発症頻度の最も高いリンパ腫の分子分類を改訂

NCI(米国国立がん研究所)プレスリリース

新たな研究で、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)の遺伝子サブタイプが同定され、このリンパ腫の患者のなかに治療への反応を示す者と示さない者がいる理由の解明が進みそうだ。米国国立衛生研究所(NIH)の一組織、NCIがん研究センター(CCR)の研究者らが主導し、世界各地の研究機関の研究者らが執筆に加わったこの研究の結果は、New England Journal of Medicine誌の2018年4月11日付電子版に発表された。

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数年前に分類された遺伝子発現に基づくびまん性大細胞型B細胞リンパ腫のサブグループ(左)。新たな研究により同定された遺伝子サブタイプ(右)。各サブタイプには共通した一群の遺伝子異常がある。左右をつなぐ線は、各サブグループとサブタイプの関係性を示す。Credit: National Cancer Institute

「これらの結果は、NCIをはじめ複数の研究機関で行われてきた20年間の研究の成果であり、DNAの変異と遺伝子発現が、リンパ腫のメカニズムと転帰に与える影響についての理解を深めるものである」と、NCI所長であるNed Sharpless医師は話す。「この詳細な分子分類は、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫患者の予後予測の指標となり、またこの疾患の患者への個別化治療の進展を促すこととなるだろう」。

びまん性大細胞型B細胞リンパ腫は最も発症頻度の高いリンパ腫である。このリンパ腫は高悪性度の場合もあるが、治癒可能であり、治療により寛解する患者もみられる。しかし、このリンパ腫のなかに治療に反応するタイプとしないタイプが存在する理由についてはいまだ完全な解明がなされていない。この疾患の標準治療は、化学療法と、モノクローナル抗体として知られるリツキシマブによる併用療法である。

かつて、異なる細胞起源より発症し、遺伝子活性パターンの違うびまん性大細胞型B細胞リンパ腫の2つの主要なサブグループが研究者らにより分類された。活性化B細胞様(ABC型)DLBCL の患者では平均生存率が約40%である一方、胚中心B細胞様(GCB型)DLBCL の患者では約75%であることがわかった。しかし、GCB型のサブグループであっても、治療後患者に再燃がみられることがある。

「われわれがまず知りたかったのは、一部の患者に化学療法が高い効果を示すことの説明となる、疾患の他の分子特性があるかということだった」と、この研究を率いたNCIがん研究センターのLouis M. Staudt医師(医学博士)は説明する。「次にそれに関連して、治療にあまり効果を示さない患者が同定された場合、化学療法以外に新たな治療の可能性を示唆しうる疾患の遺伝子特性があるかということだった。どちらの問題にも『ある』という回答が得られた」。

研究者らは、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫患者574人の腫瘍検体を用いて、ゲノム変化と遺伝子発現のマルチプラットフォーム解析を行った。共通した一群の遺伝子異常を持つ4つの主な遺伝子サブタイプが、解析により同定された。そのうちBN2、EZBと呼ばれる2つのサブタイプの患者が良好な治療反応性を示す一方、残る2つのサブタイプMCD、N1の患者は良好な反応性を示さなかった。これらのサブタイプはABC型とGCB型の両サブグループのなかにも同定でき、例えば、ある患者はABC型で生存率の低い遺伝子発現プロファイルだが、遺伝子サブタイプは化学療法に良好な反応性を示すBN2ということもありうる。

「この結果は、われわれが過去から大きな進歩を遂げたことを示している」と、Staudt医師は話す。「以前なら、最も先進的な分子診断であっても、ABC型はすべて『悪性』で強力な治療が必要だと説明しただろう。いまはこのような分類を指標に、患者が『悪性』のABC型であったとしても、遺伝子サブタイプは『良好』なBN2だと説明することができる。つまり化学療法で治癒する可能性がずっと高いということだ」。

この研究のデータは、今後の研究のためNCIのGenomic Data Commonsを通じて利用が可能となる。

今回の知見は現行治療に関するものだが、この新たな分子分類が臨床試験に活用され、最終的には化学療法から副作用の少ない標的治療に可能な限り移行が進むことを同僚とともに期待していると、Staudt医師は話している。

この領域ではすでに先行研究がある。例えば2015年に発表された第2相臨床試験の結果では、ABC型の患者は、GCB型の患者より分子標的治療薬イブルチニブへの反応が良好であることが示されている。

Staudt医師の説明によると、プレシジョン・メディシンの臨床試験では、腫瘍に対してまず今回の新たな遺伝子サブタイプの検査を行い、腫瘍の分類に基づいて患者を最適な治療群に割り付けることができるという。

「目標は、適切な薬を、適切な患者に、適切なタイミングで見つけることだ」と、Staudt医師は話す。「びまん性リンパ腫のこの遺伝子特性の解明は、プレシジョン治療の前進の一歩とわれわれは感じている」。

参考文献

Schmitz R, Wright GW, Huang D, et al. Genetics and Pathogenesis of Diffuse Large B-Cell Lymphoma. N Engl J Med 2018; 378:1396-407. DOI: 10.1056/NEJMoa1801445

翻訳担当者 林 賀子

監修 佐々木裕哉(血液内科、血液病理/横須賀米国海軍病院)

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原文掲載日 

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