遠隔食事介入がリンパ腫サバイバーの慢性疲労を軽減する可能性

オハイオ州立大学総合がんセンター

がん関連の慢性疲労を軽減する戦略として、意図的な食事の改善が検討されている。この知見は、オハイオ州立大学総合がんセンターのアーサー・G・ジェームズがん病院およびリチャード・J・ソロブ研究所(OSUCCC – James)、オハイオ州立大学ウェクスナー医療センターの研究者らにより、2月9日付のNutrition and Cancer誌で発表された。

慢性疲労は、すべてのがんサバイバーにおいて、がん治療で最も長引く副作用である。持続的な疲労は、うつ病、不安、全般的なQOLの低下と関連していることが研究により明らかになっている。

「慢性疲労は特にリンパ腫患者に多く、サバイバーの最大60%が治療終了後も疲労が続くことを報告しています」と、本研究の主著者でありオハイオ州立大学教育・人間環境学部准教授のTonya Orchard氏は述べている。「体内の炎症を抑え、疲労の改善に役立つ可能性のある特定の栄養素を豊富に含む食品が存在すると考えています」。

本研究では、疲労症状を改善するための栄養豊富な自然食品(ホールフード)に焦点を当てた遠隔配信の栄養カウンセリング介入に、リンパ腫サバイバーを募集して参加の継続が可能であるかを研究者は知りたいと考えた。オハイオ州立大学の研究チームは、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫の患者10人を募集し、疲労を軽減し全体的な食事の質を改善するための12週間の食事介入に関するパイロット研究に参加してもらった。

これまでに発表されたデータによると、リコピンや色鮮やかな食品由来のカロテノイド、特定のビタミンB群、オメガ3脂肪酸(錠剤や栄養補助食品ではなく自然食品から摂取)の摂取量を増やすことに焦点を当てた食事介入は、QOLを高める意味のある変化をもたらすことが示唆されている。

研究の方法と結果

今回のパイロット研究では、参加者全員が化学療法を終了し2年以上寛解状態を維持していた。

患者は、週4回と隔週4回のセッションで、登録栄養士から1対1の栄養カウンセリングを受けた。参加者は、食事に全粒穀物、野菜、果物、オメガ-3 多価不飽和脂肪酸 (n-3 PUFA) を多く含む脂肪分の多い魚や植物性食品を取り入れるよう求められた。

参加者はグループごとに目標が与えられ、好きな特定の食品を選ぶことができた。全体的な目標は食事の質を向上させることであった。具体的な目標としては、ビタミンCの多い果物を1日1個以上、黄色またはオレンジ色の野菜を1日1個、トマトを1日1個、葉物野菜を1日1サービング、全粒穀物を1日3サービング、オメガ3脂肪酸を多く含む食品(植物または魚介類由来)を1日2サービング摂取することとした。

この食事パターンは、本研究の共同研究者の一人であるSuzanna Zick博士が以前に発表した研究に基づいている。その研究では、カロテノイド、リコピン、特定のビタミンB群、オメガ3脂肪酸を豊富に含む食品が乳がんサバイバーの疲労を改善したことを示唆している。

「私たちの体に長期的に健康的な変化をもたらすのは栄養豊富な食品の相乗効果なのかもしれませんが、このプロセスについてはまだわかっていないことがたくさんあります」と、OSUCCC-Jamesの栄養士であり本研究共著者のAnna Maria Bittoni氏は述べている。

参加者には、各カテゴリーに適合する具体的な食品リストとサンプルレシピでの使用方法が掲載された食事介入小冊子が配布された。その後、栄養士はがんサバイバーと協力して、持続可能な食事の変更や、味の好み、調理技術、時間の制限など、食生活の変更を実施する上で起こりうる障壁に対処するためのカウンセリングを行なった。食事の好みと行動上の障壁の両方に対処するため、介入は個人に合わせて調整された。

本研究の結果、遠隔「テレヘルス」(遠隔医療)形式は、リンパ腫サバイバーグループにとって実行可能であり受け入れられることが示唆された。12週間の介入では参加者の90%が継続することができ、研究目標の遵守率も高かった。介入終了時には、参加者は特定の食品群の摂取目標を、週平均で4.8日~6.1日達成することができた。

参加者の大半は研究終了までに食事目標を達成することができた。具体的に、参加者は:

・ 柑橘類、メロン、ベリー類などのジュース以外の果物の摂取量は1日0.83カップ増加し、果物全体では1日1.28カップ増加した。
・ 野菜の摂取量は1日2.05カップから3.76カップに大幅に増加した。
・ オメガ3多価不飽和脂肪酸を多く含む魚の摂取は、1日1.76サービングから3.75サービングに増加した。
・ 全粒穀物の摂取も、ベースライン時の1日1.2サービングから3.65サービングに増加した。

また、今回のパイロット研究では、参加者がHealthy Eating Index 2015スコアを大幅に向上させたことが示された。このスコアは、米国農務省の食事勧告に基づき、全体的な健康的食事パターンを示す指標として確立されているものである。

PROMIS (患者報告アウトカム測定法情報システム) 疲労スコアで測定した自己申告による疲労は、介入後に有意に減少した。研究者らは、これは有望な予備データであり、食事介入が、がん関連疲労の軽減に効果的である可能性を示唆していると指摘している。ただし、この研究では対照群を設けていないため、これを検証するためにはさらなる研究が必要である。

「がん を克服し元気に暮らす患者さんが益々増えています。サバイバーシップの全体像に目を向けると、慢性疲労のようながんやがん治療の長期的な副作用を認め、それに対処することが非常に重要です。食事は、がんサバイバーのQOLにプラスの影響を与えるための身近で現実的な機会であり、さらに研究していく価値があります」とオーチャード氏は述べた。

本研究の主著者は登録栄養士のKellie Weinhold氏である。共著者は、オハイオ州立大学人間栄養学の学生であるSarah Light氏と共同研究者のSuzanna Zick博士である。

研究協力者には、登録栄養士のEmily Botello氏、OSUCCC-Jamesの医師であるKami Maddocks博士とBeth Christian博士が含まれる。

  • 監訳 大野智(補完代替医療/島根大学 臨床研究センター)
  • 翻訳担当者 青山真佐枝
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  • 原文掲載日 2023年2月9日

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