エルダフィチニブがFGFR変異のある進行尿路上皮がんで奏効を示す -ESMO2023

MDアンダーソンがんセンター

MDアンダーソン主導の研究により、免疫療法薬による治療歴のある患者に化学療法を上回る効果が示される

アブストラクト:235902362MO

線維芽細胞増殖因子受容体(FGFR)阻害薬エルダフィチニブ(Erdafitinib)による標的治療により、FGFR変異を有する転移性尿路上皮がん患者において、標準化学療法を上回る奏効および全生存期間の改善が示された。テキサス大学MDアンダーソンがんセンターの研究者が主導した第3相THOR試験の結果が、欧州臨床腫瘍学会(ESMO 2023)で報告された。

「転移性尿路上皮がんには未だ治療法が確立されていないという課題があり、革新的な治療法の必要性が強調されています」と泌尿生殖器腫瘍学教授で本試験の責任医師であるArlene Siefker-Radtke医師は述べた。「現在進行中の本試験は、エルダフィチニブがFGFR変異を有する患者にとって貴重な標的治療選択肢となり得るという明白な証拠を提示しています」

FGFRの遺伝子変異は、転移性膀胱がん患者の約20%、腎盂がんや尿管がんなど他の尿路上皮がん患者の最大35%に認められる。2019年、エルダフィチニブは、Siefker-Radtke氏が主導した第2相試験の結果に基づき、FGFR変異を有する進行尿路上皮がんに対する治療薬として米国食品医薬品局(FDA)により承認された。同剤は初めて承認されたFGFR標的治療薬であり、進行尿路上皮がんに対して承認された唯一のFGFRを標的とした治療選択肢である。

現在進行中の無作為化THOR試験は、23カ国121施設で実施され、転移性尿路上皮がんで特定のFGFR遺伝子変異を有する患者を対象に、エルダフィチニブの有効性と安全性を評価した。患者はFGFR遺伝子変異の有無についてスクリーニングされ、白金製剤を含む化学療法か免疫チェックポイント阻害薬による治療を受けたかに基づいて2つのコホートに割り付けられた。

1)エルダフィチニブは、免疫療法薬による治療歴のある患者で、化学療法と比較して全生存期間を有意に改善 (アブストラクト 2362MO)

New England Journal of Medicine誌に発表された本試験の最初のコホートでは、免疫チェックポイント阻害薬による治療を受けた患者266人が、エルダフィチニブ投与群と化学療法群に無作為に割り付けられた。全生存期間(OS)中央値はそれぞれ12.1カ月と7.8カ月であり、これはエルダフィチニブで治療を受けた患者の死亡リスクが36%低いことに相当する。OSの延長は、年齢、FGFR変異の種類、これまでに受けた治療数、内臓転移、原発腫瘍の位置、化学療法の種類などが異なる患者で構成されるサブグループ全体にわたって認められた。

さらに、エルダフィチニブ投与群では無増悪生存期間中央値が6カ月であったのに対し、化学療法群ではわずか3カ月であった。エルダフィチニブによる治療を受けた患者の半数近く(46%)が客観的奏効(腫瘍の縮小)を示したのに対し、化学療法群で客観的奏効が得られたのはわずか12%であった。このコホートのデータは、米国臨床腫瘍学会年次総会2023(ASCO23)で初めて発表された。

2)エルダフィチニブは、免疫療法未治療患者においてペムブロリズマブと比較して同程度の転帰を達成(アブストラクト 23590)

Annals of Oncology誌に発表された第2コホートでは、以前に免疫療法を受けていない351人の患者が、エルダフィチニブまたはペムブロリズマブ(抗PD-1)のいずれかを投与する群に無作為に割り付けられた。ペムブロリズマブによる治療歴がある患者では、エルダフィチニブは免疫療法と比較して同程度の生存期間であったため、治療群間で全生存期間に統計学的有意差は認められなかった。

エルダフィチニブ群の無増悪生存期間中央値は4.4カ月であったのに対し、ペムブロリズマブ群では2.7カ月であった。さらに、エルダフィチニブを投与した患者の40%が客観的奏効を示したのに対し、ペムブロリズマブ群では21.6%であった。奏効期間はエルダフィチニブ群が4.3カ月で、ペムブロリズマブ群の24.4カ月より短かった。

「この新しいコホートのデータは、FGFR3変異尿路上皮がんに対する一連の治療が重要な影響を及ぼす可能性を早期に示すものです」とSiefker-Radtke氏は述べた。「FGFR変異を有する原発性尿路上皮腫瘍の多くは免疫治療に不応性ですが、転移性腫瘍は同じ特徴を共有していない可能性があります。おそらくこれらの患者は、エルダフィチニブと免疫チェックポイント阻害薬を組み合わせることで恩恵を受ける可能性があります」

治療関連の有害事象は両コホートとも管理可能であり、エルダフィチニブの既知の安全性プロファイルと一致していた。エルダフィチニブ投与によるFGFR変異を有する転移性尿路上皮がん患者の全生存期間に及ぼす影響は、転移性尿路上皮がん患者においてFGFR変異を同定するための分子検査の実施がいかに重要であるかを浮き彫りにしている。

エルダフィチニブとチェックポイント阻害薬の併用やそれらの投与順序による影響を理解するためには、さらなる研究が必要である。エルダフィチニブはその高い奏効率により、速やかな奏効と症状改善を必要とするvisceral crisis(訳注)を有する患者において、役割を果たす可能性がある。

本試験はJanssen Research & Development, LLCの支援を受けた。Siefker-Radtke氏はヤンセンの科学諮問委員会の委員を務めている。共同著者のリストと開示情報は抄録に掲載されている。

(訳注)visceral crisis:内臓転移が存在するだけではなく、生命を脅かす重篤な臓器不全を有し、急速な病勢進行のある状態

  • 監訳 榎本裕(泌尿器科/三井記念病院)
  • 翻訳担当者 青山真佐枝
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  • 原文掲載日 2023/10/22

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