【AACR2025】既治療肺がんにHER2標的治療薬ゾンゲルチニブが有望
経口療法はFDAによる優先審査中
MDアンダーソンニュースリリース 2025年4月28日
● HER2標的治療薬Zongertinib[ゾンゲルチニブ](ベーリンガーインゲルハイム社)が、HER2遺伝子変異陽性の肺がんに有望な結果を示した。
● HER2遺伝子変異陽性の肺がんは標準治療に対する抵抗性を示し、予後は非常に不良である。
● 経口錠剤であるゾンゲルチニブは、患者にとってより便利な選択肢となるだろう。
● 試験データに基づき、今年初めに米国食品医薬品局(FDA)による優先審査が行われ、現在の標準治療と比較する第2相試験が開始された。その他のがん種についても現在調査が進められている。
アブストラクト:CT050
HER2標的治療薬ゾンゲルチニブは、治療歴のあるHER2遺伝子変異陽性の進行非小細胞肺がん患者(特に特定のHER2変異を有する患者)に対して、管理可能な副作用で臨床的有用性を示したことが、テキサス大学MDアンダーソンがんセンターの研究者らが主導した第1a/1b相Beamion LUNG-1試験の結果から明らかになった。
本試験の最新データは、本日、2025米国がん学会(AACR)年次総会において、試験責任医師であるJohn Heymach医学博士(胸部/頭頸部腫瘍内科長)により発表され、同時にThe New England Journal of Medicine誌に掲載された。
同試験では75人の患者において、腫瘍縮小を示す奏効率(ORR)が71%であったことが報告されていたが、今回新たに奏効期間(DOR)中央値14.1カ月、無増悪生存期間(PFS)12.4カ月であったことが報告された
「71%という奏効率は、このタイプのがんでは前例がないものです。この治療法が有効であることを示す強力なデータであるだけでなく、ゾンゲルチニブは1日1回の経口治療という利便性も備えています」とHeymach氏は述べた。「選択性の低い阻害薬と比較して安全性プロファイルが改善されていることを考慮すると、新しい治療法を必要としている患者さんにとって有望なアプローチであることが示唆されます。ほんの数年前まで、このような患者さんには有効な標的治療薬がなかったのですから」。
Beamion LUNG-1試験は、HER2遺伝子変異を有する進行または転移性非小細胞肺がんの既治療患者を対象に、ゾンゲルチニブ単剤療法を検討するものである。この患者群に対して現在承認されている唯一の治療法は、トラスツズマブ・デルクステカン(T-DXd、販売名:エンハーツ)という抗体薬物複合体であり、この薬剤は静脈内投与され、有害事象として間質性肺疾患の発生などが知られている。
ゾンゲルチニブは経口阻害薬であり、この設定で試験されたこれまでのチロシンキナーゼ阻害薬とは異なり、HER2を選択的に標的とし、上皮成長因子受容体(EGFR)には影響しないため、副作用が大幅に減少した。グレード3以上の有害事象は患者の17%に認められ、その多くは下痢と発疹であり、間質性肺疾患は認められなかった。
発表には3つのコホート(患者群)のデータが含まれた。コホート1には、チロシンキナーゼドメイン(TKD)変異として知られるHER2の特定領域に変異を有する患者75人が含まれ、コホート3にはTKD以外の変異を有する患者20人が含まれた。コホート5にはTKD変異を有し、トラスツズマブ・デルクステカン(T-DXd)などのHER2を標的とした抗体薬物複合体による治療歴のある患者31人が含まれていた。治療成績は以下の通りであるが、コホート3についてはDORとPFSのデータはまだ得られていない。
Beamion LUNG-1試験
奏効率(ORR) | 奏効期間(DOR) | 無増悪生存期間 (PFS) | 有害事象(グレード3以上) | |
コホート1(TKD変異) | 71% | 14.1カ月 | 12.4カ月 | 17% |
コホート3(TKD以外の変異) | 30% | 該当なし | 該当なし | 25% |
コホート5(TKD変異を有しADC:抗体薬物複合体による治療歴) | 48% | 5.3カ月 | 6.8カ月 | 3% |
「この新しいデータは、以前受けた治療後に病勢が進行した患者にとって特に心強いものです。なぜなら、それらの治療に対する耐性機序が必ずしもゾンゲルチニブに対する交差耐性をもたらすわけではないことを示しているからです」とHeymach氏は述べた。
ゾンゲルチニブは、2024年世界肺癌学会で発表された本試験の中間データに基づいて、今年初めにFDAから画期的治療薬指定と優先審査を受けている。
現在、一次治療としてのゾンゲルチニブを検討する臨床試験(Beamion LUNG-2)が進行中であり、Heymach氏らは、HER2変異を有する他の腫瘍型における併用療法において、同薬剤の可能性を検討するための追加試験を計画している。
本試験はベーリンガーインゲルハイム社の資金提供を受けた。Heymach氏は、複数企業の諮問委員会の委員を務め、数社から研究助成等を受けている(詳細は論文全文を参照されたい)。また、共著者および開示情報の一覧は、こちらをご覧ください。
- 監修 後藤 悌(呼吸器内科/国立がん研究センター)
- 記事担当者 青山真佐枝
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- 原文掲載日 2025/04/28
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