第2相CAR-T試験、追跡期間15カ月時点で有意な寛解率

【米国血液学会(ASH)2017】

今般承認されたCD19を標的としたキメラ抗原受容体発現T細胞療法(CAR-T療法)に関する試験で、進行の早い大細胞型B細胞リンパ腫患者の42%が、axi-cel(axicabtagene ciloleucel、商品名:Yescarta)による治療後15カ月時点で寛解を維持したことが示された。

ZUMA-1と称されたこの試験では、82%の患者で客観的奏効が認められ、54%の患者で完全奏効が認められた。56%の患者が治療後15カ月時点で生存し、そのうち一部の患者で治療2年後も寛解が維持されていた。

この知見は、12月10日にThe New England Journal of Medicine誌の電子版に掲載され、12月11日にアトランタの米国血液学会(ASH)年次総会で発表される予定で、テキサス州立大学MDアンダーソンがんセンターのリンパ腫・骨髄腫科教授Sattva Neelapu医師およびモーフィットがんセンターの血液・骨髄移植・細胞免疫療法副研究科長、兼准研究員Frederick Locke医師が率いる22施設による試験の結果である。

「今回この治療がFDAにより承認されたことで、再発または難治性の大細胞型B細胞リンパ腫を有する患者さんの治療は大きな進歩を遂げたと確信しています。多くの患者さんの命を救い、寿命を延ばすことになるでしょう」「axi-cel[アクシセル]は、これまで治癒に結び付く治療選択肢のなかった患者さんの転帰を、既存の治療法に比べて著しく改善することがこの試験で証明されました」とNeelapu医師は述べた。

2015年4月に開始されたこの試験では、axi-celが、化学療法および自家幹細胞移植に抵抗性を示した患者108人に対し投与された。一部には、化学療法を受けたが疾患があまりにも進行したため幹細胞移植を受けることができず、化学療法後にこの臨床試験に参加した患者も複数いた。白血球除去(leukapheresis)というプロセスによって患者のT細胞が抜き出され、T細胞によるがん細胞の攻撃を助けるキメラ抗原受容体分子で遺伝的に改変された。改変されたT細胞は、輸注により患者の体内に戻された。

「この治療法は、成人リンパ腫に対して初めてFDAにより承認された遺伝子治療です。axi-celは、再プログラミングされた患者自身のT細胞で構成されています。T細胞は再プログラミングの後に患者に輸注され、リンパ腫を検出・破壊します。多くの患者さんでリンパ腫の腫瘍が1カ月以内に消失しました。axi-celで得られた寛解は、数年間、それも化学療法が奏効しなかった患者さんにおいて続く可能性があることが、ZUMA-1試験の長期追跡調査の結果でわかりました」とLocke医師は述べた。

びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(最も多くみられ、進行の早い非ホジキンリンパ腫)、原発性縦隔B細胞リンパ腫および形質転換を起こした濾胞性リンパ腫の患者における完全奏効は、ほとんどの場合、治療から1カ月後までに認められた。しかし、一部の患者では遅く、治療1年後に完全寛解が認められた。治療後2年経過した患者において、寛解が持続していることが観察されている。研究は進行中であるが、この治療法が効かない機序の1つとして腫瘍細胞上の標的CD19の喪失に起因している可能性が挙げられる。これらの機序を解明することが、この治療法の有効性をさらに高めるための新しいアプローチの開発につながると期待されている。

試験の対象患者

試験に参加した患者108人のうち99%に対し薬剤が製造され、登録患者の91%に投与された。T細胞を患者から採取してから薬剤が投与されるまでの日数は平均17日であったが、これは、大細胞型B細胞リンパ腫のような増殖の早い疾患を有する患者にとって比較的短い所要期間であった。

axi-celによる治療を受けた患者の年齢の中央値は58歳(範囲:23~76歳)であった。85%の患者がIII期またはIV期の疾患を有していた。また、77%の患者は、axi-cel投与以前に受けていた二次治療またはその先の治療後に疾患が急速に進行し続け、21%の患者が幹細胞移植後の再発歴を有していた。69%以上の患者に3つ以上の前治療歴があり、26%が原発性難治性疾患の病歴を有していた。

有害反応は、一部axi-celに関連しないものも含め全患者108人に発現した。95%の患者で発熱、白血球数および血小板数の減少、貧血などのグレード3の事象が発現した。炎症反応の一種であるサイトカイン放出症候群は93%の患者に発現したが、グレードはほとんどにおいて低かった。脳症、全般的錯乱、発話困難などの神経学的事象は約64%の患者に発現した。これらは通常、投与約5日後に発現し、2週間以内に回復した。

本試験では、有害反応に関連し患者3人が死亡したと報告された。このうち2人はaxi-celによるサイトカイン放出症候群、もう1人はaxi-celとは関連しないと判断された肺塞栓症を発症した。死亡は試験の早期に発生し、この対応として有害反応に対する一貫したモニタリングおよび迅速な管理を確実に行うため、すべての22施設で追加の安全ガイドラインが採用された。キメラ抗原受容体発現T細胞の濃度が患者の血中で14日以内にピークに達し、輸注180日後にほとんどの患者において検出可能であった。治療2年後に完全寛解を維持している患者3人では、キメラ抗原受容体発現T細胞が検出可能な濃度を維持し続けている。

幹細胞移植実施認定施設のみがaxi-cel治療施設として認められることができる。最終的には米国全域で90施設がギリアド社の所有するKite Pharma社により認定される予定である。治療を実施する前に医師は特別な訓練を受け、厳格なガイドラインと手順に従わなければならない。

本試験のMDアンダーソンにおける他の共同研究者は以下のとおりである。
Jason Westin, M.D., Department of Lymphoma & Myeloma

他の共同研究機関は以下のとおりである。
Moffitt Cancer Center, Tampa, Fla.; Washington University, St. Louis; University of Miami; Stanford University; Dana-Farber Cancer Institute, Boston; Montefiore Medical Center, New York; Vanderbilt University Medical Center, Nashville, Tenn.; City of Hope National Medical Center, Duarte, CA; Mayo Clinic, Rochester, Minn.; University of California at Los Angeles; Loyola University of Rochester School of Medicine, Rochester, N.Y.; Sarah Cannon Research Institute, Nashville; John Theurer Cancer Center, Hackensack, N.J.; Cleveland Clinic; Karmanos Cancer Center, Wayne State University, Detroit; University of Iowa Carver College of Medicine, Iowa City, Iowa; Colorado Blood Cancer Institute, Denver; Banner MD Anderson Cancer Center, Gilbert, Ariz.; Tel-Aviv Sourasky Medical Center, Tel Aviv; University of California at San Diego; and Kite Pharma, Santa Monica, Calif.

本試験はKite Pharma社及び一部Leukemia & Lymphoma Society Therapy Acceleration Programの支援を受けている。Neelapu医師はKite Pharma社の科学諮問委員会のメンバーであり、Locke医師は科学顧問である。

*サイト注:「FDAがCAR-T細胞療法Yescartaを成人大細胞型B細胞リンパ腫に承認」

翻訳担当者 竹原 順子

監修 花岡 秀樹(遺伝子解析/サーモフィッシャーサイエンティフィック)

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