特定の前立腺がん(mCRPC)にイピリムマブが有望

第2相試験において、腫瘍の遺伝子変異量が少ないがん種においても、患者がイピリムマブによる治療の恩恵を受けられる可能性があることがわかった。

通常、転移のある去勢抵抗性前立腺がん(mCRPC)に対する免疫療法の反応性は限定的であるが、腫瘍において活性T細胞反応の根拠が治療前に確認された患者群では、イピリムマブによる治療により長期生存が得られるという結果が、テキサス大学MDアンダーソンがんセンターで行われた第2相試験で確認された。

2020年4月1日にScience Translational Medicine誌で発表された結果では、mCRPCの患者において、免疫チェックポイント阻害剤の恩恵が得られることがあり、このようなサブグループを特定するためのバイオマーカーが見出される可能性があることが示された。

「われわれの調査結果は、前立腺がんでは腫瘍の遺伝子変異量が少ないにもかかわらず、免疫チェックポイント阻害剤によりT細胞が活性化し、腫瘍のネオアンチゲンに対して反応する可能性があることを示しています」と筆頭著者でGenitourinary Medical Oncologyの助教授であるSumit Subudhi医師は述べた。「最大の治療効果が得られた患者群において、T細胞の密度やインターフェロン-γのシグナル伝達などの特異的マーカーを発見しました。このマーカーは、免疫チェックポイント阻害剤による治療を行う患者をより正確に選択するために役立つでしょう」

メラノーマや肺がんなど、免疫チェックポイント阻害剤に対する反応が最も強いがん種では、原因となっている遺伝子変異量が多い傾向にあり、免疫系によって異物と認識される変異タンパク質、つまりネオアンチゲンの産生を引き起こしている。前立腺がんは、遺伝子変異量が比較的少なく、存在するネオアンチゲンも少ない。

しかし、大規模な第3相試験の結果では、mCRPC患者のサブグループにおいて、免疫チェックポイント阻害剤により好ましい効果が得られているとSubudhi医師は説明し、遺伝子変異量の少ない腫瘍においても、免疫チェックポイント阻害剤による効果的な免疫応答が刺激されるかどうかが研究課題とされた。

この課題について調査するため、研究チームはMDアンダーソン免疫療法プラットフォームと共同で第2相試験を開始した。本試験は統括著者である泌尿生殖器腫瘍学・免疫学教授Padmanee Sharma医師と共に主導し実施された。このプラットフォームは、科学的発見を患者の生命を救う有意義な臨床的進歩へと迅速に発展させるための取り組みであるMDアンダーソンのムーンショット計画の一部である。

本試験には、2015年1月から2018年5月までにMDアンダーソンのmCRPC患者30名が登録された。そのうち29名は、イピリムマブの投与を少なくとも1回受け、最終解析に含められた。初回治療後の追跡期間中央値は45.5カ月であった。

放射線画像評価による無増悪生存期間(PFS)の中央値は3カ月で、全生存期間(OS)の中央値は24.3カ月であった。8人の患者(28%)はグレード3の毒性を経験し、最も頻繁に発生した毒性は皮膚炎と下痢であった。グレード4または5の毒性を経験した患者はいなかった。

研究者らは、無増悪生存期間が6カ月以上で全生存期間が1年以上の9人の患者を「予後良好」群、無増悪生存期間が6カ月未満で全生存期間が1年未満の10人の患者を「予後不良」群と定義した。解析時には、予後良好群の6人(67%)の患者が生存しており、生存期間は33〜54カ月であった。

これら2つのコホートの治療前のサンプルを比較することにより、免疫チェックポイント阻害剤に対する良好な反応性に関連するマーカーを特定した。予後良好群の患者では、腫瘍においてより高い密度の細胞傷害性T細胞とメモリーT細胞を有しており、またインターフェロン(IFN)-γのシグナル伝達発現が増加していた。

さらに、研究者らは、予後良好群の患者から分離されたT細胞は腫瘍に存在するネオアンチゲンを認識して反応することができたが、予後不良群の患者のT細胞は同じ反応を示さなかったと報告した。

Sharma医師は「良好な臨床結果につながるT細胞の反応を誘発するネオアンチゲンが、遺伝子変異量が少ない前立腺がんにおいて実際に発現しているかどうかを確認することが推奨されます。われわれの研究結果から、抗CTLA-4免疫チェックポイント療法が転移性前立腺がん患者の生存を改善する可能性がある治療戦略として確立されるために、追加の研究が必要であることが示されました」と述べた。

今後、著者らはこの課題についてより大規模な多施設研究で調査し、今回の試験結果を検証する予定である。

本研究は、MDアンダーソンのムーンショット計画の一部である免疫療法プラットフォームと前立腺がんムーンショットから部分的に支援を受けた。また、ブリストル・マイヤーズ スクイブ社、Stand Up To Cancer-Cancer Research Institute Immunology Dream Team Translational Research Grant、Prostate Cancer Foundation Young Investigator Award、および米国国立がん研究所(CA1633793、P30CA016672)からも支援を受けた。 Padmanee Sharma医師とJames Allison博士は、MDアンダーソンParker Institute for Cancer Immunotherapy(PICI)のメンバーである。

Subudhi医師とSharma医師に加え、本研究に協力したMDアンダーソンの研究者は以下のとおりである。Luis Vence, Ph.D., Hao Zhao, Ph.D., Jorge Blando, Ph.D., Shalini Yadav, Ph.D., and Qing Xiong, all of the immunotherapy platform; Alexandre Reuben, Ph.D., of Thoracic/Head & Neck Medical Oncology; Ana Aparicio, M.D., Paul Corn, M.D., Ph.D., and Christopher Logothetis, M.D., all of Genitourinary Medical Oncology; Brian Chapin, M.D., and Louis Pisters, M.D., both of Urology; Patricia Troncoso, M.D., of Pathology; Rebecca Tidwell, and Peter Thall, Ph.D., both of Biostatistics; Chang-Jiun Wu, Ph.D., Jianhua Zhang, Ph.D., and Andrew Futreal, Ph.D., all of Genomic Medicine; and Jim Allison, Ph.D., of Immnology and the immunotherapy platform.
共同著者の全リストは、論文で開示している。

翻訳担当者 河合加奈

監修 榎本裕(泌尿器科/三井記念病院)

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