バイオマーカー検査で前立腺がん診断時の不要な生検を減らせる
尿中の2種類のバイオマーカー検査によって、一部の男性で前立腺がんの診断を確定するための不要な生検を回避できる可能性があることが、新たな試験の結果によって示されている。
前立腺特異抗原(PSA)検査または直腸診(DRE)で異常が認められたため前立腺生検を受けた男性では多くの場合、その生検によって、がんではないこと、またはほとんどの場合治療を必要としない進行の遅いがんであることが判明する。
NCIが助成する試験において、研究者らは高悪性度の前立腺がんとの関連性が研究で示されている2種類のバイオマーカー(PCA3およびT2:ERGと呼ばれるRNAバイオマーカー)の値の上昇を、前立腺生検を受けた男性の尿検体で検討した。その結果、どちらかのバイオマーカー値の上昇が認められる男性だけに生検の実施を制限することで、不要な生検の数を3分の1~2分の1に削減できると考えられることを、JAMA Oncology誌5月18日号で報告した。
本試験の臨床試験責任医師でエモリー大学ウィンシップがん研究所のMartin Sanda医師の説明によれば、同時にこの生検前のスクリーニング法は「より悪性度の高いがんを検出する能力も保っている」と考えられる。
現時点では、日々の診療でこの検査を実施するためにはハードルがあるとSanda氏は注意を促した。しかし本試験の結果は、これらのバイオマーカー検査によって、前立腺がん検診および早期発見のための現在の枠組みが抱えるいくつかの限界に対処することができる可能性があることを、「明らかに示している」と同氏は述べた。
異常を示す検査結果から不要な生検へ
現在、多くの組織が前立腺がんに対するPSA検査を用いた定期検診を行わないよう勧告しているため、PSA検査の利用は近年減少しており、前立腺生検や前立腺がん手術の件数も減少している。
PSA検査は、前立腺がんの可能性がある男性の特定に役立つ。しかしこの検査では、進行の遅い、すなわち低悪性度で、害を及ぼす可能性の低いがんを、命にかかわる可能性のあるがんと区別することはできない。
研究者らにとっての最大の課題の一つは、低悪性度のがんと致死的ながんとを識別することが可能な前立腺がんの検査法を特定することである。
検討されている方法の一つは、PSA検査で異常が認められた場合に適切な診療選別するための方法を開発することであり、それには生検を実施するかどうかについてより多くの情報に基づいた決定を行うことが含まれる。前立腺生検には、疼痛、出血、そして重篤な感染症の可能性などのリスクがある。しかも、生検によって特定された低悪性度の前立腺がんに対する過剰診断および過剰治療は、それ自体が不利益であり、費用もかかる。
「過剰治療のリスクは、治療が生活の質に及ぼす影響から、確実な懸念事項である」と、米国泌尿器科学会はPSA検診に関する最新の合意声明に記した。このような影響には、長期にわたる心理的な不利益と同様に「長期間持続する排尿障害、排便障害および性機能障害」が含まれる可能性がある。
バイオマーカーの追加で不要な生検を削減
Sanda氏らの試験は、NCIの早期発見研究ネットワーク(EDRN)を通じて実施された。NCIがん予防部門のがんバイオマーカー研究グループ長で、本試験の共著者のSudhir Srivastava博士の説明によると、本試験は、バイオマーカーの初期性能を評価するための「開発」コホートと、独立した男性のグループに試験結果が当てはまるかどうかを確認するための「検証」コホートの2つの男性のグループを対象とした。
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本試験の開発コホートの男性516人は前立腺がんと診断されたことがなく、PSA検査または直腸診で異常が認められた後、初めて前立腺生検を受けていた。2種類のRNAバイオマーカーの値の上昇についての検査を、生検前に男性から採取した尿検体で実施した。
Sanda氏の説明によると、前立腺がんではPCA3遺伝子が高レベルで発現しており、PCA3 RNAに対する尿検査は、PSA検査または直腸診で異常が認められた場合に行った生検が陰性であった男性に対して、疾患の可能性をモニターするために日常診療で一般的に用いられている。
T2:ERGに対する尿検査もある。T2:ERGは2つの異なる遺伝子、TMPRSS2およびERGの一部の融合または転座によって生じるものである。この転座は進行前立腺がんの約半数でみられる。現時点では、T2:ERG検査はわずかな大学のがんセンターでしか行っていないとSrivastava氏は述べた。
男性の生検標本は病理医によって解析され、以下の標準的な基準に応じてグループ分けされた。がんがないまたは進行の遅いがん(グリーソンスコアの6以下で示される)で、腫瘍が進行するリスクが低く、生検はおそらく不要と考えられるもの、または治療が必要な高悪性度のがん(グリーソンスコアの7以上で示される)。
PCA3またはT2:ERGのいずれかが高値であった場合にのみ生検を推奨するアルゴリズムに、尿検査の結果が組み込まれた。低悪性度または高悪性度の腫瘍のいずれかを示唆するPSA値と比較すると、尿バイオマーカー検査の結果を追加することで生検の必要性はより少数の男性にとどまることになった。PSA値の上昇のみに基づき前立腺生検を実施した場合に高悪性度のがんを確認したのはわずか18%であるのに対し、尿バイオマーカーを追加した場合には39%にのぼることが明らかになった。
検証グループの標本は、以前に行われたPCA3検査の前向きEDRN試験に参加し、尿検体を採取し貯蔵していた561人の男性のものであった。このグループでは、高悪性度のがんの検出の特異度が、PSA検査のみの場合の17%からPCA3/T2:ERG検査を実施した場合の33%へ上昇した。
総合的に、「生検を実施する男性を選択するため尿検査の結果を用いることにより、不要な前立腺生検の42%が回避できた可能性がある」と研究チームは記した。
本結果は「大成功ではない」とSanda氏は認めた。この手法を用いても、まだ低悪性度のがんの男性の多くが生検を受ける可能性がある。「結局のところ、特異度を改善する余地はまだあります」と同氏は述べた。
臨床への厳しい道のり
T2:ERG検査を行っている施設が限られているため、日常診療でこの生検前検査を行うことはまだ現実的ではない、とSrivastava氏は述べた。
しかしSanda氏は、本試験の結果に基づき変化が起こる可能性に望みを抱いている。それでもなおこのような状況は、十分検討された、信頼性の高いバイオマーカー試験でさえ「日常診療(におけるバイオマーカーの使用)への道の本当にわずかな一歩にすぎない」ことを示していると同氏は付け加えた。
このような取り組みは、「高悪性度の前立腺がんの検出改善を目指して尿中マーカーの実用性をさらに強化するための重要な次の一歩となります」とSrivastava氏は述べた。
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