患者自身の抗体が免疫療法薬の効果を高めるカギか

患者自身の抗体が免疫療法薬の効果を高めるカギか

フレッドハッチンソンがんセンター

一部のがん患者は「自身の補助薬」を産生している、今後の治療モデルになるかー Nature誌

従来自己免疫疾患と関連付けられてきた自己抗体(免疫タンパク質)が、がん患者の免疫療法薬への反応に重大な影響を与える可能性があることが、画期的な研究により明らかとなった。

7月23日、Nature誌で発表されたこの研究は、なぜチェックポイント阻害薬が一部の患者には効果がある一方で、他の患者には効果が見られないのか、どのようにすれば多くの患者が効果を得られるのか、という現代の腫瘍学における難題に対する解決の糸口を示すものであった。

「私たちの解析によって、自然発生的に生じる特定の自己抗体が、腫瘍縮小の確率を劇的に高めることがわかりました」と、本研究の上級著者であり、フレッドハッチンソンがん研究センターの准教授であるAaron Ring医学博士は述べる。「中には、自己抗体によって免疫チェックポイント阻害薬への奏効率が5~10倍にまで高まったケースもありました」

本研究は、自己抗体が、がんの弱点を明らかにする鍵となり、新たな治療標的の手がかりとなる可能性を示している。

自己抗体とは、免疫系が産生するタンパク質であり、自己の組織を認識する。一般的には、ループスや関節リウマチのような自己免疫疾患を引き起こす有害な因子として知られているが、近年の研究では一部のケースで健康上の利益をもたらす可能性も指摘されている。

「長らく自己抗体は自己免疫疾患における“悪役”とされてきましたが、実は強力な”内蔵型治療薬”としても働くことがわかってきました」と、フレッドハッチ免疫療法部門のアンダーソンファミリー寄付講座教授でもあるRing氏は述べた。「私の研究室ではこの“未知の薬理作用”を解明することで、これら生体内の分子をがんやその他の病気の新たな治療へ転換する研究を進めています」

Nature誌に掲載された今回の研究では、Ring氏らは自身が開発したREAP(細胞外抗原迅速プロファイリング)というハイスループットアッセイ(※大量に効率よい解析を可能にする手法)を用いて、免疫チェックポイント阻害薬を投与されている374人のがん患者、および131人の健常者の血液サンプルから6000種類以上の自己抗体をスクリーニングした。

免疫チェックポイント阻害薬は、免疫系ががんを認識して攻撃するもので、メラノーマや非小細胞肺がんなどさまざまながんの治療を一変させた。しかし、すべての患者がこの治療に反応するわけではなく、多くの場合その抗腫瘍効果は不完全で、根治には至らない。

患者および健常者から収集された血液サンプルを用いたREAP解析では、患者の自己抗体値は、健常者よりも著しく高いことがわかった。

重要なのは、特定の自己抗体は良好な臨床転帰と強く関連しており、免疫療法薬の有効性を高める働きをしていた可能性があることである。

たとえば、インターフェロンと呼ばれる免疫シグナルを遮断する自己抗体は、免疫チェックポイント阻害薬によるより良好な抗腫瘍効果と関連していた。この発見は、インターフェロンが過剰になると免疫系が疲弊し、免疫療法の効果が低下することを示す他の研究結果と一致している。

「一部の患者さんでは、免疫系がいわば自分で自らの補助薬を生成していたのです」とRing氏は説明した。
「彼らの自己抗体がインターフェロンを中和し、それによってチェックポイント阻害薬の効果が増強されました。この発見は、他のすべての患者さんに対してもインターフェロン経路を意図的に調整する併用療法の明確な指針となります」

すべての自己抗体が有益であるわけではない。研究チームは、チェックポイント阻害薬の効果を低下させる自己抗体も複数特定しており、それらは抗腫瘍反応に必要な重要な免疫経路を妨げている可能性がある。有害な自己抗体を除去または抑制する方法を見つけることは免疫療法の効果をさらに高める新たな可能性を切り開くことにつながる。

「これはまだ始まりに過ぎません」とRing氏は語る。「現在、私たちは他のがん種や治療にも研究を拡大しており、自己抗体を利用したり回避したりすることで、より多くの患者さんが免疫療法薬の効果が得られるよう模索しています」

本研究は、マークがん研究財団、Pew慈善信託財団、およびフレッドハッチンソンがん研究センターへの寄付者から資金提供を受けて実施された。Ring氏は、本研究で用いられたREAP技術の商品化ライセンス保有企業であるSeranova Bioの創設者および取締役でもある。

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※上記の研究から商業化可能な成果が得られた場合、フレッドハッチンソンがん研究センターおよびそれに貢献した研究者は、将来の商業化によって利益を得る可能性がある。

  • 監修 高光恵美(生化学、遺伝子解析)
  • 記事担当者 平沢沙枝
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  • 原文掲載日 2025/07/23

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