TTF-1は、肺がんKRAS阻害薬が最適な患者を特定する新たなマーカー

TTF-1は、肺がんKRAS阻害薬が最適な患者を特定する新たなマーカー

  • TTF-1が高発現している肺がん患者において、KRAS阻害薬ソトラシブ(販売名:ルマケラス)による治療後、生存転帰が改善した。
  • このバイオマーカーは、ソトラシブの効果が最も期待できる患者と、代替療法や併用療法が必要な患者の識別に役立つ可能性がある。
  • TTF-1は肺がんの診断によく使われる、利用しやすいバイオマーカーである。

テキサス大学MDアンダーソンがんセンターの研究者らは、KRAS G12C変異を有する進行非小細胞肺がん(NSCLC)患者において、KRAS標的治療薬ソトラシブによる治療後の生存予後を予測する新たなバイオマーカーとしてTTF-1を同定した。

本日、Nature Medicine誌に発表された研究結果によると、TTF-1発現量が低い肺腫瘍患者はソトラシブに対する反応が悪く、無増悪生存期間(PFS)中央値は2.8カ月、全生存期間(OS)中央値は4.5カ月であったのに対して、TTF-1発現量が高い腫瘍患者ではPFS中央値8.1カ月、OS中央値16カ月であった。

「TTF-1検査は肺がん診断において常に実施されるため、ソトラシブが有効な患者と、代替治療や強化治療が必要な患者を識別する上ですぐに使えるツールです」と、筆頭著者のFerdinandos Skoulidis医学博士(胸部/頭頸部腫瘍学准教授)は言う。「われわれの知見は、個別化治療のためのバイオマーカーの使用を支持し、KRAS阻害薬との併用戦略の正確な適用指針となる可能性があります」。

KRASは、非扁平上皮非小細胞肺がんにおいて最も一般的な発がん促進因子であり、患者の25%~30%で変異が認められる。ソトラシブは、非小細胞肺がん(NSCLC)で最も多いタイプである肺腺がんの約13%にみられるKRAS G12C変異タンパク質を阻害するように設計された標的治療薬である。ソトラシブは、CodeBreaK 100試験の結果に基づき、2021年に米国食品医薬品局(FDA)に承認された。直接KRAS阻害薬として初めて承認された薬剤である。

この試験では、CodeBreaK 200臨床試験に参加した治療歴のあるバイオマーカー評価可能な進行KRAS G12C変異NSCLC患者317人と、CodeBreaK 100臨床試験で治療を受けたバイオマーカー評価可能な患者112人を対象とした。

さらに研究者らは、腫瘍微小環境(がん細胞を取り巻く免疫状況)もソトラシブの効果に関与している可能性があることを発見した。 ある分類グループの患者は、免疫チェックポイントタンパク質PD-L1が発現していない「免疫コールド」腫瘍であったが、化学療法よりもソトラシブによく反応した。このような腫瘍は通常、免疫療法薬に反応しにくい。

「今回の知見は、免疫療法薬が奏効しない患者でもソトラシブが奏効する可能性を示唆しており、大変有望です」と、Skoulidis医師は述べた。「また、より多くの患者の予後を改善するために、ソトラシブ+化学療法併用のような併用療法を探究する道が開けます」。

研究者らはまた、ソトラシブの投与開始後、循環腫瘍DNA(ctDNA)(血液中に存在する腫瘍由来の小さなDNA断片)が急速に消失することが、転帰の改善に関連していることも証明できた。治療中にKRAS G12CのctDNAが検出された患者は、ctDNAが消失した患者と比較して、進行リスクが増加した。

一部の患者では、治療開始後8日目にしてctDNAレベルが低下した。このことは、医師が簡単な血液検査によって、治療効果が見込める患者を迅速に特定できる可能性を示唆している。

この研究は、KRAS変異陽性非小細胞肺がん患者の精密医療を大きく前進させる。今後の研究では、TTF-1発現腫瘍患者に対するRAS阻害薬の奏効予測をさらに精緻化すること、およびTTF-1発現のない予後不良の患者に対する最も有望な併用戦略を確定することに焦点を当てる。

本試験の制限としては、一部の患者のバイオマーカーデータが不完全であったこと、データ解析の潜在的タイミング、ctDNAパネルのサイズなどが挙げられる。

この研究はAmgen社から資金提供を受けた。 共同研究著者の全リストと開示情報はこちら(原文)。

  • 監修 小宮武文(腫瘍内科/Penn State College of Medicine)
  • 記事担当者 山田登志子
  • 原文を見る
  • 原文掲載日 2025/05/28

【免責事項】
当サイトの記事は情報提供を目的として掲載しています。
翻訳内容や治療を特定の人に推奨または保証するものではありません。
ボランティア翻訳ならびに自動翻訳による誤訳により発生した結果について一切責任はとれません。
ご自身の疾患に適用されるかどうかは必ず主治医にご相談ください。

肺がんに関連する記事

進行ステージIII非小細胞肺がんに対する化学免疫療法戦略の有望性の画像

進行ステージIII非小細胞肺がんに対する化学免疫療法戦略の有望性

研究タイトル切除不能および切除可能境界のステージIII非小細胞肺がんに対して抗PD-1抗体薬/抗PD-L1抗体薬と化学療法を併用する術前療法概要ダナファーバーが...
米FDAがEGFRエクソン20挿入変異を伴う転移非小細胞肺がんにsunvozertinibを迅速承認の画像

米FDAがEGFRエクソン20挿入変異を伴う転移非小細胞肺がんにsunvozertinibを迅速承認

2025年7月2日、米国食品医薬品局(FDA)は、FDA承認検査で上皮成長因子受容体(EGFR)エクソン20挿入変異が検出された局所進行または転移を有する非小細胞肺がん(NSCLC)の...
米FDAがEGFR変異非小細胞肺がんにダトポタマブ デルクステカン-dlnkを迅速承認の画像

米FDAがEGFR変異非小細胞肺がんにダトポタマブ デルクステカン-dlnkを迅速承認

2025年6月23日、米国食品医薬品局(FDA)は、上皮成長因子受容体(EGFR)標的療法およびプラチナ製剤ベース化学療法の治療歴がある局所進行または転移を有する上皮成長因子受容体(E...
【ASCO2025】年次総会注目すべき追加研究・LBA ②の画像

【ASCO2025】年次総会注目すべき追加研究・LBA ②

5月30日-6月3日イリノイ州シカゴおよびオンラインで開催された2025年米国臨床腫瘍学会(ASCO)年次総会では、がんのさまざまな部位にわたる幅広いテーマについて探究した44件の研究...