トリセル®は再発性または難治性のマントル細胞リンパ腫に有効

キャンサーコンサルタンツ
2009年8月

トリセル®(テムシロリムス)は、再発性または難治性のマントル細胞リンパ腫(MCL)患者の無増悪生存期間(PFS)を改善することが、ドイツの研究者らにより報告された。この第3相試験の詳細については、Journal of Clinical Oncology誌の2009年8月号に掲載されている。[1]

マントル細胞リンパ腫は非ホジキンリンパ腫の1つであり、びまん性のリンパ節転移、診断時の癌の進行期、骨髄転移、血中のリンパ腫癌細胞の存在を特徴とするものである。マントル細胞リンパ腫患者の半数以上は初期治療に反応性を示すが、その反応期間はおおむね短く、患者の平均生存期間は診断から3年未満である。

多くの化学療法薬、特にリツキサン®(リツキシマブ)がMCLに対し活性を示すが、全生存率の平均を3年以上に改善するまでには至っていない。MCL患者に対する実行可能な治療選択肢として、最近では自家幹細胞移植および同種幹細胞移植が行われている。

トリセルは、ラパマイシンのジヒドロエステル化合物であり、リン酸化酵素であるmTOR(哺乳類ラパマイシン標的タンパク)を阻害する。トリセルを用いた治療では、細胞周期をG1期で停止させ、またVEGF発現を減少させることにより血管新生を阻害する。トリセルは静脈内投与される薬剤であり、種々の癌について第2および第3相試験が実施されている。現在、トリセルは腎細胞癌に対してのみ米国食品医薬品局による承認を受けているが、神経膠芽腫、乳癌、およびマントル細胞腫に対しても活性を示す。

トリセル250mg/週投与による治療を受けた難治性MCL患者35人の転帰についてのMayo Clinicおよび共同研究機関による報告がある。[2] 本患者集団の年齢の中央値は70歳であった。全奏効率は35%であり、1例の完全寛解を含む。疾患進行までの中央値は6.5カ月であった。報告によると、もっとも頻度の高かった副作用は血液毒性であった。

Mayo Clinicによる次の試験は、再発性または難治性MCL患者29人に対し低用量トリセル(25mg/週)を6~12週にわたり投与したものである。[3] 全奏効率は41%であり、1例の完全寛解を含む。無進行期間の中央値は6カ月、反応期間の中央値は6カ月であった。著者らによると、低用量トリセル(25mg/週)は、高用量トリセル(250mg/週)と比較し同等の有効性を示し、血液毒性は低いことが示唆された。

今回の試験では、再発性または難治性のMCL患者162人に対し、トリセルの維持用量2種または試験責任医師により選択された治療法を無作為に割付けた。PFSは、トリセル175mg/週を3週間投与後に75mg/週を投与した群で4.8カ月、トリセル175mg/週を3週間投与後に25mg/週を投与した群で3.4カ月、対照群で1.9カ月であった。奏効率は、トリセル175mg/週+75mg/週投与群で22%、対照群で2%であった。全生存期間の中央値は、トリセル175mg/週+75mg/週投与群で12.8カ月、対照群で9.7カ月であった。副作用には、血小板減少症、貧血、好中球減少症、無力症を含む。

コメント:
これらのデータにより、MCL患者の治療におけるトリセルの有意な活性を確認した。

参考文献:
[1] Hess G, Herbrecht R, Romaquera R, et al. Phase III study to evaluate temsirolimus compared to investigator’s choice therapy for the treatment of relapsed or refractory mantle cell lymphoma. Journal of Clinical Oncology. 2009;27:3822-3829.

[2] Witzig TE, Geyer SM, Ghobrial I, et al. Phase II trial of single-agent temsirolimus (CCI-779) for relapsed mantle cell lymphoma. Journal of Clinical Oncology. 2005;23:5347-5356.

[3] Ansell SM, Inwards DJ, Rowland KM, et al. Low-dose, single-agent temsirolimus for relapsed mantle cell lymphoma: a phase 2 study trial in the North Central Cancer Treatment Group. Cancer. 2008;113:508-514.


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翻訳担当者 近江屋芽衣子

監修 林 正樹(血液・腫瘍科)

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