世界肺癌学会2024で発表されたMDアンダーソン演題(非小細胞肺がん)
特集:術前・術後の免疫療法、HER2およびEGFR遺伝子変異を標的とした治療など、肺がん治療における有望な臨床的進歩
テキサス大学MDアンダーソンがんセンターの研究ハイライトでは、MDアンダーソンの専門家による最近の基礎、トランスレーショナル、臨床がん研究を紹介している。本特集では、世界肺癌学会2024でMDアンダーソンの研究者が発表した肺がん治療の進歩に関する説得力のあるデータを特集する。
術前分子標的療法がNSCLC患者に有益である可能性(アブストラクトPL02.07)
免疫チェックポイント阻害薬デュルバルマブ(販売名:イミフィンジ)を周術期(術前・術後)化学療法に追加することで、非小細胞肺がん(NSCLC)患者の病理学的完全奏効(pCR)と無イベント生存が化学療法単独と比較して改善した。第2相NeoCOAST-2試験において、Tina Cascone医学博士率いる研究者らは、切除可能なステージIIA-IIIBNSCLC患者を対象に新規併用療法を検討した。治療群には、周術期のデュルバルマブと化学療法の併用療法に、抗CD73抗体、抗NKG2A抗体、またはTROP2抗体薬物複合体(ADC)を加える群が含まれた。強い病理学的奏効(major pathological response: mPR)および病理学的完全奏効(pCR)は、過去の標準治療と比較してすべての群で高かった。TROP2 ADCを投与された参加者のmPRおよびpCR率はそれぞれ65.9%および34.1%と最も高く、術前NSCLCにおけるADCの潜在的な治療効果が示唆された。すべての群の治療は、管理可能な安全性プロファイルと手術施行率を示し、現在の免疫療法をベースにした術前および周術期治療法と同等であった。Cascone氏は9月8日に最新のデータを発表した。
周術期治療がNSCLCの転帰を改善することがクロストライアル分析で示される(アブストラクトPL02.08)
CheckMate 816試験では、切除可能な非小細胞肺がん(NSCLC)患者に対して、ネオアジュバント(術前)ニボルマブ(販売名:オプジーボ)と化学療法を併用することで、無イベント生存(EFS)と病理学的完全奏効(pCR)が改善することが証明され、現在では標準治療となっている。CheckMate 77T試験ではこれを基礎とし、ニボルマブの周術期投与(術前および術後)により、プラセボと比較してEFSとpCRが改善したことが証明された。今回の解析では、Tina Cascone医学博士率いる研究者らが、両試験のデータを用いて、術前治療と比較したニボルマブ周術期投与の意義を検討した。研究者らは、ニボルマブの術前投与を受けた患者147人と、ニボルマブの周術期投与を受けた患者139人の特徴を分析した。周術期ニボルマブは、切除可能なNSCLC患者において、PD-L1の状態にかかわらず、術前治療と比較してEFSを有意に改善し、この患者集団に対する周術期治療を考慮することの重要性を強調した。本結果は9月8日に発表された。
HER2変異肺がんにおける経口治療の有望性(アブストラクト PL04.03)
特定のHER2遺伝子変異を有する進行非小細胞肺がん(NSCLC)患者には、有効な治療選択肢が限られている。最近の有望な試験結果を受け、米国食品医薬品局はBAY 2927088(変異型HER2を標的とする経口チロシンキナーゼ阻害薬)を切除不能なHER2変異NSCLCの既治療患者に対する革新的治療薬に指定した。Xiuning Le 医学博士率いる研究者らは、第1/2相SOHO-01試験の最新結果において、進行したHER2変異NSCLC患者44人を対象にBAY 2927088の安全性と有効性を検討した。この治療により、完全奏効1例を含む客観的奏効率は72.1%となり、迅速かつ実質的で持続性のある奏効が得られた。奏効期間中央値は8.7カ月、無増悪生存期間中央値は7.5カ月で、44人中16人が11カ月近く経過した後も治療を受けていた。本試験では、95.5%の患者が薬剤に関連した副作用を経験したが、これまでの報告と同様に対処可能であった。Le氏は9月9日に本データを発表した。
Zongertinib はHER2陽性の転移性NSCLCに有望な有効性を示す(アブストラクトPL04.04)
Zongertinib は経口HER2特異的チロシンキナーゼ阻害薬であり、最近、化学療法が奏効しない進行または転移性のHER2陽性非小細胞肺がん(NSCLC)患者を対象に、米国食品医薬品局からファストトラック指定を受けた。John Heymach医学博士率いる研究者らは、初めてヒトに投与する第1a相試験であるBeamion LUNG-1試験において、HER2陽性固形がんおよびHER2陽性NSCLC患者に対するZongertinibの奏効率および病勢制御率が有望であることを示した。第1b相試験の最初のコホートにおいて、研究者らは進行したHER2陽性転移性NSCLCの既治療患者132人にZongertinib 120mgまたは240mgを投与した。2024年5月の時点で、本試験は主要評価項目を達成し、全患者の客観的奏効率は66.7%、病勢制御率は95.5%であった。Zongertinibの忍容性は良好であったが、ほとんどの患者が管理可能な副作用を経験し、10人(7.6%)に重篤な有害事象が認められ、4人(3.0%)が治療を中止せざるを得なかった。本試験は進行中であり、この患者集団に対して有望な結果を示している。この結果は9月9日に発表された。
希少なEGFR変異非小細胞肺がんにEGFR阻害薬が有効(アブストラクトPL04.07)
米国食品医薬品局はこのほど、特定のEGFRエクソン20挿入変異を伴う進行非小細胞肺がん(NSCLC)患者を対象に、経口で脳内浸透性の高いEGFR阻害薬であるFirmonertinibを革新的治療薬に指定した。第1/2相FURTHER試験において、Xiuning Le医学博士率いる研究者らは、EGFR変異の約12%を占めるPループαCヘリックス圧縮(PACC)変異を有するNSCLC患者60人を対象にFirmonertinibの有効性を検討した。2つの異なる用量レベルで観察された奏効率は、240mgで81.9%、160mgで47.8%であった。奏効が確認された患者の90.9%がまだ治療中であるため、奏効期間の中央値はまだ決定されていない。脳転移を有する患者13人のうち、6人(46.2%)が客観的奏効を達成した。本試験は、広範なEGFR PACC遺伝子変異におけるFirmonertinibの安全性、有効性、抗腫瘍活性を強調するものであり、今後の検討に値する。本データは9月9日に発表された。
周術期の免疫療法薬に基づく治療により予後が改善 (アブストラクトOA13.03)
切除可能な非小細胞肺がん(NSCLC)患者を対象とした国際共同第3相AEGEAN試験は、抗PD-L1免疫チェックポイント阻害薬であるデュルバルマブ(販売名:イミフィンジ)を周術期化学療法に追加することで、化学療法単独と比較して無イベント生存(EFS)および病理学的完全奏効(pCR)が有意に改善することを実証した。John Heymach医学博士率いる研究者らは、18カ月間の追跡調査後の最新結果においても、デュルバルマブ投与群に有利なEFSの効果が継続し、無病生存および全生存においても臨床的に意義のある改善を示した。追跡期間中央値25.9カ月後の病勢進行リスクは、対照群と比較して治療群で31%低かった。周術期のデュルバルマブ+術前化学療法は、管理可能な安全性プロファイルと関連していた。これらの結果に基づき、米国食品医薬品局は2024年8月、切除可能なNSCLCに対する新しい標準治療としてこの治療法を承認した。Heymach氏は9月10日に本データを発表した
- 監訳 田中文啓(呼吸器外科/産業医科大学)
- 記事担当者 青山真佐枝
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- 原文掲載日 2024/09/09
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