早期前立腺がんに対する短期放射線療法を支持する新ガイドライン

寡分割照射を従来の長期間照射法と比較すると初期がんの抑制および副作用発現率が同程度であるとのエビデンスを反映したASTRO/ASCO/AUAの新ガイドライン推奨事項

2018年10月11日、放射線外照射療法(EBRT)を用いて初期の前立腺がん男性を治療する医師向けの新たな医療ガイドラインを、3つの著名な医学会が発表した。ガイドラインの採用により、アメリカ人男性に最も多いがんである前立腺がんの多数の患者にとって治療期間が短縮され、利便性が向上するであろう。

新ガイドラインは米国放射線腫瘍学会(ASTRO)、米国臨床腫瘍学会(ASCO)および米国泌尿器科学会(AUA)からの専門委員会により作成され、従来の長期間放射線療法の代替として、寡分割放射線療法という治療選択肢を患者に提示することを推奨する。ASTRO、ASCOおよびAUAは、各学会誌であるPractical Radiation Oncology誌、Journal of Clinical Oncology誌およびJournal of Urology誌でそのガイドラインを発表した。

「よく設計された複数の大規模ランダム化比較試験空のエビデンスにより、外照射療法でがんを抑制することを選択する初期前立腺がん男性にとって、線量漸増はほぼ全般的に有益であることが確認されています」とHoward Sandler医師(FASTRO、FASCO、シダーズ・サイナイ医療センター放射線腫瘍学科長兼教授、ガイドライン委員会共同委員長)は述べた。「治療計画および実行における飛躍的な進歩により、腫瘍専門医はより効果的かつ生命を救う線量での放射線治療を少ない来院回数で実施することが可能になりました。また、生活の質(QOL)が低下することもありません」。

放射線外照射療法は、標準的な根治的治療選択肢の一つであり、限局性前立腺がんを有する男性に対し前立腺全摘除術と同等の転帰をもたらす。外照射療法が寡分割照射であると、患者は少ない治療回数で多量の放射線を受け、従来の放射線照射であれば8~9週間かかるのに対し、通常4~5週間で治療が完了する。超寡分割照射(体幹部定位放射線治療(SBRT)、定位切除放射線治療(SABR))は、わずか5回の治療で完了することが可能である。

今回の推奨は、経過観察でなく治療が必要であることが望ましく、限局性前立腺がんに対して前立腺全摘除術、小線源治療、その他の治療選択肢ではなく、外照射療法を選択した患者に対して適用する。主な推奨事項は下記の通りである。

・外照射療法を選択している男性には、がんリスク群、患者の年齢、併存疾患、身長・体重 またはベースライン時の排尿機能にかかわらず、中等度寡分割照射[240~340センチグレイ(cGy)の分割数]を従来の分割(180~200 cGy)の代用として提供すべきである。

・中等度寡分割照射のために提案された治療計画には、ランダム化臨床試験で最大数の患者で実施された2種類のスケジュールが含まれる。すなわち、4週間にわたり300 cGyを20回照射して総量6,000 cGyとするスケジュール、または5週間半にわたり250 cGyを28回照射して総量7,000 cGyとするスケジュールである。

・中等度分割の外照射療法は、従来の分割照射と同程度の初期がん制御および副作用をもたらすものであるが、医師は患者とのカウンセリングにおいて、短期的な胃腸毒性リスクがわずかに上昇すること、および治療後5年を超えるがんの転帰に関するデータは少ないことを話し合うべきである。

・超寡分割照射(500 cGy以上)のガイダンスは、前立腺がんリスクにより異なる。EBRTを選択している低リスク患者には、従来の分割の代替として提供してもよい。中程度リスク患者に対しては、提供可能であるが、専門委員会は臨床試験または多施設レジストリの一部として実施することを強く勧めている。高リスク患者に対しては、専門委員会は臨床試験または多施設レジストリ以外での超寡分割照射の提供を勧めていない。超寡分割照射への推奨事項は、このアプローチに関する現時点のエビデンスが限られていることを踏まえ、専門委員会によって「条件付き」として等級分けされた。

・超寡分割照射に関して提案された治療計画には、公表済みの試験で最も多くみられる2つのスケジュールが含まれる。すなわち、700 cGyを5回照射して総量3,500 cGyとするスケジュール、または725 cGyを5回照射して総量3,625 cGyとするスケジュールである。5回分割の治療計画に対し、専門委員会は、臨床試験または多施設レポジトリ以外では放射線総量が3,625 cGy以上とならないよう推奨している。5回分割とする場合は治療が連日となることも避けるべきである。

・標的組織および正常組織の体積、線量拘束値、マージン定義および照射技術など、前立腺小分割放射線療法の計画および実施の技術的側面も推奨事項の対象である。専門委員会は、画像誘導放射線治療(IGRT)の使用および非変調の原体照射法の回避を普遍的に推奨する。

・340~500 cGyという分割のサイズは、試験で検証されたことがほとんどないため、ガイドラインの対象外となった。今回のガイドラインからは、局所進行または転移性疾患に対する治療、術後放射線治療、サルベージ療法および再照射も除外される。

「小分割放射線療法を受けることを選択する男性は、治療期間がより短くてすみ、多くの男性にとって歓迎すべきメリットです。医師が転帰を維持しつつ全治療期間を短縮させることができれば、患者にとって有益です。患者が家族から離れる時間や、治療のための往復時間が少なくてすむためです」とScott Morgan医師[FRCPC(カナダ王立内科医協会特別会員)、オタワ大学放射線腫瘍学助教、ガイドライン委員会共同委員長]は述べた。

「放射線治療実施における画像誘導などさまざまな進展により、放射線腫瘍医は以前より短い治療期間で治療放射線量を用いて、前立腺がんの治療が可能になりました」とDaniel Barocas医師(ヴァンダービルト大学医療センター泌尿器科准教授、ガイドライン共著者)は述べた。「これまでの結果は、忍容可能な副作用プロファイルを維持しつつ、従来の分割照射と同等の初期がん抑制が可能であることを示しています。このことは、治療の負荷およびコストの減少という観点から患者への便益があり、EBRTの受容性が高まる可能性があります」。

このガイドラインを作成するために、医師、研究者、患者支援者から成る16人の専門委員会が、2001年12月から2017年3月までに発表された研究試験を再調査した。患者6,000人以上による大規模な前向きランダム化臨床試験4試験などの61本の論文が評価された。本ガイドラインは、パブリックコメント期間後、ASTRO、ASCOおよびAUAの理事会により承認された。これまで米国泌尿器腫瘍学会(SUO)、欧州放射線腫瘍学会(ESTRO)およびRoyal Australian and New Zealand College of Radiologists(RANZCR:オーストラリア・ニュージーランド放射線学会)に支持表明されている。

「限局性前立腺がんの小分割放射線療法:ASTRO、ASCOおよびAUAのエビデンスに基づくガイドライン」は、下記の学会誌で閲覧できる。
•Practical Radiation Oncology誌—https://doi.org/10.1016/j.prro.2018.08.002
•Journal of Clinical Oncology誌—http://ascopubs.org/doi/full/10.1200/JCO.18.01097
•The Journal of Urology誌—https://doi.org/10.1016/j.juro.2018.10.001

翻訳担当者 太田奈津美

監修 辻村信一(獣医学・農学博士、メディカルライター)

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