エノブリツズマブは安全で、高リスク前立腺がんに有望な可能性

ジョンズホプキンス大学

Enoblituzumab [エノブリツズマブ] というモノクローナル抗体の新薬は、高悪性度の前立腺がんの男性に対して安全で、全身のがんに対する臨床効果を示す可能性があることが、ジョンズホプキンス大学キンメルがんセンターおよびブルームバーグ・キンメルがん免疫療法研究所の研究者らが主導した第2相試験によって示された。追加試験で裏付けられれば、エノブリツズマブは、前立腺がんに対する最初の有望な抗体ベースの免疫療法となる可能性がある。

臨床試験では、前立腺がんの手術が予定されている高リスクまたは超高リスクの前立腺がんの男性32人を対象に、手術前にエノブリツズマブを週1度、6回点滴投与し、その後平均30カ月間追跡調査を行った。66%に当たる21人の患者は、手術後12カ月間、前立腺特異抗原 (PSA) 値が検出されず、残存病変の徴候がないことが示された。加えて、本薬剤は概して耐容性が良好で、手術の遅れや手術中および手術後の医学的合併症を起こした患者はいなかった。

本研究の内容は、4月3日付の学術誌Nature Medicine誌に掲載された。

エノブリツズマブが、さらに大規模なランダム化比較試験で良好な結果を出し続ければ、複数のがんに対する免疫療法の新しい道筋となり、前立腺がんに対しては初めて有効となる可能性があると、本研究論文の筆頭著者でがん免疫学研究者のEugene Shenderov医学博士(ジョンズホプキンス大学医学部腫瘍学助教授)は述べる。他の既存の抗体ベース免疫療法薬は、CTLA-4、PD-1、LAG-3などの免疫チェックポイント(免疫反応を司る自然のオン/オフスイッチ)を標的としている。がん細胞は、これらのチェックポイントを乗っ取り、がんに対する免疫反応をオフにする。「これらのチェックポイントをブロックする薬剤は、肺がんやメラノーマなど他の種類のがんでは成功しているが、前立腺がんでは成功していません」とShenderov氏は話す。

エノブリツズマブは、B7-H3というタンパク質に結合することで作用する。B7-H3は、前立腺がん細胞で過剰発現し、免疫系ががん細胞を攻撃する能力を阻害すると考えられている。B7-H3が免疫系によるがん細胞の認識と排除を阻害するのを阻止し、さらに抗体依存性細胞傷害(ADCC)というプロセスを誘発することにより、マクロファージやナチュラルキラー細胞などの免疫細胞を活性化して腫瘍細胞を傷害する、この新しい治療法はがんに対するダブルパンチとなり得るとShenderov氏は述べている。

「エノブリツズマブは安全で、T細胞と骨髄細胞の両方が関与する方法で免疫系を活性化するようです」とShenderov氏は述べる。「つまり、今回の結果がより大規模なランダム化比較試験で再現されれば、外科的な前立腺摘除や放射線治療などの局所的な治癒目的の治療を組み合わせることで、本薬剤は、体内の他の場所に潜む微小転移性疾患をおそらく根絶させ、かなりの数の男性が病気の再発を防止できる可能性を広げることを意味しています。これは、前立腺がんのパラダイムシフトになる可能性があります」。

研究参加者の年齢の中央値は64歳(年齢範囲48~74歳)であった。約半数(47%)は、診断時のPSA(前立腺特異抗原)が10ng/mL以上の異常高値であり、50%は、生検時のグリーソングレードがグループ5であり、高悪性度であった。患者は2017年2月から2019年6月まで登録された。手術後に分析した前立腺サンプルによると、大多数の参加者でエノブリツズマブは前立腺腫瘍に浸透し、B7-H3に結合することが確認された。

エノブリツズマブの副作用は一般的に軽度で、疲労、頭痛やめまいなどの神経症状、インフルエンザ様またはかぜの症状などがあった。1人の患者が心臓の炎症(心筋炎)を発症したが、ステロイド治療により完全に回復した。心筋炎は、他の免疫チェックポイント治療薬の副作用として知られている。

安全性とPSAが検出されないレベルまで低下したことに基づく抗腫瘍活性のほかに、研究者らはエノブリツズマブ治療前後の腫瘍微少環境の変化も調査した。その結果、治療後に細胞傷害性マーカーが増加し、腫瘍細胞に対して免疫系が活性化されるという概念と一致することがわかった。腫瘍は、顆粒球、白血球、エフェクターT細胞の浸潤が増加し、治療後は細胞傷害性T細胞の密度がおよそ2倍に増加した。

「この調査結果は興味深いが、試験的なものであり、より大規模な研究コホートで確認する必要があります」と、研究の統括著者であるEmmanuel S. Antonarakis医師(ミネソタ大学医学部のClark冠教授、同大学フリーメイソンがんセンター泌尿生殖器腫瘍学学部長)は、警告している。Antonarakis氏は、ジョンズホプキンス大学キンメルがんセンター在籍時に本試験の上級研究員であった。

「しかし、高リスクの前立腺がん患者における今回の結果は、前立腺がんに有効な免疫治療的戦略が広範に必要とされていることからも、前立腺がんやその他の固形悪性腫瘍における抗腫瘍活性を最適化するために、B7-H3標的を含む多角的アプローチをさらに発展させる正当な根拠となります」と同氏は述べている。

現在、研究者らは、新たに診断された前立腺がん患者を対象としたエノブリツズマブのより大規模なランダム化比較試験を計画しており、現在の治療の標準と比較して本剤の臨床活性を評価する予定である。

  • 監訳 榎本 裕(泌尿器科/三井記念病院)
  • 翻訳担当者 山口みどり
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  • 原文掲載日 2023年4月6日

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