的とすることは、低分子医薬品では不可能である。
「成長を促進する何かがあればブロックすることができますが、これは車のブレーキを失ったような状態なのです」とOser氏は言う。
欠失した腫瘍抑制因子、RB1とTP53はいずれも細胞周期(細胞が成長して分裂に至る一連の段階)に関与している。具体的には、RB1は細胞周期初期段階のG1/Sチェックポイントにおいて細胞周期を一時停止させる役割を果たし、細胞が品質管理のチェックや必要に応じて修復を行うことを助けている。TP53も間接的にこのチェックに関与している。
1990年代後半、ノーベル賞受賞者William G. Kaelin Jr.医師の研究室は、RB1とTP53を失ったがん細胞ではE2Fという因子が過剰に活性化していることから、がん細胞のサイクリンを標的とする概念を提唱した。しかし、カリフォルニア州サンフランシスコのバイオ企業Circle Pharmaの医薬品開発者が、サイクリンを正確に標的とする薬剤開発を可能にする新たな化学的手法を発見したのは2010年代後半になってからのことである。これによりサイクリンを標的とする治療は実用的なアプローチとなった。
筆頭著者であり博士研究員のShilpa Singh氏が率いるOser研究室は、Circle Pharmaと共同で、サイクリンを直接阻害する薬剤(具体的にはサイクリンA/B RxL阻害薬)が、がん細胞と正常細胞にどのように作用するかを正確に解明しようとした。研究では、細胞死に至る複雑なメカニズムを解明した。しかしそれはE2Fの活性が既に上昇している細胞においてのみ認められた。
研究によると、ある種のサイクリンを直接阻害する薬剤は、サイクリンAおよびサイクリンBという2種類のサイクリンと、それぞれが関与するタンパク質との相互作用を妨げる。これらの相互作用は通常、細胞の品質管理と適切な細胞周期の進行を保証しており、阻害されると細胞内にエラーが蓄積し、細胞死を引き起こす。一つ目の相互作用はサイクリンAとE2Fの間で、この相互作用の阻害に加え、E2F活性が高い状態ではDNA損傷が増加する。二つ目の相互作用はサイクリンBとMYT1の間で、この相互作用を阻害すると細胞周期の分裂期(有糸分裂)においてがん細胞死が誘導される。
またOser氏は、正常細胞はE2F活性が高くないため、この薬剤で処理を行ってもDNA損傷や細胞死を起こしにくいことを発見した。
「正常細胞はがん細胞に比べて、この薬剤に対する感受性が100倍から1000倍ほど低いのです」とOser氏は説明する。「もし正常細胞でも同等の効果を示していたら、実用的な治療法とはなり得ないでしょう」
この発見は、制御不能な副作用を伴わずにがんに有効となる投与量を見つけられる可能性を示している。Oser氏らは患者由来異種移植モデルでこの薬を試験したところ、小細胞肺がん腫瘍の増殖が停止することを確認した。その他の前臨床試験でも、G1/S細胞周期チェックポイントが機能不全に陥った他のがん種において本薬剤の有効性が示唆された。
これらの根拠に基づき、ダナファーバーおよび米国内で第1相臨床試験が開始され、CID-078 と呼ばれる関連化合物が小細胞肺がん、トリプルネガティブ乳がん、その他のがん患者で試験が行われている。
資金提供:Circle Pharma、Kaplan Family Fund、Welch財団。
- 監修 田中謙太郎(呼吸器内科、腫瘍内科、免疫/鹿児島大学大学院 医歯学総合研究科 呼吸器内科学分野)
- 記事担当者 平沢沙枝
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- 原文掲載日 2025/08/20
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