FDAが転移のない前立腺がんにエンザルタミドを追加承認

米国国立がん研究所(NCI) がん研究ブログ

前立腺がんの治療選択肢は過去10年間で爆発的に増えた。その流れは留まる気配がなく、最近では米国食品医薬品局(FDA)がエンザルタミド(販売名:イクスタンジ)の承認用途を拡大し、体の他の部位に拡がっていない(転移していない)前立腺がんの治療に使用できることを決定した。

11月16日に発表されたこの新しい承認により、エンザルタミドは、非転移性去勢感受性前立腺がんの治療に単独またはロイプロリドとの併用で使用できるようになった。

この新たな承認では、患者が以前の手術または放射線照射後に血中PSA値が上昇していること(生化学的再発)も条件としている。しかし、この承認が適用されるのは、がんが転移するリスクが高いと考えられる患者に限られる。

FDAの決定は、EMBARK試験と呼ばれる大規模臨床試験の結果に基づいている。この試験では、エンザルタミド+ロイプロリド併用療法を受けた患者は、ロイプロリド(およびプラセボ)療法を受けた患者よりも無転移生存期間が長かった。無転移生存期間とは、治療開始後、がんが転移せず、あるいは何らかの原因で死亡することなく、どれだけ長く生存できるかを示す指標である。

エンザルタミドのみを投与された試験参加者でも、ロイプロリドのみを投与された参加者と比べて無転移生存期間が長かった。

しかし、今回の新たな承認とEMBARK試験の結果がどの程度患者の治療を変えるのか、あるいは変えるべきなのかはまだ不明であると、NCIがん研究センターのFatima Karzai医師は説明する。前立腺がんの治療を専門とするKarzai医師は当試験には関与していない。

例えば、エンザルタミド単剤療法またはロイプロリドとの併用療法を受けた試験参加者で、全生存期間が延びるかどうかがわかるまでには、さらに時間を要するとKarzai医師は言う。その結果、この新しい承認によって、腫瘍医が患者に勧める「さまざまな治療アプローチが蓄積されるでしょう」。

他の専門家も、この承認が患者ケアに大きな影響を及ぼすと考えている。この臨床試験の主任研究員の一人であるStephen Freedland医師(ロサンゼルス、シダーズ・サイナイ)は、このような高リスクの生化学的再発患者の多くが、エンザルタミド+ロイプロリド併用療法を受けることになるだろうと述べた。

Freedland医師は、副作用が懸念されることを認めた。「しかし、両剤を併用することには、転移を遅らせることを含め、多くの利点があります」と言う。転移が生じると、早急に治療が必要になるだけでなく、特にがんが骨に転移している場合には強い痛みを伴う可能性もある。

さらにFreedland博士によれば、この試験で得られた他の解析結果から、全体として両薬剤による治療が患者のQOLを害することはないと示唆される。

限局性前立腺がん、去勢抵抗性から去勢感受性へ

エンザルタミドは、テストステロンとがん細胞との相互作用を阻害することにより作用する。エンザルタミドは、非転移性および転移性前立腺がんの治療薬としてすでにFDAに承認されており、テストステロン産生を阻害する薬剤(ロイプロリドなど)でがんを制御できなくなった場合(去勢抵抗性と呼ばれる)も含まれる。

去勢感受性限局性前立腺がんで、腫瘍を取り除く手術や放射線を受けたことのある人の半数までが、10年以内にPSA値がじわじわと、時には急激に上昇し始める。このような上昇が起こった場合、がんが前立腺で再び増殖し始めているか、体のどこか別の部位に小さな腫瘍があるのかもしれない。

PSA値上昇が懸念事項であるかどうかを腫瘍医が判断する上で重要な指標は、PSA値が再び検出可能になった時点からその2倍になるまでに要した期間である。

PSAの倍加時間が約9カ月以内と急速な場合、その患者は他の臓器にがんが転移するリスクが高いことを意味すると複数の研究で示唆されている。

しかし、生化学的再発にどのように対処するのが最善なのかは、たとえPSA倍加時間が急速であっても、「グレーゾーン」であったとKarzai医師は説明する。

がんが勢いを増すのを防ぐために直ちに治療を開始すべきか。それとも、患者に症状が出るまで、あるいは画像検査でがん転移が確認されるまで、治療は待つべきなのだろうか。

現在、生化学的再発でPSA倍加期間が9カ月以内の人の多くは、ロイプロリドまたは同様の薬剤の投与を開始されている、と同医師は言う。

EMBARK試験は、この疑問を明らかにするためにデザインされた。

エンザルタミドは、既に転移を有する去勢感受性前立腺がん患者の全生存期間を改善することが複数の大規模臨床試験で認められている。そこで、EMBARK試験では、エンザルタミドが、転移はしていないがPSA値上昇により転移の可能性がある前立腺がん患者の予後も改善するかどうかを確かめようとした。

無転移生存期間、無治療期間が改善

エンザルタミドの製造元であるPfizer社とAstellas Pharma社が資金提供したこの試験には、限局性前立腺がんの治療を受けた約1,100人の参加者が登録された。すべての参加者でPSA値が再上昇し、9カ月以内に倍増していたが、がん転移の徴候はなかった。

EMBARK試験参加者は、エンザルタミド+ロイプロリド併用療法、またはどちらか一方の薬剤による単剤療法に無作為に割り付けられた。

治療開始後、参加者は6カ月ごとに全身CTスキャンと骨スキャンを受け、がん再発の徴候がないか調べた。37週間以内にPSA値が検出不能レベルまで低下した参加者は、治療を一時中断することができた。このような休止はしばしば 「休薬」と呼ばれる。PSA値が再び上昇し始めたら、治療を再開した。

Freedland医師らの報告によると、治療開始から5年後、エンザルタミド+ロイプロリド併用療法を受けた参加者の約87%が転移なく生存していたのに対し、エンザルタミド単剤療法を受けた参加者における同割合は80%、ロイプロリド単剤療法を受けた参加者では71%であった。この研究結果は10月にNew England Journal of Medicine誌で発表された。

Freedland医師は、現在までのところ、両剤併用療法群はロイプロリド単剤療法群と比べて全生存期間も長いことを示唆する強い統計的傾向があると指摘した。しかし、確実な結果が出るまでには、患者をさらに長期にわたり追跡調査する必要がある。

併用療法群の約91%がPSA値が検出されないために治療を中断できたのに対し、エンザルタミド単剤療法群における同割合は86%、ロイプロリド単剤療法群では68%であった。

3群すべてにおいて多くの患者が2年以上治療を休止することができたが、治療休止期間中央値は併用療法群が最も長かった(それぞれ20カ月、17カ月、11カ月)。

副作用とQOL

エンザルタミド単独またはロイプロリドとの併用で治療された患者において、本試験でみられた副作用に関して想定外のものはなかった。とはいえ、副作用は3つの治療群すべてにおいて多くみられ、時に重篤であった。

エンザルタミド+ロイプロリド併用療法群で最も多くみられた副作用は、ほてり、倦怠感、筋肉痛であったが、これらの多くはロイプロリド単剤療法群でも多かった。エンザルタミド単剤療法群で最も多くみられた副作用としては、ほてり、倦怠感、乳房肥大があった。重篤な副作用はいずれの群でも頻度は高くなく、全般的にエンザルタミド投与群で多い傾向であった。

テキサス大学MDアンダーソンがんセンターで前立腺がん治療を専門とするAna Aparicio医師は、本試験結果に付随した論説の中で、死亡した試験参加者のうち、最大60%が前立腺がん以外の死因であった可能性があると指摘した。

がん以外の死因が多いということは、過剰治療と呼ばれる問題、すなわち延命や生活改善につながらない治療が行われた可能性を指摘することができる。

Aparicio医師は、「がん治療がこれらの死亡にどの程度関与しているかは不明である。しかし、仮に関連性がなかったとしても、その頻度によって[治療法の]潜在的有益性が下がることはほぼ間違いない」と記している。

とはいえ、少なくとも一部の患者にとっては、エンザルタミド単独またはロイプロリドとの併用による 「早期がんコントロール」のプラス面は「リスクを上回る」ことが今回の結果で示されたとApario医師は結論づけた。

10月にNEJM Evidence誌で発表された、EMBARKの別の解析によると、エンザルタミド+ロイプロリド併用療法はEMBARK参加者のQOLを低下させないようであったとFreedland医師は指摘した。

休薬期間の長期化も重要な考慮点であると同医師は続ける。

「8カ月または9カ月の治療後、本当に良好であれば[治療を]中止します。何年も治療を続けるわけではありません。私たちはある期間、非常に積極的な治療を行い、うまくいけば、その[治療中止の]しきい値に達する可能性は本当に高いのです」。

PSMA-PET時代の治療決定

EMBARK試験の最初の参加者が登録されたのは8年以上前のことである。それ以降、前立腺がん患者に特化して使用される画像技術であるPSMA-PETが出現した。このPET画像は、従来のPET画像では見逃されていた腫瘍を検出することができ、EMBARK試験でも使用された。

2023年6月に米国臨床腫瘍学会(ASCO)年次総会で発表された研究では、PSMA-PETの所見から、PSA倍加時間が急速で生化学的再発がみとめられる人の多くで、前立腺やその周辺、あるいは体の他の部位に小さな腫瘍が検出されたことが示されている。

PSMA-PETの使用は米国で急速に拡大したため、それに伴い、EMBARK結果の解釈の仕方、また今回の承認後、PSMA-PET所見を日常の患者ケアに適用する方法を変えるべきかについて疑問が呈されている。

PSMA-PET検査は、標準的な画像診断(PET、骨スキャン)で見逃される小さな腫瘍を見つけることができるが、「早期発見によって患者の疾患の経過が変わるかどうかはまだ不明です」とKarzai医師は言う。言い換えれば、体のどこかに小さな腫瘍があっても、すぐに大きくなったり広がったりすることはなさそうということである。

PSMA-PET画像所見を治療法の決定にどのように応用するかについては、さらなる研究が必要であるとFreedland医師は述べた。

しかし、PSMA-PETの結果がない場合でも、患者の年齢、全身の健康状態、さまざまな治療法の潜在的利益とリスクとをどのように比較検討するかなどの要因がすべて関わってくるとFreedland医師は付け加えた。

「患者の100%が[併用療法を]受けることになるとは思っていませんが、医師や患者がこれらのデータをどのように解釈し、現実の世界でどのような決断を下すかは興味深いことです」とFreedland医師は述べた。

少なくとも当面は、治療選択肢について医師と患者の良好なコミュニケーションが重要である、とKarzai医師は述べた。

「臨床医は、両薬剤の副作用と比較した場合の治療効果について、患者とバランスの取れた話し合いをする必要があるでしょう」。

  • 監訳 榎本 裕(泌尿器科/三井記念病院)
  • 翻訳担当者 山田登志子
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  • 原文掲載日 2024/1/05

この記事は、米国国立がん研究所 (NCI)の了承を得て翻訳を掲載していますが、NCIが翻訳の内容を保証するものではありません。NCI はいかなる翻訳をもサポートしていません。“The National Cancer Institute (NCI) does not endorse this translation and no endorsement by NCI should be inferred.”】

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