腫瘍の酸性環境を変化させることにより、卵巣がんのPARP阻害剤感受性を回復

腫瘍の酸性環境を変化させることにより、卵巣がんのPARP阻害剤感受性を回復

・PARP阻害剤は卵巣がんの治療法として最も広く用いられているものの、獲得耐性によりその長期的な有効性が制限されている
・研究者らは、腫瘍微小環境によって活性化されるシグナル伝達経路が PARP阻害剤耐性の主要因であることを明らかにし、この経路を阻害することで腫瘍の感受性が回復することを示した
・この経路は、腫瘍微小環境が酸性であることによって活性化される。酸性環境は複数の腫瘍タイプで共通して見られるため、このアプローチは幅広い腫瘍に応用できる可能性がある
・この経路を標的とするいくつかの薬剤がすでに開発段階にあり、将来的な臨床研究の検討を後押ししている

テキサス大学MDアンダーソンがんセンターの研究者らは、卵巣がんにおけるPARP阻害剤耐性を克服するための有望な戦略を明らかにした。PARP阻害剤は広く用いられている治療法だが、その長期的な有効性を妨げる最も一般的な要因の一つが耐性である。
 
酸性の腫瘍微小環境によって活性化されるシグナル伝達経路を標的化することで、前臨床モデルで PARP阻害剤への感受性が回復し、獲得耐性を克服する新たな治療戦略となり得ることが示された。Cancer Research誌に掲載されたこの研究は、実験治療学部門の教授兼部門長であるRugang Zhang博士と、Rugang Zhang研究室のポスドク研究員であるKaixin Cheng博士とが主導した。
 
Zhang博士は次のように述べている。「PARP阻害剤は多くの卵巣がん患者の治療を大きく変えてきましたが、耐性の発生によって長期的な有効性が制限されることがよくあります。本研究は、腫瘍微小環境が治療抵抗性を引き起こす重要な要因であることを明らかにし、かつPARP阻害剤に対する感受性を回復させ、患者への治療効果をより長くするための有望な戦略を示唆しています」。

酸性の微小環境は、腫瘍が治療を回避するのをどのようにして助けるのか?

酸性は多くの腫瘍に見られる特徴であり、異常な代謝や血流の低下によって腫瘍内に酸が蓄積することで生じる。腫瘍の酸性化は、がん治療への耐性と長く関連付けられてきたものの、PARP阻害剤に対する反応への影響は十分に理解されていなかった。

PARP阻害剤は、がん細胞が生存のために依存する重要なDNA修復経路を阻害する薬剤である。これらの治療法は、BRCA変異を有する腫瘍など、DNA修復に欠陥を持つ卵巣がんで特に高い効果を示す。しかし、多くの腫瘍は最終的にPARP阻害剤への耐性を獲得し、患者にとって有効な治療選択肢が限られてしまう。

本研究では、酸性環境にさらされた卵巣がん細胞が PARP阻害剤に対する感受性を大きく低下させることを明らかにした。酸性環境は ERK、p300、PARP1 からなるシグナル伝達ネットワークを活性化し、これらのタンパク質は細胞内シグナル伝達、遺伝子活性、DNA修復を統合的に制御している。この経路の活性化により PARPトラッピングが減少した。PARPトラッピングとは、PARP阻害剤が DNA損傷部位で PARP酵素を捕捉・固定し、DNA修復を阻害する現象のことを指す。したがって、この経路によってPARPトラッピングが低下すると、PARP阻害剤の抗腫瘍効果も低下することになる。

このシグナル伝達経路を標的とすることで、どのようにして治療抵抗性が逆転するのだろうか?

大規模な CRISPR 遺伝子スクリーニングにより、腫瘍の酸性環境で活性化される耐性経路の主要な駆動因子として p300 が特定された。研究者らは、p300 がアセチル化と呼ばれるプロセスを介して PARP1 に化学修飾を付加することを明らかにした。この修飾により、がん細胞は PARP阻害剤による DNA損傷を回避できるようになっていた。

p300阻害剤によってこのプロセスを遮断すると、卵巣がん細胞で PARP阻害剤への感受性が回復し、獲得PARP阻害剤耐性モデルを含む複数の前臨床モデルでより強い抗腫瘍反応がもたらされた。

さらに本研究結果は、PARP1 のアセチル化や ERK の活性化が治療抵抗性のバイオマーカーとなり得る可能性を示唆している。PARP阻害剤治療を受けた卵巣がん患者の腫瘍サンプルを解析したところ、活性化 ERK とアセチル化 PARP1 のレベルが高い腫瘍ほど治療抵抗性を示し、予後不良と関連していることが明らかになった。

この研究の今後の展望は?

本研究は、卵巣がん治療における p300 阻害剤のさらなる研究を後押しする科学的根拠を示している。今後の臨床試験では、p300阻害剤と PARP阻害剤との併用が治療抵抗性を克服できるか、あるいは PARP阻害剤の効果が得られにくい患者の予後改善につながるかどうかを検証できる可能性がある。

UT MDアンダーソンがんセンターの Therapeutics Discovery 部門が開発した IACS‑16559 を含む複数の p300 阻害剤が、前臨床段階または初期臨床段階にあり、この治療戦略のさらなる検討を後押ししている。

PARP1 のアセチル化や ERK の活性化が治療反応を予測するバイオマーカーとして利用できるかどうかを明らかにするためには、さらなる研究が必要である。今後の研究によって、腫瘍微小環境内で治療抵抗性を引き起こすさらなるメカニズムが明らかになり、治療介入の新たな可能性が広がることも期待される。

Cheng博士は次のように述べている。「最も印象的だった発見の一つは、治療薬が依然として同じ量だけがん細胞に到達していたことであり、問題が薬剤送達にあるわけではなかったという点です」。「これらの知見は、酸性腫瘍微小環境が、がん細胞と並ぶ重要な治療標的となり得ることを示唆しています」。

  • 監修 勝俣範之(腫瘍内科/日本医科大学武蔵小杉病院)
  • 記事担当者 山口美智子
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  • 原文掲載日 2026/07/29

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