積極的放射線治療で転移のある前立腺がんの進行が遅延

高精度の放射線が少数転移を有する前立腺がん患者の全身性免疫反応を引き起こす

第2相臨床試験の結果、高精度かつ高線量の放射線療法である体幹部定位放射線治療(SABR)が少数の遠隔転移を有するホルモン感受性前立腺がん患者の病勢進行を遅らせる可能性があることが示された。

本試験はORIOLE試験(第2相ランダム化試験の主要転帰:オリゴメタ前立腺がんに対する経過観察と体幹部定位放射線治療[SABR]の比較 )と呼ばれ、2016年からジョンズホプキンス大学キンメルがんセンターの研究者によって行われているもので、再発オリゴメタ前立腺がんを対象に、体幹部定位放射線治療(SABR)と経過観察の有効性を比較するものである。

「免疫療法の時代である今日では特に重要なのですが、いずれかの種類の放射線療法、特にSABRが免疫機構を刺激することができるかどうかは長年の疑問でした」とTran医師は話す。「われわれの試験では、SABRが全身性免疫反応を引き起こすことを示唆する最良のデータを得ることができました」

オリゴメタ(少数の転移がん)とは、原発腫瘍から体内の1から3カ所へ転移したがんを指す。
毎年、世界で推定130万人が新規に前立腺がんと診断されており、うち20%程度が転移を有するが、オリゴメタが全体の何パーセントを占めるかについては明らかになっていない。前立腺がんは米国全体で三番目に多いがんであり、男性の中では最も多く、毎年3万人が死亡する。進行前立腺がんは根治不可能であるが、再発ホルモン感受性前立腺がん患者は、標準治療のひとつのアンドロゲン除去療法と呼ばれる抗ホルモン療法(内分泌療法)の開始を遅らせたいと思っているかもしれない。なぜなら、この治療は勃起不全、骨折につながる骨密度低下、筋肉量および体力の低下、疲労、体重増加、乳房組織の増大など、不快な副作用をしばしば引き起こすためである。

本研究の論文は3月26日にJAMA Oncology誌に掲載された。

試験の参加者54人のうち、6カ月以内に病勢が進行した患者はSABRを受けた群では36人中7人(19%)であったのに対し、経過観察のみの群では18人中11人(61%)であった。6カ月時点における新規病変のリスクもSABR群で16%と低かったのに対し、経過観察群では63%であった。

また、本試験の結果、臨床的意義のある副作用および治療に関連する痛みの報告については、2群間で有意な差は見られなかった。ORIOLE試験に参加した男性の平均年齢は68才であり、ほとんどの参加者は白人であった。

試験責任医師であるPhuoc Tran医学博士はジョンズホプキンス医科大学の放射線腫瘍学および分子放射線科学の教授であり、ジョンズホプキンス大学キンメルがんセンターのメンバーでもある。Tran博士によれば、試験参加者から採取した血液における免疫系の白血球を分析した結果、SABRはT細胞画分の拡大と関連していることが示された。このことは、SABRががんに対する全身の免疫応答を刺激したことを示唆している。Tran博士は、Andrew Ewald博士、Ashani Weeraratna博士とともに、がんの転移プロセスを研究し、進行がん患者のためのより良い治療を拡充・開発することを目的とし、キンメルがんセンターがん浸潤・転移領域を担当している。

本試験の結果は、再発オリゴメタ前立腺がんの治療としてSABRと他の免疫療法を併用できる可能性があることを示唆している。しかし、Tran博士は、併用療法がもたらし得る利益については、将来的に臨床試験を通して検証する必要があると警告している。

本試験の研究者らは、一部の患者の腫瘍において、がんの抑制遺伝子に変異が起きていることを発見した。SABRを受けた患者群でも、この遺伝子変異はがんの進行しやすさと相関していた。「これは患者のがんの背景にある仕組みを示す分子マーカーかもしれません」と、Tran博士は語る。

このバイオマーカーが、化学療法のような全身療法と比べ「SABRのような転移の治療から最も利益を得られるのはどのような患者か」について医師が知るための一助となる可能性がある、とTran博士は語る。

Tran博士によれば、SABRは単に再発オリゴメタ前立腺がんの転移巣が再び増大する前に時計の針を元に「戻す」のではなく、微小転移の進行を促進するシグナルを除去し、影響を与えることができることをORIOLE試験の結果が示唆しているという。

Tran博士らは病勢進行のより緩やかな患者数を増やすことができるかを調査するため、第2相試験を継続する予定である。ORIOLE試験では、骨転移を有する患者は別の箇所の骨にがんが再発する確率が最も高かった。Tran博士らは、これら新規の骨転移を対象とし、SABRとゾーフィゴ(塩化ラジウム223)の併用療法の臨床試験であるRAVENS試験も進行中である。

この他に試験に参加した研究者は、ジョンズホプキンス大学のRyan Phillips Matthew Deek Noura Radwan Su Jin Lim Emmanuel S. Antonarakis Steven P. Rowe Ashley E. Ross Michael A. Gorin Curtiland Deville Stephen C Greco Hailun Wang Samuel R. Denmeade Channing J. PallerShirl Dipasquale Theodore L. DeWeese Daniel Y. Song Hao Wang Michael A. Carducci Kenneth J. Pienta Martin G. Pomper Adam P. DickerMario A. Eisenbergerに加え、スタンフォード大学のWilliam Yue Shi Ash A. Alizadeh Maximilian Diehnであった。

本研究は、前立腺がん財団(Prostate Cancer Foundation)、モベンバー財団(Movember Foundation)、コモンウェルス財団(Commonwealth Foundation)、Nesbitt-McMaster財団、Ronald Rose&Joan Lazar の両氏、米国国立衛生研究所(U01CA183031)から資金提供を受けて行われた。

*概説図の訳*
Consolidative hypothesis: 多数転移に至るまでの仮説
Therapy: 治療
Surgery: 手術
Radiation: 放射線治療
Complete response: 完全寛解
Oligoprogressive Disease: 少数転移進行
Oligoclonal Progression: オリゴクローナル進行
Widely Metastatic Disease: 多数の転移

翻訳担当者 高橋多恵

監修 河村光栄(放射線治療科/京都医療センター)

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