植物性食品の多い食生活は、前立腺がんの進行/再発リスク低下と関連

ASCOの見解

「前立腺がんの患者、その家族、介護者、医師にとって、病気の進行リスクは極めて重要な懸念事項の一つです。今回の試験結果は、健康管理のために推奨する食事内容など臨床ケアに直接活かされる可能性があり、その他にも多くの慢性疾患を予防するうえで健康に有益な利点をもたらす可能性を秘めています」とASCOの泌尿生殖器がんエキスパートであるBradley Alexander McGregor医師は語る。

食生活に植物性食品を最も多く取り入れていると報告のあった前立腺がんの試験参加者は、最も取り入れていない参加者と比較して、がんの進行リスクが52%低く、再発リスクも53%低かった。食生活評価は、Cancer of the Prostate Strategic Urologic Research Endeavor(CaPSURE)試験登録者に対して実施された食物消費に関するアンケートに基づいている。

本試験は、2023年2月16日から18日にカリフォルニア州サンフランシスコで開催される2023年米国臨床腫瘍学会(ASCO)泌尿生殖器がんシンポジウムで発表される予定である。


試験の要旨

試験の焦点:前立腺がん

試験の種類:観察分析

試験の対象者:Cancer of the Prostate Strategic Urologic Research Endeavor(CaPSURE)試験に登録されたステージT1-T3a(転移がない、または転移が限定的)の前立腺がんと診断された43歳から102歳(中央値72歳)の患者2,038人。

試験のプロトコル:中央値7.4年にわたり、研究者らは植物性食品の食事と前立腺がんの進行および再発のリスクとの関連性を明らかにした。

試験結果:

・植物性食品の摂取量が最も多いと報告のあった参加者は、最も少ない参加者と比較して、進行のリスクが52%、再発のリスクが53%低い。

・関連性に、年齢、歩行ペース、グレード、ステージによる差異はない。

2023年に米国で288,300人が新たに前立腺がんと診断され、34,700人が前立腺がんで死亡すると推定されている[i]。前立腺がんのリスク要因に、高齢、アフリカ系の家系、前立腺がんの家族歴、特定の遺伝的疾患などが挙げられる。喫煙や過体重により、悪性度が高い前立腺がん、または死に至る前立腺がんのリスクが高まる可能性がある。

「前立腺がん進行の修正可能なリスク因子という点で、すべての食事が同等というわけではありませんが、この試験結果がリスクのある人が食事全体においてより望ましく、健康的な選択をするための指針となることを願っています」とカリフォルニア大学サンフランシスコ校オッシャー統合医療センター(Osher Center for Integrative Health)の臨床研究コーディネーターであり、試験の筆頭著者であるVivian Liuは語る。「野菜、果物、豆類、全粒穀物を含む食事が、糖尿病、心血管疾患、全死亡率の減少など健康に良い点が数多くあることがすでに明らかになっています。その中に前立腺がんの進行を抑制する効果も加えられます」

試験について

トマトなどの食品は前立腺がんの発生および死亡を減少させるようであると数十年にわたる観察研究により明らかになっている。しかし、植物性食品中心の食習慣と前立腺がんからの生存については詳しく知られていない。そのため、2004年にCaPSURE Diet and Lifestyle(CDL)サブスタディが開始された。CaPSUREに登録して、食生活と生活様式に関するアンケートに回答した患者が本試験の参加者となっている。

試験参加者は全員、初期から中期グレードの前立腺がんであった。参加者は、約140種類の食品および飲料の摂取量と頻度について食物頻度アンケートに回答した。食事指標(総合的な植物性指標と健康的な植物性指標)は、食事に含まれる植物性食品群または動物性食品群に割り当てられた正または負の値の合成値に基づいて点数化した。

研究者は、診断から最初のアンケートを実施するまでの日数、診断時の年齢、診断年、全エネルギー摂取量、CaPSURE臨床サイト、人種、歩行ペース、喫煙状況、診断時のグリソンスコア、診断時の前立腺特異抗原(PSA)レベル、一次治療に応じて調整を行った。また、研究者は、喫煙状況、歩行ペース、糖尿病歴、前立腺がんの家族歴、世帯収入、教育レベル、身長、肥満度指数、アルコール摂取、マルチビタミンの摂取、カルシウムサプリメントの摂取、セレンサプリメントの摂取など評価に偏りをもたらす可能性のあるさまざまな要因についても質問した。これらの要素は、植物性食品中心の食生活と前立腺がんの進行リスクとの関連を検討する解析結果に影響を及ぼさなかった。歩行速度を評価する根拠は、この群の過去の研究で歩行速度が年齢、ステージ、グレードなどの臨床的要因とともに、進行の有意な予測因子であったからである。

主な知見

試験参加者の2,038人のうち、中央値7.4年の観察期間中に病気が進行したのは204人(10%)であった。食生活に植物性食品を最も多く取り入れていると報告のあった参加者は、最も少ない参加者と比較して、病気の進行リスクが52%、再発リスクが53%低下した。関連性に参加者の年齢、歩行ペース、診断時のグレード、診断時のがんのステージによる差異はなかった。

次のステップ

研究者らは、植物性食品中心の食生活と前立腺がん特異的死亡率との関連性を分析する予定である。また、植物性食品中心の食事療法と診断から2年、5年、10年後の前立腺がん特異的QOLとの関連性についても研究する。
この試験は直接の資金提供を受けていない。

  • 監修 榎本 裕(泌尿器科/三井記念病院)
  • 翻訳担当者 松長 愛美
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  • 原文掲載日 2023/02/13

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