前立腺癌の開腹手術とロボット手術の転帰には差がないとの試験結果

キャンサーコンサルタンツ
2008年9月

ロボット腹腔鏡下前立腺摘除術の転帰が開腹恥骨後式前立腺摘除術の転帰と同様であることがメイヨークリニックから報告された。2008年9月5日付British Journal of Urology International誌オンライン早版に本試験の詳細が掲載された。

腹腔鏡下前立腺摘除術 (LPR) を行うDa Vinciロボット手術システムは2000年に導入された。本手法は一部の医療機関で広く普及しており、現在、前立腺摘除術全体の10%以上がLRRで行われていると推定される。少ない出血量で前立腺摘除術を行うことが可能で、短い回復期間が本手法の長所といわれている。デューク大学による試験では従来の前立腺除去術よりLRPは手術費が約$1000増しだったが、低額の入院費で相殺された。しかし、LRPが従来の恥骨後式前立腺摘除術より優れているかどうかに関しては議論の余地がある。ランダム化試験は行われておらず、その計画もない。したがって、医師と患者は非ランダム化比較により、前立腺癌の治療にLRPが適しているかどうかを判断しなくてはならない。若い患者の多くがLRPを選択する主な理由の一つは、本手法が勃起機能を温存するという考えだ。しかし、この主張を立証するデータはない。LRPを受けた患者の機能の転帰は、従来の前立腺摘除術を受けた患者と同様であることがデューク大学医療センターおよびフロリダ大学によるもう一つの試験で報告された。本試験の経過観察は12カ月間であった。コロンビア大学とヘンリー・フォード・ヘルスシステムが最近の試験で局所前立腺癌の2,766人の男性において優れた癌コントロールおよび良好な機能転帰がLRPによってもたらされたと報告した。しかし、開腹手術に比べたLPRの長所・短所に関しては依然として懸案が残っている。

最新の試験で、LRPを受けた249人の患者とマッチングにより選択した対照群588人のの転帰が比較された。下記の表は3年間、前立腺特異抗原 (PSA) 上昇がないことで評価した無増悪生存率 (PFS) を含む本試験の主要な結果の要約である。

表1 :ロボット腹腔鏡下前立腺摘除術 対 恥骨後式前立腺摘除術

 ロボット腹腔鏡下前立腺摘除術恥骨後式前立腺摘除術
早期合併症8.0%4.8% (P=0.06)
創傷のヘルニア化1%0%
膀胱頸部硬化1.2%4.8% (P=0.02)
一日の入院29.3%19.4% (P=0.004)
1年後の排尿制御能力92%94%
1年後の性的能力70%63% (0.08)
3年後のPSAの無増悪生存率92%92%(0.08)

著者の結論は以下である。ロボット補助による前立腺全摘除術と開腹恥骨後式前立腺全摘除術では長期の排尿制御能力および性的能力の評価、または早期合併症において、概して有意な差異はなかった。生化学的制御に関して両手法は同等に効果的であった。

別の出版物、European Oncology誌2008年10月号で「ロボット腹腔鏡下前立腺全摘除術を受けた患者は後悔し、不満足であることが多い。恐らく、革新的治療法に対する期待の高さが原因であろう。」とデューク大学の研究者は述べた。400人の男性が従来の前立腺摘除術もしくはLRPを受けた本試験では、うち19%が治療方法の選択を後悔した。LRPを受けた患者が後悔する確率は従来の前立腺除去術を受けた患者と比べて3倍高い。

コメント:
より多くの男性が前立腺癌の治療にLRPを受けている。従来の前立腺摘除術に比べてLRPが優れた治療方法であるといった、事実にそぐわない期待があるようだ。賢明な治療方法の選択を行うためには正確な情報を得ることが重要である。


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翻訳担当者 下和田篤子

監修 林 正樹(血液・腫瘍科)

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