家族性EGFR変異肺がんについての初の前向き研究 INHERITの結果

欧州臨床腫瘍学会(ESMO)

<要約>
ダナファーバーがん研究所のGeoffrey R. Oxnard氏らによる前向きコホート研究「Investigating HEreditary RIsk from T790M(INHERIT)」では、EGFR遺伝子に病原性生殖細胞系列変異を有する39家系77人について調査され、肺腺がんの非典型的なEGFR遺伝子変異と、肺がんと診断されていない生殖細胞系列保因者における肺結節の高い有病率を特徴とする、家族性EGFR変異肺がんの存在が確認された。

家族性EGFR変異肺がんの患者では、肺結節が早ければ20歳代に発見され、そのまま安定していることがあり、その後上皮内腺がん相当の病変となる可能性がある。この現象は、がん抑制遺伝子ではなくがん遺伝子に認められる稀な遺伝性がんの一つであると考えられる。

がんゲノミクスは非小細胞肺がん(NSCLC)の治療に大きな影響を与えたが、肺がんの遺伝性リスクに関する理解はほとんど進んでいない。EGFR、ALK、ROS1などの遺伝子変異は日常的に検査され、喫煙歴のない患者に多く見られる。しかし、喫煙歴のない患者に肺がんが広く発生することを説明するには不十分である。

家族性EGFR変異肺がんのリスクは認識されていたが、生殖細胞系列変異はほとんど同定されていない。EGFR T790M変異を持つ家系が初めて2005年に報告され、その後も他の変異(R776H、V769M、V834L)がいくつか報告された。

本研究チームは、診断時の腫瘍遺伝子型検査でEGFR T790Mの有病率を前向きに評価するとともに、この稀な遺伝性変異について説明するためにINHERITを開始した。

本研究では、EGFR T790M変異を持つ家族を特定するために遠隔登録、問診、検査を行い、5年間で141人が登録された。39の異なる家系からなるEGFR T790M変異を有することが確定または確実な者において、91人中50人(55%)が肺がんに罹患し、65人中34人(52%)が60歳までに診断された。保因者の肺がんの体細胞検査では、37人中35人(95%)にEGFRドライバーの共変異が認められた。

肺がんと診断されていないEGFR T790M変異保因者36人において、9人に肺結節が見られた。米国南東部にEGFR T790M変異が集中していることから、6人を対象にゲノムワイドなハプロタイピングを行ったところ、41人(89%)が共有する4.1Mbのハプロタイプが同定され、その起源は223~279年前と推定された。

この研究により、EGFR病原性変異を持つ家系における肺がんリスクが示されたが、最適な管理方法はまだ確立されていない。生殖細胞系列EGFR変異を有する患者は、複数の原発性肺腺がんを有する可能性があり、局所管理を含む個別化アプローチが有益な可能性がある。生殖細胞系列EGFR変異を持つ患者に対して、スクリーニングCTを用いた最適なモニタリング方法などについては、さらなる議論が必要である。

今後の研究では、オシメルチニブなどのEGFR標的薬をこのような家系で用いた場合の検討も行われるされるべきである。

  • 監訳 田中文啓(呼吸器外科/産業医科大学)
  • 翻訳担当者 河合加奈
  • 原文を見る
  • 原文掲載日 2023/08/23

【免責事項】
当サイトの記事は情報提供を目的として掲載しています。
翻訳内容や治療を特定の人に推奨または保証するものではありません。
ボランティア翻訳ならびに自動翻訳による誤訳により発生した結果について一切責任はとれません。
ご自身の疾患に適用されるかどうかは必ず主治医にご相談ください。

 

肺がんに関連する記事

世界肺癌学会2024で発表されたMDアンダーソン演題(非小細胞肺がん)の画像

世界肺癌学会2024で発表されたMDアンダーソン演題(非小細胞肺がん)

特集:術前・術後の免疫療法、HER2およびEGFR遺伝子変異を標的とした治療など、肺がん治療における有望な臨床的進歩テキサス大学MDアンダーソンがんセンターの研究ハイライトでは...
肺がん手術と腫瘍病理診断の質の向上により術後生存期間が延長の画像

肺がん手術と腫瘍病理診断の質の向上により術後生存期間が延長

2024年ASCOクオリティ・ケア・シンポジウム発表の新研究ASCOの見解「過去15年間にわたり、ミシシッピ・デルタ中心部における質改善の取り組みは、この高リスク集団の...
RET融合陽性非小細胞肺がんに対するセルペルカチニブ治療は東アジアの患者に有効の画像

RET融合陽性非小細胞肺がんに対するセルペルカチニブ治療は東アジアの患者に有効

食道がん、上咽頭がん、肺がんの治療の進歩ーASCOブレークスルー会議新しい治療法が生存とQOLの改善に役立つ食道がん、上咽頭がん、肺がんにおける新たな研究の進展を詳述する3つの...
電子タバコと紙タバコの二重喫煙で、肺がん発症リスクが4倍に増加の画像

電子タバコと紙タバコの二重喫煙で、肺がん発症リスクが4倍に増加

電子タバコと従来の紙巻タバコを併用して喫煙する人は、紙タバコの喫煙のみの人に比べて肺がんを発症する可能性が4倍高かった。この結果はオハイオ州立大学総合がんセンター、アーサーG・ジェーム...