G12D変異肺がんに経口治験薬ゾルドンラシブが客観的奏効を示す
KRAS G12D変異を有する前治療歴のある非小細胞肺がん(NSCLC)患者において、KRAS G12Dに対する経口阻害薬zoldonrasib[ゾルドンラシブ]の臨床的有用性が認められたという結果が、4月25~30日に開催された米国がん学会(AACR)年次総会2025で発表された。
KRAS遺伝子はヒトがんにおいて最も頻繁に変異する遺伝子の一つであり、腫瘍の種類によって様々な変異が異なる割合で認められる。非小細胞肺がん(NSCLC)において変異の約13%を占める、KRAS G12C変異を標的とする2種類の阻害薬は、米国食品医薬品局(FDA)から承認されている。しかし、非小細胞肺がん(NSCLC)症例の約4%はKRAS G12D変異を有しており、このKRAS G12D変異に対する標的療法は承認されていない、と本研究を発表したKathryn C. Arbour医学博士(スローンケタリング記念がんセンターの胸部腫瘍内科医であり指導医補佐)は説明した。
「KRAS G12D変異を有する非小細胞肺がん(NSCLC)患者は、化学療法と免疫チェックポイント阻害薬による治療が最も一般的ですが、これらの治療から大きな利益を得られないことが多く、予後は不良です。したがって、本患者集団に対する新たな治療法の開発が最も重要なのです」と、Arbour氏は述べた。
ゾルドンラシブは、G12D変異を選択的に標的とするRAS(ON)の新規3複合体阻害薬である。現在承認されているKRAS G12Cを標的とする治療薬は変異したKRASを不活性型構造に固定するが、ゾルドンラシブはKRASの活性型構造を標的とする。このため、細胞は上流のシグナル伝達を増幅することによるKRASの活性化型維持を介した阻害剤からの回避ができなくなり、耐性化が遅延、あるいは防止される。
Arbour医学博士らは、KRAS G12D変異を有する固形がんで少なくとも1つの前治療歴のある患者211人を登録した第I相臨床試験で、ゾルドンラシブの安全性と有効性を検証した。患者のうち90人は、推奨された第II相用量の1日1,200 mgで治療されたが、最大耐容量には達しなかった。
グレード4または5の治療関連有害事象は認められなかった。1,200 mgの用量で治療を受けた患者のうち、1人が治療を中止し、4人が用量を減らし、8人が治療関連の副作用のため投与を中止した。
Arbour氏は、他のRAS標的治療薬では発疹、粘膜炎、高トランスアミナーゼ血症などの毒性が認められているが、ゾルドンラシブではこれら副作用は認められなかったと説明した。「ゾルドンラシブは1,200 mgの1日1回投与を含むすべての用量レベルで非常に良好な忍容性を示しました。特に多く認められた副作用は、吐き気、下痢、疲労であり、一般的に低グレードだったので支持療法薬で容易に管理できました」と語った。
有効性解析には、データカットオフの少なくとも8週間前に登録された非小細胞肺がん(NSCLC)患者18人が含まれた。これら患者のうち61%に客観的奏効が、89%に病勢コントロールが認められた。
Arbour氏によると、前治療歴のあるKRAS G12D変異を有する非小細胞肺がん(NSCLC)患者の標準治療は、一般的に化学療法ドセタキセル(販売名:タキソテール)であり、客観的奏効率は約10~15%である。
「KRAS G12D変異陽性腫瘍を有する患者は、新たな治療選択肢を必要としています。忍容性の高い経口療法でKRAS G12Dを選択的に標的とすることができれば、本サブタイプの非小細胞肺がん(NSCLC)患者の治療状況の変化が期待できます」と、Arbour氏は述べた。
Arbour氏はゾルドンラシブの潜在的な臨床的効果を評価するためには、より大規模なコホートとより長い追跡期間でのさらなる研究が重要であることを強調したが、Arbour氏自身もこの予備的結果に勇気づけられた。
「今回のデータは、KRAS G12D変異を有する肺がん患者にとって大きな進歩です。この結果から、非小細胞肺がん(NSCLC)患者の本集団において、KRAS G12Dを選択的に標的とすることは実行可能であること、および忍容性も良好であることが初めて示されました」。
本試験の限界は、サンプル数が少ないことおよび追跡期間が短いことである。
本試験の資金はRevolution Medicines社から提供された。Arbour氏はRevolution Medicines社のアドバイザリーボードを務めており、Revolution Medicines社から旅費の支払いを受けている。
- 監訳 田中謙太郎(呼吸器内科、腫瘍内科、免疫/鹿児島大学大学院 医歯学総合研究科 呼吸器内科学分野)
- 記事担当者 平 千鶴
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- 原文掲載日 2025/04/27
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