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副作用を回避する化学療法薬をつくれるか?

がん治療薬として検証された多くの薬剤は腫瘍の縮小や排除において大いに期待できるが、ある極めて重要な側面で失敗している。それは、こうした薬剤が正常組織も損傷し、重大な副作用を引き起こすということである。

正常組織や正常臓器に対する損傷は、薬剤の投与量や投与期間を制限したり、さらなる試験から薬剤を完全に除外したりする可能性がある。新規研究(以下、本研究)では、NCIが資金提供した研究者らが、ある薬剤に関してこの問題を回避する新たな方法を考案した。すなわち、かつて有望視されながら、腸組織に損傷を与えるために放棄されていた化学療法薬を、「オン」と「オフ」のスイッチを有する化合物に改良したのである。

「オン」スイッチは、正常組織にはなく腫瘍に存在する酵素によって作動するように設計されており、化合物を活性のある抗がん剤に変換した。「オフ」スイッチは、消化管内の分子によって作動し、化合物を活性のある薬剤に変換することを阻害し、不要な組織損傷を回避する。

マウスで検証したところ、新薬DRP-104が腫瘍細胞に送達した抗がん剤の量は、腸細胞に送達した量の11倍であった。DRP-104は元となる薬剤と同様に腫瘍を排除できた一方、正常腸組織に損傷をほとんど与えなかった。

「このため、この治療薬を再び(臨床試験に)取り入れることができました」とBarbara Slusher博士(ジョンズ・ホプキンス大学、Rana Rais博士と本研究を共同で主導)は述べた。DRP-104は現在、進行がん患者を対象とした早期臨床試験が実施中である。

DRP-104は腫瘍細胞を直接殺傷するだけでなく、もう1つ、同様に重要な効果を発揮した。それは、免疫細胞の一種であるCD8+T細胞ががん細胞を殺傷する能力を高め、腫瘍の再発抑制を促すというものだった。研究者らはこのことを、Science Advances誌11月18日号に発表した。

「がん細胞を殺傷しながら、免疫細胞を活性化させる薬剤があることは、独特です」とSlusher氏は述べた。

薬物送達の標的を腫瘍に特異的に合わせることは有効な治療法であることが証明されているとWeiwei Chen博士(NCIがん治療・診断部門、本研究には不参加)は述べた。多くの薬剤は現在、抗体などの担体分子の類を用いて、毒性が高い薬剤を標的となる腫瘍に送達する。
しかし、DRP-104に関して、「これは、腫瘍を標的とした薬物送達としては非常に異なる形式です」とChen博士は続けた。

腫瘍の燃料源を断つ

腫瘍の特徴は、その急速な増殖と分裂を促進するためのエネルギーに対する飽くなき欲求である。そのため、がん細胞のエネルギー供給を阻害する薬剤である代謝拮抗薬は、開発の有望な手段である。

特に、がん細胞はグルタミンというエネルギー源に大きく依存している。グルタミン代謝に関与するある特定の酵素を阻害する分子標的薬が開発さてきたとSlusher氏は解説する。

「この薬剤は、少しは効果があります」とSlusher氏は続け、「しかし、がん細胞は(最終的に)それの回避方法を見つけ出します」と述べた。

6-ジアゾ-5-オキソ-L-ノルロイシン(6-Diazo-5-oxo-L-norleucine:DON)はDRP-104の基となった化学療法薬で、1950年代にNCIで最初に研究されたが、その作用は異なる。DONは化学構造がグルタミンと極めて類似しており、この類似性によって、がん細胞がグルタミンをエネルギーに変えるために使用する代謝系全体の作用を阻害できるわけである。がん患者を対象とした早期臨床試験では、期待できる腫瘍縮小効果が示された。

しかし、DONは腸のただれや出血、下痢といった壊滅的な損傷も与えたため、放棄されることになった。

DONが化学修飾により、腫瘍組織に安全に送達できるかどうかを確認するため、研究者らは一連のプロドラッグを開発して試験を行った。プロドラッグは、体内に取り込まれた時点では無害な化合物である。しかし、体内の適切な部位に到達すると、分解され、活性のある薬物を放出する。

プロドラッグはがん治療において、新しい概念ではない。現在広く使用されているプロドラッグの例としては、酢酸アビラテロン(販売名:ザイティガ、一部の前立腺がんの治療に使用される)や カペシタビン(販売名:ゼローダ、大腸がん治療の主力薬)などがある。

しかし、こうした薬剤には、「オン」スイッチ、すなわち、腫瘍細胞に到達したときに、体内で活性のある化学療法薬に変化させる方法しかない。Slusher氏らは、薬剤に安全性を高める「オフ」スイッチを設け、腸をさらに保護しようと考えた。

腫瘍特異的損傷、腸特異的安全性

研究者らは何百種類ものDONベースのプロドラッグ候補を作り、一連の非臨床試験を経て、それらを絞り込んでいった。最も有望な候補であるDRP-104は、元のDONに2つの化学基を付加したものである。

がん細胞では、これらの化学基が2種類の特定の酵素(エステラーゼとセリンプロテアーゼ)によって分解され、DONを遊離させる。DONはエネルギー産生を目的とするグルタミン分解に関わる複数の酵素に結合して阻害できる。しかし、正常腸細胞内の酵素は、付加された化学基のうち1つだけしか分解しない。その結果、DRP-104は不活性な分子のままで、DONを遊離させない。

ヒトの腸内代謝を再現するように遺伝子操作したマウスにリンパ腫細胞を移植して検証したところ、腫瘍内のDONの量は血液内の量の6倍で、腸内の量の11倍であった。

逆に、腸内の不活性分子の量は血液内の量の6倍で、腫瘍内の量の15倍であった。同様の結果は、乳がん、大腸がん、および肺がん細胞移植マウスでも確認された。

追加実験で、DONとDRP-104のいずれも、マウスにおいて、ヒトリンパ腫細胞から形成された腫瘍を2週間の投与で消失させた。しかし、初期の臨床試験で認められた通り、DONはマウスの腸に深刻な損傷を与え、重度の体重減少や死に至ることもあった。一方、DRP-104投与マウスではいずれも、消化管に深刻な損傷は認められなかった。

Slusher 氏が参加し、Jonathan Powell医学博士(ジョンズホプキンス大学)が過去に主導した研究で、DRP-104が抗腫瘍免疫応答にも影響を与える可能性が示唆された。その研究で、グルタミン阻害によりがん細胞が死滅すると同時に、ある種のT細胞は別のエネルギー産生経路に切り替え、より活性化することが明らかになった。

そこで、本研究において研究者らは DRP-104+免疫チェックポイント阻害薬併用療法試験も実施し、この併用療法がいずれかの単剤療法と比較してマウスの腫瘍を大幅に縮小させる効果があることを突き止めた。この併用療法を受けたマウスでは、生存期間も延長した。

また、この併用療法で腫瘍が消失したマウスに、2カ月後に同じがん細胞を再移植したところ、その免疫系が危険を察知し、がん細胞を増殖する前に排除した。DRP-104は免疫記憶を呼び起こし、次に腫瘍細胞を殺傷するCD8+T細胞を増加させ、再発に対するワクチンとして効果的に機能しているとSlusher氏は述べた。

DRP-104の早期臨床試験

現行のヒト臨床試験でも同様の手法で、DRP-104+免疫チェックポイント阻害薬アテゾリズマブ(販売名:テセントリク)併用療法や単剤療法の試験を実施している。マウスを用いた他のいくつかの研究でも、代謝拮抗薬+免疫チェックポイント阻害薬(アテゾリズマブなど)併用療法ではいずれかの単剤療法と比較して、より強い抗腫瘍免疫応答が得られることが示唆されたとSlusher氏は解説した。

「これが(早期)臨床試験でどのように作用するかの確認は重要でしょう」とChen氏は述べ、グルタミン代謝は腸以外の臓器でも重要な役割を果たしているので、DRP-104が遊離させるDONの量が他の組織で問題を引き起こすかどうかは、まだ解明されていないと解説している。

しかし、DRP-104がDONによる他の臓器や組織の損傷を回避できるなら、 「この薬剤にとって本当に心躍る前進になると思います」とChen氏は言う。

プロドラッグという手法を用いる、DONのように有望だが副作用が許容できない他の薬剤の再検討は、確かに追求する価値があるとして、Slusher氏は次のように述べた。

「これが、私たちの研究室が現在行っていることです。私たちは(抗がん)活性を有するが、毒性が高い他の化合物を見直し、それらが臓器に損傷を与えずに、腫瘍に作用させられるかどうかを確認しているところです」。

 

監訳:野長瀬祥兼(腫瘍内科/市立岸和田市民病院)

翻訳担当者渡邊 岳 

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