フォンヒッペル・リンダウ病に伴う腎がんに分子標的薬MK-6482が良好な臨床効果

MDアンダーソンがんセンター主導による第2相臨床試験で、VHL病初の全身療法につながる可能性

演題:#5003

テキサス大学 MD アンダーソンがんセンターの研究者が主導した国際試験において、低酸素誘導因子(HIF)-2a の小分子阻害剤である MK-6482 による治療は、フォンヒッペル・リンダウ病(VHL)に伴う腎細胞がん患者に対して良好な忍容性および臨床反応を示す結果となった。

この第2相臨床試験結果は、本日、米国臨床腫瘍学会(ASCO)2020年次総会にて、主任研究者であるEric Jonasch医師(泌尿器臨床腫瘍学教授)が口頭発表した。

この試験は主要評価項目を満たし、第三者によるRECIST評価で腎細胞がんへの客観的奏効が認められた。確定した奏効率は27.9%であった。未確定の奏効であった患者8人も考慮すると、客観的奏効率は41.0%であった。さらに、標的病変の縮小が認められた患者は86.9%であった。奏効までの期間中央値は5.5カ月であった。

「フォンヒッペル・リンダウ病の患者は複数のがん種やその他の腫瘍を発症するリスクがあり、現在承認されている治療法はありません」と Jonasch 氏は述べる。「この臨床試験結果にわれわれは勇気づけられますし、フォンヒッペル・リンダウ病患者がこの治療選択肢を利用できるようにするため、MK-6482研究のさらなる研究を楽しみにしています」。

VHL 病はVHL 遺伝子が変異するまれな遺伝性疾患である。この疾患は多様な臓器の腫瘍形成に関連している。これらの腫瘍には良性腫瘍もあるが、増大して臓器に損傷を与える場合もある。また、VHL病によって腎臓および膵臓にがん性腫瘍が形成される場合もある。VHL病患者の約40%が腎がんに罹患しており、VHL病患者の疾患関連死のうちで最も多い死因の一つである。

VHL変異によって、細胞は酸素レベルに適切に対応する能力を失い、腫瘍細胞内にHIFタンパク質の蓄積を引き起こす。この過程で、細胞が酸欠状態であるとの誤ったシグナルを発信して血管の形成を引き起こし、さらに腫瘍の増殖を促進させる。また、散発性腎がんの90%以上にVHL腫瘍抑制タンパク質の不活性化が認められる。MK-6482はHIF-2aを直接標的とし、がん細胞の増殖、広がり、血管の異常発生を抑制する。

VHL病関連腎がんの治療としては、腫瘍が3cm以上に増大して転移予防の手術が必要になるまで、積極的なサーベイランス(定期検査)を行う。外科手術を繰り返すと重大な合併症を引き起こす可能性があり、多くの患者が腎不全を発症する。手術は腎がんを伴うVHL病患者を治癒させるものではなく、転移性腎がんによる死亡阻止のみを意図している。

「腫瘍のサイズを縮小することで手術の必要性を遅らせたり、回避したりできる治療法が必要なのです」とJonasch氏は述べる。「この薬剤は、VHL病患者の病変管理の方法を大きく変える可能性があります」。

データカットオフの時点で、単群臨床試験には61人の患者が登録されていた。本試験では、生殖細胞系列変異を有するVHL病と診断され、がんに対する全身治療歴がなく、測定可能な非転移性腎がんを有し、ECOGパフォーマンス・ステータス(PS)が0または1である成人患者が登録された。

患者には、病勢進行、許容できない毒性、または治験担当医か患者が中止を決定するまで、1日1回MK-6482を経口投与した。腫瘍サイズは、スクリーニング時とその後12週間ごとに評価した。治療中に病勢が進行した患者はおらず、58人(95.1%)が治療を継続している。

治療に関連した有害事象(AE)の重症度は、大半がグレード1または2であった。グレード3のAEを発症した患者は9.8%であった。グレード4または5の治療関連AEは報告されなかった。最もよく見られた有害事象は、貧血(86.9%)、疲労(57.4%)、頭痛(36.1%)、めまい(31.1%)、嘔気(24.6%)であった。貧血は長時間作用型エリスロポエチン注射で安全に管理された。

「MK-6482は忍容性が高く、副作用もほとんどありませんでした」とJonasch氏は述べた。「本剤は、VHL 疾患患者の管理の真のオプションとなり得るのに必要な有効性と安全性を示した初の治療薬です」。

今後検討される研究には、MK-6482がVHL病患者における新たな病変の発症を防ぐことができるかを調査する試験が含まれる。

本研究は Merck & Co., Inc. の完全子会社である Peloton Therapeutics, Inc.社から資金提供を受けた。共著者および開示事項はこちら

翻訳担当者 佐藤美奈子

監修 榎本 裕(泌尿器科/三井記念病院)

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