濾胞性リンパ腫治療の新時代

MDアンダーソン OncoLog 2017年9月号(Volume 62 / Issue 9)

 Oncologとは、米国MDアンダーソンがんセンターが発行する最新の癌研究とケアについてのオンラインおよび紙媒体の月刊情報誌です。最新号URL

新規承認薬や臨床試験は細胞毒性薬から標的薬・免疫療法薬へシフト

濾胞性リンパ腫はいまなお不治の病ではあるが、最近承認された標的薬や免疫療法薬により患者の寛解および全生存期間が延長するようになった。さらに新しい薬剤併用法の第3相臨床試験もまもなく終了することから、最新の治療選択肢に関する知見を得れば、新規に診断された、あるいは再発性または難治性の濾胞性リンパ腫患者に医師が最適な治療法を提案する一助となるだろう。

約40年の間、濾胞性リンパ腫に対する標準的治療は細胞毒性薬による化学療法であった。濾胞性リンパ腫は非ホジキンリンパ腫の中では2番目に多く、低悪性度リンパ腫ではもっとも多い。標準的治療法が変わり始めたのは、1997年に米国食品医薬品局(FDA)が再発および難治性の濾胞性リンパ腫治療薬として抗CD20抗体のリツキシマブを承認し、2006年に一次治療薬としても承認した頃からである。それ以降、濾胞性リンパ腫の治療薬がさらに登場してきている。

「ここ5年間でパラダイムシフトがあり、ほとんどが最近の標的薬や免疫療法薬を含む新しい治療レジメンとなりました」。テキサス大学MDアンダーソンがんセンターでリンパ腫・骨髄腫部門准教授のNathan Fowler医師はこう述べている。

標準的治療が変わる

濾胞性リンパ腫の標準的な一次治療としては、リツキシマブ+シクロフォスファミド+ドキソルビシン+ビンクリスチン+プレドニゾン(R-CHOP)、リツキシマブ+シクロフォスファミド+ビンクリスチン+プレドニゾン(R-CVP)、リツキシマブ+ベンダムスチンがある。ほとんどの患者ではリツキシマブを含むこれらの治療法により4~7年の寛解が達成される。高齢による体力低下や合併症などにより細胞毒性薬を使用できない患者に対してはリツキシマブ単剤投与が一次治療となる。また、一次治療レジメンで部分寛解となった患者の維持療法としてもリツキシマブ単剤投与が有効である。

濾胞性リンパ腫の二次治療としては一般的な一次治療薬の再投与のほか、放射性医薬品であるイットリウム(Y90)イブリツモマブ・チウキセタンや、最近承認された治療法であるベンダムスチンと第二世代の抗CD20抗体であるオビヌツズマブの併用などがある。

再発または難治性の濾胞性リンパ腫に対する三次治療の選択については、患者の年齢や、直近の寛解の持続期間、リンパ腫の悪性度などによって異なる。2014年、濾胞性リンパ腫または小リンパ球性リンパ腫ですでに二次治療を行っている患者を対象とし、PI3K阻害剤のイデラリシブによる単剤治療が承認された。イデラリシブの第1相臨床試験および第2相臨床試験を実施したFowler氏は、イデラリシブはあくまでいくつかある三次治療の選択肢のひとつにすぎないと話しており、「二次治療の効果がない場合、新薬の臨床試験への参加や、幹細胞移植センターへの紹介をすすめることも多い」と述べている。患者がキメラ抗原受容体発現T細胞またはナチュラルキラー細胞による臨床試験への参加が適格であることもある(OncoLog 2017年5/6月号の記事『B細胞性腫瘍向けに、キメラ抗原受容体を用いたナチュラルキラー細胞療法』参照)。

標準的治療が変わりつつある結果、濾胞性リンパ腫患者の転帰は改善してきている。Fowler氏は、「いくつかの長期的追跡研究において、現在の標準的治療を受けた患者は、10~15年前とは違い、ほとんどの患者はリンパ腫によって死亡することはないことが示されています」と話している。

標準的治療はまだ変わる

濾胞性リンパ腫の標準的治療はまだ変化しつづけている。新しいレジメンと標準的治療を比較する多施設共同の第3相ランダム化臨床試験がいくつかあり、進行中または最近終了したところである(上段の表を参照)。これらの新しいレジメンのうち一部は今後数年の間にFDA承認を受けられるだろうとFowler氏は予想している。

リツキシマブと免疫調節薬のレナリドミドを併用するいわゆるR2というレジメンについて、治療歴のない濾胞性リンパ腫患者(No.2011-0805)または再発もしくは難治性の濾胞性リンパ腫患者(No.2015-0038)を対象とする第3相臨床試験に入っている。Fowler氏によると、この治療法に関する第1相および第2相臨床試験もMDアンダーソンで実施したという(上部グラフ参照)。「われわれは、未治療の濾胞性リンパ腫患者を対象としてモノクローナル抗体と免疫調節薬を組み合わせた免疫療法の臨床試験を初めて実施した機関です」とFowler氏は話している。R2の第3相臨床試験は双方とも患者登録を締め切っており、今後数カ月以内に暫定的な結果が出るだろうとFowler氏は予想している。

また、治療歴のない濾胞性リンパ腫患者に対しオビヌツズマブと細胞毒性薬を投与する第3相臨床試験があり、これも最近患者登録を締め切ったところだ。Fowler氏はオビヌツズマブとベンダムスチンを併用する第3相臨床試験のMDアンダーソンにおける試験責任医師を務め、二次治療薬としてのFDA承認につなげた。同氏は、今回の併用法が一次治療薬として承認されることを期待している。

現在進行中の2件の第3相臨床試験では、濾胞性リンパ腫患者に対するブルトン型チロシンキナーゼ阻害剤のイブルチニブ(他の低悪性度リンパ腫治療には承認済)の効果を評価中である。そのうちの一方の試験(No.20140088)では、再発または難治性の患者に対し、イブルチニブとR-CHOPまたはリツキシマブ+ベンダムスチンを併用する。この試験の患者登録はすでに終了している。もう一方の試験では、治療歴のない濾胞性リンパ腫で、細胞毒性薬が使用できない患者を対象としてイブルチニブとリツキシマブを併用する。後者の試験の全体試験責任医師でもあるFowler氏は、MDアンダーソンでまもなく患者登録を開始すると話している。イブルチニブ+リツキシマブを投与する臨床試験の対象となるのは、70歳以上、または60歳以上で1つ以上の主要な合併症がある患者で、リツキシマブ単剤投与よりも良好な無増悪生存率となることが期待されている。

濾胞性リンパ腫の研究では細胞毒性薬以外のレジメンに関心が高まっている。Fowler氏は、「患者が長期に生存できる疾患では、患者が病気そのものと治療の副作用とともに暮らしていかねばならないことから、どんな治療法であってもわれわれは短期的または長期的な毒性に十分な注意を払わねばなりません」と述べている。

「このため、われわれは濾胞性リンパ腫における免疫療法に特化したオープンスタディの構想を最近たちあげました」とFowler氏は述べた。

MDアンダーソンで進行中の試験のひとつ(No.2015-1063)では、PDL1阻害剤であるデュルバルマブの単剤投与または他の濾胞性リンパ腫治療薬との併用について評価中である。リンパ腫・骨髄腫部門助教のLoretta Nastoupil医師らが実施する別の臨床試験(No.2015-0361)では、R2+イブルチニブの効果を検討中である。また別の試験(No.2013-0261)ではオビヌツズマブをレナリドミドと併用した際の安全性と忍容性の評価を行っている。上記を含め、濾胞性リンパ腫患者を対象とした免疫療法薬や標的薬の臨床試験については、次号以降のOncoLogで詳細を議論する。

「濾胞性リンパ腫治療の世界は変わりつつあり、転帰もよくなっています」とFowler氏は言う。「われわれは新しい治療法を見出しつつあり、濾胞性リンパ腫と診断された患者の転帰は今後も改善し続けると信じています」。

【上段図キャプション訳】
治療歴のない濾胞性リンパ腫患者を対象とした第2相臨床試験において、レナリドミド+リツキシマブは高い5年無増悪生存率(左)および全生存率(右)を示した。

【下段表キャプション訳】
表タイトル
最近終了または現在進行中の濾胞性リンパ腫治療に関する第3相臨床試験

本文(左から右へ)
1行目:レジメン、対象とする濾胞性リンパ腫患者集団、試験の名称、NIHにおける試験番号、MDアンダーソンにおける試験番号・試験責任医師
2行目:R2、治療歴なし、RELEVANCE、NCT01476787およびNCT01650701、2011-0805
Dr. Nathan Fowler
3行目:R2、再発または難治性、AUGMENT、NCT01938001、2015-0038 Dr. Nathan Fowler
4行目:オビヌツズマブとCHOP, CVP, またはベンダムスチンの併用、治療歴なし、GALLIUM、NCT01332968、–
5行目:イブルチニブ+リツキシマブ、治療歴なし、PERSPECTIVE、NCT02947347、未決定
6行目:イブルチニブとBRまたはR-CHOPの併用、再発または難治性、SELENE、NCT01974440、2014-0088 Dr. Loretta Nastoupil

略語一覧
BR:ベンダムスチン+リツキシマブ CHOP:シクロフォスファミド+ドキソルビシン+ビンクリスチン+プレドニゾン CVP:シクロフォスファミド+ビンクリスチン+プレドニゾン NIH:米国国立衛生研究所 R2:リツキシマブ+レナリドミド R-CHOP:リツキシマブ+CHOP  TBD:未決定

For more information, contact Dr. Nathan Fowler at 713-794-5206 or nfowler@mdanderson.org. For more information about ongoing clinical trials for patients with follicular lymphoma, visit www.clinicaltrials.org.

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翻訳担当者 橋本 仁

監修 吉原 哲(血液内科・細胞治療/兵庫医科大学)、

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